職場で手洗いをする時に「爪ブラシ」を使っているけど、ほんとに効果はあるのかな?
食品工場や給食施設で働いている人であれば、手洗い場に爪ブラシがあるのではないでしょうか。
爪ブラシについては様々な情報があり、使用を推奨するものもあれば、逆に使用しない方がよいと言っているものもあります。
「爪ブラシは本当に効果があるの?」や「使わない方がいいの?」というような疑問をお持ちではないでしょうか。
そんな疑問にお答えできるよう、この記事では日本とアメリカの爪ブラシの状況について紹介します。
日本で爪ブラシは推奨されているの?
まず、食品衛生法を見てみると「爪ブラシ」についての記載は全くでてきません。
そこで、厚生労働省のガイドラインを見てみましょう。
大量調理施設衛生管理マニュアル(同一メニューを1回300食以上又は1日750食以上を提供する給食施設などが対象)では、手洗い設備に「爪ブラシ」を置いておくこととなっています。
(2) 施設設備の管理
⑥ 手洗い設備には、手洗いに適当な石けん、爪ブラシ、ペーパータオル、殺菌液等を定期的に補充し、常に使用できる状態にしておくこと。
大量調理施設衛生管理マニュアル(平成29年6月16日)
しかし、同マニュアルの手洗い方法には「爪ブラシ」の使用について書かれていません。
(手洗いマニュアル)
1. 水で手をぬらし石けんをつける。
2. 指、腕を洗う。特に、指の間、指先をよく洗う。(30秒程度)
3. 石けんをよく洗い流す。(20秒程度)
4. 使い捨てペーパータオル等でふく。(タオル等の共用はしないこと。)
5. 消毒用のアルコールをかけて手指によくすりこむ。
(本文のⅡ3(1)で定める場合には、1から3までの手順を2回実施する。)
大量調理施設衛生管理マニュアル(平成29年6月16日)
爪ブラシを置いておかなければならないということは、当然手洗いのときに使うことになるのですが、使用の実施や方法は各施設に任されているのでしょうか。
また、厚生労働省の他のガイドライン、例えば飲食店向けのガイドラインでは、「爪ブラシ」については触れられていません。
次に文部科学省の学校給食向けのガイドラインを見てみましょう。
「学校給食調理場における手洗いマニュアル」では、爪ブラシを使った手洗いの方法が説明されています。
また、「学校給食調理従事者研修マニュアル」では、爪ブラシを使う重要性についても書かれています。
(4)なぜ個人用爪ブラシが必要なのか?
学校給食調理従事者研修マニュアル Step3 手洗い設備の充実
- 爪の間には、手指に付着している細菌の80~90%以上が存在している。それらを普通の手洗いによって除去するのは難しいため、爪ブラシを使って手洗いを行う必要がある。
- 爪ブラシを複数の人で共用すると、手指に付着していた細菌やウイルスが他の人にも付着し、汚染を拡大することになる。
「調理場における洗浄・消毒マニュアル」では、下のように「爪ブラシの管理方法」についても説明されています。
【爪ブラシ】
①洗剤を用いて揉み洗いする。
②流水ですすぐ。
③次亜塩素酸ナトリウム200ppm溶液に5分程度浸漬し、流水ですすぐ。
④ホルダーなどに掛けて乾燥しやすい状態で保管する。
【爪ブラシの管理の注意点】
※個人用のものを用意し、共用しないこと。
※乾燥しやすいように管理すること。
ひとことアドバイス
爪ブラシは、1人あたり複数個用意し、当日一度使用したものは洗浄・消毒してから使用することが、より望ましい。
調理場における洗浄・消毒マニュアルPart2 第2章 施設の洗浄・消毒マニュアル
手洗いの時に爪ブラシを使うことは、微生物を取り除くのに効果があります。一方で、爪ブラシをきちんと管理しないと、爪ブラシ自体が菌の温床となってしまい、逆に手を汚染してしまうことがあります。
そのため、文部科学省のガイドラインのように、爪ブラシの管理方法まで示してくれているのは、大変参考になります。
以上より、日本では飲食店などにおいては、爪ブラシの使用は必須ではなく、通常の手洗いをしっかりと行うことが大切のようです。
そして、学校給食では爪ブラシの使用が推奨されており、管理方法についても丁寧に説明がされています。
そのため、飲食店や食品工場で爪ブラシを使用する際は、学校給食のガイドラインを参考にするのがよさそうです。
アメリカでの爪ブラシの状況
ここからはアメリカの状況です。
アメリカの食品安全規制のテキストであるFDA(米国食品医薬品局)の「Food Code」で爪ブラシがどのように書かれているか見てみましょう。
Food Codeをよく知らない方は、以下の記事をご覧ください。
Food Codeの「3-301.11 Preventing Contamination from Hands.(手からの汚染を防ぐ。)」に爪ブラシの記載があります。
(E) 高リスクグループ以外に食事を提供する施設の従業員は以下の場合であれば、RTE食品(調理済み食品)に、素手で触ることができる。
- 事前に健康局の承認を得ていること。
- 以下の内容を含む手順書が施設に保管され、健康局からの求めに応じて提示できること。
- 素手で触れるRTE食品のリスト
- 手洗い設備が適切に設置され、適切な位置にあり、適切な備品を備え、適切に維持されており、使用しやすい場所にあり、素手でRTE食品に触れる作業場所の近くにあることを示す図などの情報
- 従業員の体調不良時の対応に関する文書があること。
- 素手でRTE食品に触ることのリスクや適切な手洗いなどに関する従業員教育の文書があること。
- 営業時間中に従業員の手洗いが適切に行われていることを示す文書があること。
- 従業員が素手でRTE食品に触る際に、素手によって生じる危害要因(ハザード)に対する追加の措置を取るため、以下の管理手段のうち 2 つ以上を使用していることを示す文書があること。
- 手洗いを2回行う
- 爪ブラシを使用する
- 手洗いの後に消毒薬を使用する
- 従業員が体調不良の時に働かないことを支援または奨励するプログラム(有給休暇のなど)がある
- その他健康局が承認した管理手段
- 上記1~6が守られていない場合に、是正措置が取られることを示す文書があること。
素手でサラダなどのRTE食品に触れる際には、それに伴うリスクを管理するための様々な文書を作成しなければならないこと、そして6.のaからeのうち、2つの対策を取らなければならないとなっています。
そして、その対策の一つが「爪ブラシ」です。
ここでポイントなのが、爪ブラシはあくまでハザードを管理するための手段の一つに過ぎない。そして、素手で触ることのリスクをきちんと理解し、従業員に対して正しい手洗いや素手で触ることのリスクを教育しなければならないということです。
まさに「HACCPを行わなければならない」ですね。
素手で触ることで起こる食中毒を防ぐには1から7を総合的に行う必要があるということです。
爪ブラシの有効性について
Food Codeで爪ブラシを使用する場合を紹介しましたが、爪ブラシの有効性については書かれているのでしょうか。
実はFood Code内にもう1カ所「爪ブラシ」について書かれている箇所があります。
「Annex 3 Public Health Reasons/Administrative Guidelines(付属文書3 公衆衛生上の根拠、行政向けガイドライン)」の「 2-301.12 Cleaning Procedure.」です。
付属文書3には、Food Code本文の根拠や考え方が書かれています。Food Codeの構成についてはこちらの記事も参考にしてください。
少し長いので概要を下にお示ししました。
微生物が最も集中しているのは、手の爪の周辺とその下である。
爪の下は、手の中で最も微生物が集中している部分であり、そして手の中で最も微生物を取り除くことが難しい部分でもある。
爪ブラシは、適切に使用されれば、手のこの部位の微生物の除去に効果的であることがわかっている。
使い捨ての爪ブラシを適切に使用するか、従業員ごとに専用の爪ブラシを使用することで、手指の微生物を最大105減少させることができる。
手洗いの手順全てが重要ではあるが、特に摩擦と水が重要な役割を果たす。そのため、適切な手洗いでは、手をこする時間が非常に重要である。
通常の手洗いでは102~103の微生物を減少できる。
Annex 3. Public Health Reasons/Administrative Guidelines 2-301.12 Cleaning Procedure.
このように、爪ブラシの有効性について、Food Codeでも説明されています。
文部科学省のマニュアルの内容とほぼ同じですね。
「適切に使用されれば」となっており、爪ブラシの管理が大切だと分かります。
爪ブラシの管理方法として、「使い捨ての爪ブラシを適切に使用するか、従業員ごとに専用の爪ブラシを使用すること」が挙げられていますが、文部科学省のマニュアルにあったような細かな管理方法までは書かれていません。
また、Food Code以外でも、「爪を短く保ち、手洗いの際に石けんと爪ブラシを用いることが、手の微生物を除去する最良の方法である」と別の研究でも示されています。
そのため、爪ブラシの基本的な考え方は日本と同じで、「適切に管理して使えば有効」ということです。
この記事では日本とアメリカの爪ブラシの状況について紹介しました。
何かをきれいにするための道具が実は汚染源だったということはよくあります(掃除用具、スポンジ、果物の洗浄ブラシなど)。
爪ブラシも同じです。効果はありますが、適切な管理を行えないのなら、別の方法で手からの汚染を防ぐのがよさそうです。
下の記事でも解説しましたが、手洗いはあくまでも食中毒を起こさないための手段であって、それが目的ではないことを忘れないでください。
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