「まさかタマネギが!?」食のプロでも知らない食中毒の過去事例と汚染の原因を解説!

「まさかタマネギが!」食のプロでも知らない食中毒の過去事例と汚染の原因を解説!

アメリカで、マクドナルドのハンバーガーに使われたタマネギが原因で食中毒が発生したというニュースを見たよ。タマネギが原因で食中毒が起きることなんてあるの?

日本のマスコミでも報道されたため、食中毒に普段興味がない人でも知っているニュースではないでしょうか。

報道にあるように、アメリカのマクドナルドで販売された「クォーターパウンダー」を食べた複数の人が、腸管出血性大腸菌に感染しました。

Quarter Pounder hamburger
画像:CDC

原因食品は現在調査中ですが、このハンバーガーに使われた生の「タマネギ」が汚染されていた可能性が高いとFDAは発表しています。

これを受け、マクドナルドでは患者が発生している州での「クォーターパウンダー」の提供と「生のタマネギ」の使用を中止しました。

さらに、マクドナルドにタマネギを供給していたTaylor Farmsはタマネギの自主回収を行っています。

また、バーガーキングといったほかのチェーン店でも生鮮タマネギの提供を中止しています。

以下が現在までに判明しているこの食中毒の情報です。

患者数75人
入院者数22人
死亡者数1人
患者の発症日2024年9月27日~10月10日
患者が住む州の数13州
 推定される原因食品クオーターパウンダーに使われたタマネギ
 原因菌E. coli O157:H7
CDC(2024年10月26日現在)
Where sick people live
CDCの画像を一部翻訳

普段から飲食店や工場、小売店などで食品安全に関わっている人でも「タマネギが原因で食中毒が起きるの?」と疑問に思っているのではないでしょうか。

実は、タマネギが原因の食中毒は過去に何度も発生しています。

そこでこの記事では、過去にタマネギが原因となった食中毒3事例の概要と、なぜタマネギが食中毒菌に汚染されるのかを紹介します。

目次

過去の事例の紹介

近年発生した食中毒3件の概要を紹介します。

①2023年 生の角切りタマネギに関連したサルモネラ食中毒

3 lb bag diced yellow onions
画像:CDC
患者数80人
入院者数18人
死亡者数1人
患者の年齢1歳未満~90歳(中央値:42歳)
  患者の発症日2023年8月2日~11月11
患者が住む州の数23州
 原因食品Gills Onionsが販売した生の角切りタマネギ
原因菌Salmonella Thompson
CDC

②2021年 輸入タマネギに関連したサルモネラ食中毒

onions
画像:CDC
患者数1,040人
入院者数260人
死亡者数0人
患者の年齢1~101歳(中央値:38歳)
  患者の発症日2021年5月31日~2022年1月1
患者が住む州の数39州+コロンビア特別区、プエルトリコ
 原因食品メキシコから輸入された生の赤、白、黄タマネギ
原因菌Salmonella Oranienburg
CDC

③2020年 赤タマネギに関連したサルモネラ食中毒

Red onion
患者数1,127人
入院者数167人
死亡者数0人
患者の年齢1~102歳(中央値:41歳)
  患者の発症日2020年6月19日~9月11日
患者が住む州の数48州
 原因食品カリフォルニア州で生産された赤タマネギ
原因菌Salmonella Newport
CDCカナダにおいても患者515人、入院79人、死亡3人が報告されていますが、この表には含めていません。)

短い期間に、患者数が1,000人を超える食中毒が2度も発生しているのですね。患者の発症日の期間が3~6か月と長期間にわたっているのも特徴でしょうか。

どうしてタマネギが汚染されるのか

肉や魚でもないのに、どうしてタマネギが食中毒菌に汚染されるのですか?

栽培に使用する水が汚染されていたことが原因の一つとして指摘されています。

先ほど3つめに紹介した「2020年 赤タマネギに関連したサルモネラ食中毒」では、タマネギ畑で使用された「灌漑水」がサルモネラ菌に汚染されていた可能性が高いと考えられています。

Green onion field, agricultural landscape

FDAの調査の結果、灌漑水の水源やその近くで羊の放牧が行われていました。また、動物の糞が落ちていたことから動物や鳥の侵入があったことが疑われました。

動物の糞には、腸管出血性大腸菌やサルモネラといった食中毒菌が存在することがあり、糞→灌漑水→タマネギと汚染が広がった可能性が指摘されています。

また、タマネギの包装施設においても、動物の侵入の痕跡(糞など)があったほか、設備の食品接触面の洗浄・消毒が適切に行われていませんでした。そのため、包装施設での汚染も否定できないとされています。


2つ目に紹介した「2021年 輸入タマネギに関連したサルモネラ食中毒」では、タマネギが汚染された原因として、2021年に生産地で発生した一連の悪天候が考えられています

メキシコの当該タマネギの生産地では、2021年に長期にわたる干ばつ、砂嵐、洪水などが発生しました。

土やほこり中には病原菌がいることが知られています。そのため、汚染された土やほこりが風に乗ってタマネギ畑まで到達し、タマネギを汚染した可能性が考えられます。

また、大雨により発生した洪水によって、汚染された土や排水がタマネギ畑まで到達し、タマネギを汚染した可能性も指摘されています。

ここで紹介した原因はあくまでも推定になります。調査の結果、灌漑水や土壌、設備などの環境サンプルから、原因となった菌と同一の菌は検出されませんでした。

野菜が原因の食中毒の遡り調査は難しい

どうして汚染の原因が特定されないのですか?

タマネギに限らず野菜を原因とする食中毒調査には様々な困難が伴います。ここでは代表的な3つの理由を紹介します。

①食べたものの正確な情報を得ることが難しい

みなさんは今日から2週間前に食べた食品をすべて遡って挙げることはできますか?

外食したときや、寿司やステーキ、サラダといったメインの食事内容であれば覚えているかもしれません。

しかし、そこに含まれていた原材料、付け合わせ、薬味まで覚えている人はいないのではないでしょうか。

現在調査中のマクドナルドの食中毒も同様で、「マクドナルドで食事をした」や「クォーターパウンダーを食べた」は覚えているかもしれません。しかし、「タマネギを食べたこと」や「食べたタマネギの種類」を覚えている人はほぼいないでしょう。

cannot_remember

「タマネギ」を含め野菜は様々な食品の原材料に使われます。

そのため、保健所が患者から過去に食べた食品の聞き取り調査を行ったとしても、正確な情報を得ることが難しいです。

このようにタマネギは肉や魚などと比べて、そもそも「疑わしい食品」になることすら難しいです。

②時間がかかる

タマネギが原因食品と疑われるまでにも時間がかかりますが、原因食品と疑われた後にも、さらに時間がかかります。

具体例を見てみましょう。

2つ目の事例の「2021年 輸入タマネギに関連したサルモネラ食中毒」では、患者の家にあった「調味料」から食中毒の原因菌と同じサルモネラが検出されました。

そのため、FDAはこの調味料が疑わしいとして、この製品に含まれていた原材料の遡り調査を行いました。

この製品には、タマネギだけでなく、コリアンダー、ライム、トマト、トウガラシが含まれており、それぞれの原料の遡り調査を行うことになります。

下に示したのはこの遡り調査の際の「タマネギ」だけの流通経路を示したものです。見てもらえれば分かるように、非常に複雑なことが分かります。そして、他の原材料一つ一つについても、同じように遡り調査を行うことになります。

Traceback diagram for multistate outbreak of Salmonella Oranienburg
Multistate outbreak of Salmonella Oranienburg infections linked to bulb onions imported from Mexico – United States, 2021, Food Control Volume 160, June 2024, 110325, Fig7

このように、数ある原材料からタマネギが原因食品であると疑うことの難しさがあり、そして遡り調査を行ったとしても複雑なサプライチェーンを遡るため時間が非常にかかります。

③すでに収穫が終わっている

①、②で紹介したように、タマネギを疑わしい食品と判断し、さらに遡り調査を行うとなると、時間がかなりかかります。

2つ目の事例「2021年 輸入タマネギに関連したサルモネラ食中毒」では、最初の患者が発症してから約5か月後に生産地の立ち入りを行っています。

そのため、汚染が起こったかもしれない加工所、包装・保管施設、農場にFDAがたどり着く頃には、収穫が終わっていることがほとんどです。

FDAの調査では、それぞれのポイントで汚染が起こる可能性があったかの現場検証、従業員からの聞き取り、書類の確認、サンプリング検査などを行います。

しかし、収穫が終わっている場合、調査官たちは、すでに収穫が終わった後の農場、稼働していない施設に立ち入り、汚染が起こった原因の調査を行わなければなりません。

時間が経てばたつほど、栽培、収穫時の状況とは異なり、人の記憶はあいまいになります。さらに、サンプリング検査を行ったとしても、問題となった病原菌を検出できる可能性は限りなく低くなります。

このような理由により、野菜が原因の食中毒の調査において、汚染が起こった原因の特定は難しくなります。

おわりに

以上が、近年発生したタマネギを原因とする食中毒事例の紹介です。

タマネギを原因とする食中毒は珍しくないことがよく分かりました。

今回はタマネギの紹介でしたが、タマネギ以外にも野菜や果物が原因となった食中毒は多く報告されています。

そして、この記事で紹介した汚染の原因以外にも、野菜や果物は収穫前、中、後の様々な段階で汚染される恐れがあります。

また、日本においてタマネギが原因となった食中毒は(私が知る限り)報告がありません。しかし、「食中毒の報告がない」=「食中毒が起きていない」ではありません。

日本でもタマネギ畑の近くに動物がいることがありますし、輸入のタマネギもあります。

そのため、タマネギを含めた野菜や果物を扱う施設の皆さんについては、肉や魚と同じように汚染されていると考え、食中毒対策(つけない、増やさない、やっつける)を実施する必要があります。

世界トップクラスの衛生レベルであるマクドナルドでさえ食中毒が起きたわけです。自分の施設でも起こりえると考え対策を取りましょう。

最後に、この記事で遡り調査の難しさを紹介しましたが、FDAはこれらの課題を克服するため、様々な取組を行っています。下の記事もぜひご覧ください。

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