食品安全の専門家が「パッケージサラダ」を警戒する理由 ~アメリカで起きたリステリア食中毒2事例から考える~

食品安全の専門家が「パッケージサラダ」を警戒する理由 ~アメリカで起きたリステリア食中毒2事例から考える~

食品安全の専門家は「パッケージサラダ」を買わないというニュースを見たよ。安全だと思っていたけど、食中毒のリスクがあるのかな?

アメリカでは、忙しい生活スタイルや健康志向の高まりを背景に、パッケージサラダの消費が年々増えています。

パッケージサラダ:野菜などを食べやすくカットし、鮮度を保つように包装された「洗わずにそのまま食べられるサラダ」のこと。日本では「カット野菜」と呼ばれることもあります。

Dole recalled products
パッケージサラダ(画像:FDA

一見とても安全そうなパッケージサラダですが、実は食中毒のリスクが比較的高い食品であることが、これまでの調査や事例から指摘されています。

食品安全に関わる人であれば、アメリカではロメインレタスなどを含んだパッケージサラダを原因とした腸管出血性大腸菌やサルモネラによる食中毒が、これまでに繰り返し発生してきたことをご存じだと思います。

実は日本でも、パッケージサラダの消費量は増え続けており、この10年で2倍以上に拡大しています。

そして日本ではほとんど知られていませんが、海外ではパッケージサラダが原因となった「リステリア・モノサイトゲネス」による食中毒も数多く報告されています。

すぐに消費されるパッケージサラダでもリステリア食中毒が起きるのですね。

実際、2015年から2024年の間に、アメリカではパッケージサラダに関連するリステリア食中毒が8件(疑い4件、確定4件)発生しました。

さらに、2015年1月から2024年5月までの間に、約240製品のパッケージサラダが、リステリア汚染の恐れがあるとして自主回収されています。

そこでこの記事では、「Two Concurrent Outbreaks of Listeria monocytogenes Infections Linked to Packaged Salads, United States, 2014–2022」という論文をもとに、アメリカで同じ時期に発生した「パッケージサラダ」が原因となった2つの異なるリステリア食中毒事例を紹介します。

この記事を読むことで、パッケージサラダにはどのような食中毒リスクがあるのか、そして私たちはどんな点に注意すればよいのかが具体的に見えてくるはずです。

目次

食中毒①:別の工場・別の時期のサラダから同じ菌を発見

Figure 1. Cases of Listeria monocytogenes infection in outbreak A (n = 18)
患者18人の居住州(参考文献の図1

2019年1月、CDC(米国疾病予防管理センター)は、5人の患者から検出されたリステリア・モノサイトゲネスが、遺伝的にほぼ同一であることに気づき、調査を開始しました。

患者への聞き取り調査から共通する食品を探しましたが、明確な感染源は特定できず、この時点では調査はいったん終了しました。

患者数が少なく、なかなか原因食品までたどり着けなかったのですね。

その後、同じ年の12月、新たに4人の患者から、再び非常によく似たリステリア・モノサイトゲネスが検出されました。これを受け、CDCは2回目の調査を開始します。

患者調査を進めたところ、多くの患者がパッケージサラダを食べていたことが分かりました。

ブランド名を覚えていた3人のうち、2人は企業Xが製造した製品を、1人は小売チェーンKのブランド製品を食べていたと回答しました。

そこでオハイオ州政府は、患者が利用した小売店で販売されていたパッケージサラダ31検体をサンプリングして検査しましたが、原因となったリステリア・モノサイトゲネスは検出されませんでした。

一方で、企業Xのオハイオ州工場で製造された、小売チェーンKブランドの「包装されたコールスロー」から、別のリステリア属菌である「Listeria welshimeri」が検出されました。

リステリア属菌の検出は、その製造環境が、食中毒を引き起こすリステリア・モノサイトゲネスにとっても、生存・増殖しやすい条件である可能性を示しています。

FDAは2020年1月、企業Xのノースカロライナ州およびオハイオ州の工場を調査しましたが、原因となったリステリア・モノサイトゲネスそのものは発見できませんでした。

その後、新たな患者も確認されなかったため、2回目の調査も終了しました。

この時点では、企業Xが製造したパッケージサラダが感染源である可能性は否定できないものの、決定的な証拠は得られていなかったのですね。

状況が大きく動いたのは、2021年10月でした。ジョージア州政府の通常のサンプリング検査(食中毒調査に関係のないサンプリング検査)により、企業Xのノースカロライナ州工場で製造されたパッケージサラダから、リステリア・モノサイトゲネスが検出されたのです。

これを受け、企業Xは該当製品の自主回収を実施しました。

Dole recalled products
回収された製品の一つ(画像:FDA

さらに2021年11月、新たに7人の患者から、これまで検出されていた菌と非常によく似たリステリア・モノサイトゲネスが見つかり、CDCは3回目の調査を開始しました。

2021年12月には遺伝子解析の結果、ジョージア州政府がサンプリングしたパッケージサラダから検出された菌と、患者から分離された菌が極めて近縁であることが判明しました。

最終的に、別々の工場で、7週間の間隔をあけて製造されたサラダから、同一の菌が検出されました。

企業Xが汚染の原因を詳しく調査したたところ、問題となった製品に使用されていたアイスバーグレタスの収穫に、共通の「収穫機」が用いられていたことが判明しました。

Iceberg lettuce
アイスバーグレタス

そして、その収穫機から患者と同じ「リステリア モノサイトゲネス」が検出されました。

このことから企業Xは、収穫機が汚染されており、収穫工程を通じて製品汚染が起きたと結論づけました。

つまり、畑で使われていた収穫機が汚染され、そこからサプライチェーン全体に菌が持ち込まれたということですね。

これを受け企業Xは、この収穫機を廃棄するとともに、洗浄・衛生管理の強化や、全ゲノム解析(WGS)を用いた早期監視などの再発防止策を導入しました。

食中毒②:農業環境に由来するリスク

Figure 3. Cases of Listeria monocytogenes infection in outbreak B (n = 10)
患者10人の居住州(参考文献の図3

2021年10月、CDCは10人の患者から検出されたリステリア・モノサイトゲネスが、互いに非常によく似ていることが判明したため、調査を開始しました。

遺伝子解析の結果、この菌は、過去にUSDA(米国農務省)が行った調査で、農業用水や土壌から採取されたリステリア・モノサイトゲネスと近縁であることが分かりました。

このことから、カリフォルニア州サリナス・バレーで栽培された農産物が、感染源として疑われました。

2021年12月、ミシガン州が行った通常のサンプリング検査により、小売店で販売されていたパッケージサラダからリステリア・モノサイトゲネスが検出されました。

Fresh Express recalled prodtucts
回収された製品の一つ(画像:FDA

この製品は、カリフォルニア州サリナス・バレー産の原料を使用し、企業Zが製造したパッケージサラダでした。そして、製品から検出された菌は患者から分離された菌と遺伝的に近いことが確認されました。

また、患者への聞き取りでは、調査が可能だった5人のうち4人がパッケージサラダを食べており、その中には企業Zの製品を食べた人も含まれていました。

この製品は企業Zのイリノイ州工場で製造されていたため、FDAは同工場に立ち入り、約100カ所の環境ふき取り検査を実施しました。しかし、検査結果はいずれもリステリア属菌陰性でした。

それでも、ミシガン州での製品サンプリングの結果を重く受け止め、企業Zはイリノイ州工場での生産を停止しました。あわせて、徹底した洗浄と衛生管理の見直しを行い、同工場で製造された製品について自主回収を実施しました。

なぜパッケージサラダで食中毒が起きるのか

パッケージサラダに使われる野菜は、洗浄・消毒されてから袋詰めされるので、菌が付着していても除去されると思います。どうして食中毒が起きるのでしょうか?

今回紹介した2つの事例では、パッケージサラダがどの段階で、どのようにリステリア・モノサイトゲネスに汚染され、菌が増殖し、食中毒に至ったのかが完全に解明されたわけではありません。

しかし、事例①では収穫に使用された器具、事例②では農業環境中の水や土壌などから、葉物野菜への汚染が起きた可能性が示されています。

一般に、パッケージサラダの製造工程では、葉物野菜は洗浄・消毒された後に包装されます。

それにもかかわらず、リスクが残る理由の一つとして、葉物野菜がリステリアを植物内部に取り込む可能性があるためです。

ロメインレタスやアイスバーグレタスなどでは、菌が葉の表面だけでなく、組織内部に侵入することが示されています。このような部位に入り込んだ菌は、現在一般的に行われている洗浄・殺菌工程では、除去が非常に困難だと考えられています。

そのため、リステリア対策は「収穫後」の洗浄・消毒だけでは不十分であり、「収穫前」から野菜が食中毒菌にさらされないよう管理することが、極めて重要な予防策となります。

具体的には、種子、農業用水、土壌、収穫器具といった農業環境全体の管理が欠かせません。

lettuce field

また、事例①では、原因となったリステリア・モノサイトゲネス自体は検出されなかったものの、製造環境や製品からリステリア属菌が検出されました。

これは、施設内にリステリアが定着しており、洗浄・消毒後の工程で野菜が再汚染される可能性があったことを示唆しています。

さらに、リステリア・モノサイトゲネスは低温でも生存・増殖できる菌です。

そのため、冷蔵保存された葉物野菜中でもリステリアは生存・増殖することができます。

特に、多くの設備や表面に接触する工程を経るパッケージサラダでは、加工度の低い野菜よりも汚染のリスクが高く、その後の冷蔵保管中にリステリアが増える可能性があります。

根本原因を解決しない限り、汚染は長期にわたる

この食中毒事例の行政視点での特に重要なポイントは、リステリア・モノサイトゲネスによる汚染は、根本原因を除去しない限り、自然環境や設備の中で長期間残り続け、数年にわたって患者が発生し得るという点です。

今回紹介した食中毒①と②では、8年間で30人が発症し、27人が入院、4人が死亡しました。これは、単発の事故ではなく、継続的な汚染が背景にあった可能性を強く示しています。

食中毒が発生すると、事業者は製造停止、施設の洗浄・消毒、自主回収などの対応を行います。しかし、汚染の根本原因が解決されていなければ、同様の食中毒は再び発生します。

食中毒①においては、企業Xが詳細な調査を行ったことで、汚染されていた収穫機械を突き止めました。

また、食中毒②では、USDAによる過去の調査結果から、農業環境の汚染が原因であった可能性が高いと考えられます。

もしこれらの汚染原因が特定・除去されていなかった場合、その後も「パッケージサラダ」を原因とするリステリア食中毒が、繰り返し発生していた可能性が高いのですね。

そのため、行政機関は食品事業者と連携し、汚染が起きた根本原因の調査を行い、汚染の原因を解明することが非常に重要です。

また、患者数が少なく、かつ広域に散発するリステリア食中毒の調査においては、行政機関だけでなく、民間企業が実施した全ゲノム解析(WGS)の結果と検体情報(検体の種類、採取場所など)を共有する仕組みが極めて重要な役割を果たします。

アメリカではすでに「GenomeTrakr」による情報共有の仕組みがあります。

おわりに

以上がアメリカで発生した「パッケージサラダ」が原因となったリステリア食中毒の紹介です。

パッケージサラダは、忙しい現代の生活において、とても便利で身近な食品です。健康的なイメージも強く、多くの人にとって「安全で当たり前」の存在かもしれません。

しかし今回紹介した2つの事例は、パッケージサラダが、農業環境から製造、流通、消費に至るまでの複雑なサプライチェーンの中で、リステリア・モノサイトゲネスによる汚染リスクを抱えている食品であることを示しています。

重要なのは、「洗浄・消毒しているから安全」「期限が短く、冷蔵保管しているから菌が増えない」といった単純な考え方では、このリスクを十分に管理できないという点です。

積極的にリステリアを見つけにいくアクティブな衛生管理が必要なのですね。

日本においては、パッケージサラダの消費が拡大する中で、リステリアを含む微生物リスクに対し、農業環境から製造・流通までを一体として捉えた監視体制や、データ共有の仕組みが十分に整っているとは言い切れません。

今回紹介した食中毒は、日本において今後どのようなリスク管理や制度設計が必要なのかを考えるうえで、多くの示唆を与えてくれる事例だと思います。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする

目次