アメリカと日本の食品衛生責任者を比較してみる

アメリカと日本の食品衛生責任者を比較してみる

日本では食品衛生責任者を設置しないといけないとなっているけど、海外も同じような制度があるのかな?

日本で食品関係の営業を行う場合「食品衛生責任者」を設置しなければなりません。

調理師、栄養士などの資格があればそのまま食品衛生責任者になることができます。しかし、このような資格がない場合であっても、1日の講習を受ければ誰でも食品衛生責任者になることができます

また、受講後にテストはなく、一度講習を受ければ更新の必要はありません

このように、日本ではだれでも気軽に食品衛生責任者になることができますが、海外でも同じような制度はあるのでしょうか?ある場合、どのような違いが見られるのでしょうか?

このような疑問にお答えできるよう、今回の記事では、アメリカの食品衛生責任者の資格について紹介したいと思います。

今回の記事では、日本とアメリカの食品衛生責任者の資格を比較したいと思います。

目次

アメリカの食品衛生責任者の制度

ここでは、アメリカの食品安全規制のテキストであるFDA(米国食品医薬品局)の「Food Code」で食品衛生責任者がどのように書かれているか見てみましょう。

ちなみにFood Code内では「Certified Food Protection Manager」という言葉が使われています。

日本の「食品衛生責任者」との違いを明確にするため、この記事ではアメリカの食品衛生責任者を「食品安全管理者」と訳すことにします。

2-102.12 食品安全管理者
(A) 責任者は、認定されたプログラムのテストに合格することで、必要な情報を理解していることを証明した「食品安全管理者」でなければならない

FDA Food Code 2022

2-101.11 指名

(A) 許可保有者は、責任者であるか、または責任者を指名し、かつ、営業時間中、責任者が飲食店に常駐するようにしなければならない

FDA Food Code 2022

ここでは「責任者」、「食品安全管理者」、「許可保有者」という言葉が出てきますが、すべて異なる意味ですので混同しないようにしてください。

「責任者」は施設の責任者のことで、行政による立ち入りがあった際に対応する人のことです。2-101.11にあるように、責任者は必ずしも営業許可を受けた人(許可保有者)でなくても構いませんが、営業中は必ず1人以上が施設にいなければなりません(低リスクの施設は除く)。

そして、2-102.12の規定では、「責任者」はテストに合格した「食品安全管理者」でなければならないとなっています。

つまり、食品安全管理者は営業中は必ず1人以上施設にいなければならないということになります。

責任者は保健所立ち入り時の対応や従業員が衛生的に作業を行っているかを監督しなければならないため、当然、営業中不在ではだめということですね。

認定されたプログラムとは

Food Codeの規定にある「認定されたプログラム」って何のこと?

食品安全管理者は資格ですので、講習内容やテストについて、一定レベルの質を保つ必要があります。

食品安全管理者の場合、食品保護に関する会議」(Conference for Food Protection)が認定の基準を作成しています。(食品保護に関する会議についてはこちらの記事も参考にしてください。)

その認定の基準に基づいて、第三者である「米国国家規格協会 」(American National Standards Institute)がテストの内容や実施団体の適格性を審査します。

審査の結果、基準を満たしていると判断されると、そのプログラムが認定されます。認定されたプログラムは米国国家規格協会のウェブサイトに掲載されています。

日本の場合、知事が講習会が適正かどうか認定するとなっています。しかし、認定の基準やプロセスを公開している自治体は一部を除きありません。

プログラムの認定基準を公表し、第三者による認定を行うことで、資格制度の透明性と品質を維持しているのがアメリカの特徴です。

また、日本の「調理師や栄養士の資格があれば食品衛生責任者になることができる」というような特例的な扱いはアメリカにはありません。

ServSafe®を例に資格制度を見てみる

ここで少しだけ認定されたプログラムの内容を紹介します。

認定プログラムの一つである「全米レストラン協会」の「ServSafe®」を見てみましょう。


講習とテストがセットになっており、すべてオンラインで行う場合「$179」です(今の1ドル150円の相場だと約27,000円!)。集合形式で受講することも可能で、その場合は講師が料金を設定します。

オンラインの場合、講習は8~10時間を想定しており、内容はFood Codeの最新版です。

テストは2時間で、合格するためには70%以上の正答が必要です。問題数は90問で、研究目的(点数に影響しない)の問題が10問あります。つまり、合格するためには80問中56問以上正解する必要があります。

練習問題がありましたので、試しに解いてみてください!

67. 加熱殺菌式の食器洗浄機において、最後のすすぎ工程の水温は最低何度必要か?

  1. 152℉ (67℃)
  2. 180℉ (82℃)
  3. 192℉ (89℃)
  4. 200℉ (93℃)

かなり難しいですね…。正解はFood Codeの4-501.112を見てください。


試験の言語は、オンラインでは英語、スペイン語、中国語があります。紙で試験を受ける場合は、英語、スペイン語、韓国語、中国語、フランス(カナダ)語、日本語があります。

資格は5年間有効なため、5年ごとにテストに合格しなければなりません。Food Codeが4年に1度改訂されることを考えると、妥当な有効期間ですね。

合格率が72%との記載もあるので、きちんと講習を受け理解していないと、合格できないようになっています。

多言語対応していること、有効期限があること、テストに合格しなければならないことが日本との大きな違いです。


また、なんと講師になるための試験をパスし研修を受ければ、個人でもServSafeの講師になることができます。このように民間事業者が資格制度に参入していることも面白いですね。


日本の場合、資格の有効期限はないのですが、定期的に保健所などが行う講習会を受講し、新たな知見の取得に努めなければならないという規定があります。

ハ 食品衛生責任者は次に掲げる事項を遵守すること。

(1) 都道府県知事等が行う講習会又は都道府県知事等が認める講習会を定期的に受講し、食品衛生に関する新たな知見の習得に努めること

食品衛生法施行規則別表第17 ハ

有効期間を設けず、新たな知見の習得を努力義務とすることで、うまく制度が回ってくれればよいと思います。

しかし、努力義務なら講習を受けなくていいと思う食品衛生責任者が多ければ、食品安全の新しい内容についていけなくなる恐れがあり心配です。

私もそうですが、人は義務でないのなら、わざわざ時間を使って勉強したくないと思いがちです。


今回の記事ではアメリカと日本の食品衛生責任者の制度の比較を行いました。

必ず施設に1人いる食品衛生責任者ですが、国によって大きく制度が異なりますね。

今回の記事で分かるように、日本の食品衛生責任者は、営業を開始するための第一歩として最低限の知識を身につけるためのものです。

そして、講習会を一度受講したら終わりではなく、自分自身で日々新しい情報を積極的に取り入れ、食品安全のレベル向上に努力しなければならない制度になっています。

この記事を読んでいる食品衛生責任者のみなさんは、変化が速い食品安全の内容についていけるよう、一緒に勉強していきましょう!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする

目次