

リステリア対策に取り組もうと思って、環境モニタリングを始めてみた。でも、ふきとり検査で“陽性”が出たら、何をすればいいのか分からない……
リステリア食中毒は、日本ではほとんど話題になることがありません。
一方で、欧米では食品業界において最も注意すべき食中毒リスクの一つとして位置づけられており、日常的に厳しい管理が行われています。
近年、海外で多くのリステリア食中毒や大規模な回収が発生していることを知り、「自分の施設でも対策を考えなければ」と感じている食品事業者の方も大勢いると思います。
しかし、
- 実際にどのようにリステリア食中毒が起こるのか
- 環境モニタリング(ふき取り検査)の結果をどう解釈すればよいのか
- 陽性が出たら“即自主回収”なのか
といった点について、日本語で分かりやすく書かれた資料が非常に限られているのが現状です。
そこでこの記事では、 アメリカの生鮮農産物の業界団体である「United Fresh Produce Association ※1」が発行した 「リステリア管理のガイドライン」 をもとに、 リステリア環境モニタリングの考え方や注意点を紹介します。
このガイドラインは、主に農産物やカットフルーツ/野菜を扱う事業者向けに作成されたものですが、その他のRTE食品※2を扱う事業者にとっても、非常に参考になる内容が多く含まれています。



日本の食品事業者が特に悩みやすい「リステリアをどう管理すればよいのか?」「検査結果とどう向き合えばよいのか?」といった点について、具体的で分かりやすく解説されているのが特徴です。
今回はその中から、私自身が「これは知っておいてほしい」と感じたポイントをいくつか抜粋して分かりやすく紹介していきます。
※1 現在は組織改編を経て「International Fresh Produce Association」となっています。
※2「RTE」はReady To Eatの頭文字をとったもので、加熱や調理をせずにそのまま食べられる食品を意味します。食べる前に加熱工程がないため、一度リステリアに汚染されると、食中毒を防ぐことが難しい食品です。
すべきこと vs. すべきでないこと
このガイドラインでは冒頭で、 リステリア管理において 「すべきこと(DO)」と「すべきでないこと(DON’T)」 が整理されています。
ここを読むだけで、 「リステリア管理の考え方」や「環境モニタリングの目的」、「よくある誤解」を大まかに理解できるため、まずはこのポイントを紹介します。
リステリア管理において「すべきこと」
- リスクに応じた「環境モニタリング計画」を作る
- 製品そのものが持つリスク、施設の構造や設備、日々の衛生管理(GMPs)が適切に守られているかを踏まえ、自分の施設に合った検査計画を立てて実行します。
- 「環境モニタリング」を始める前に、洗浄・消毒が適切か確認する
- 最初のふき取り検査(ベースライン調査)を行う前に、徹底的な清掃と消毒を行うことが推奨されています。
- 洗浄・殺菌の専門チームを作る
- 化学薬品の使い方や、洗浄・消毒の7つの基本ステップ(+「記録」という8つ目のステップ)を理解した専門の洗浄チームを作ります。
- 基本は「リステリア属菌」を検査する
- 日常的な環境モニタリングでは、 Listeria monocytogenes(リステリア・モノサイトゲネス)ではなく、「リステリア属菌」を検査します。モノサイトゲネスの検査は、製品そのものの検査など特別な場合に限定されます。
- 積極的に検査して「菌を見つける」
- 菌が潜んでいそうな場所を重点的に、定期的に拭き取り検査を行い、あえて陽性を見つけにいく姿勢が重要です。
- リステリアを見つけた人を「褒める」
- 陽性を見つけた従業員を罰してはいけません。 むしろ報奨し、問題を早く見つけられる職場文化を作りましょう。 その後は、訓練を受けた担当者が速やかに対応し、 再発防止策を継続的に実施します。
- 陽性時の対応を「事前に」決めておく
- 環境モニタリングを始める前に、 陽性が出た場合の是正措置(何を、誰が、どこまで行うか)を決めておきましょう。
- 根本原因に対する是正措置を行う
- 菌が検出された場所に殺菌剤をかけてすぐ再検査し、陰性になっただけでは 「問題が解決した」とは言えません。「なぜそこに菌が定着できたのか」「なぜ繰り返し検出されるのか」といった根本原因を取り除く対策が必要です。
- データを分析し、傾向を把握する
- 環境モニタリングのデータを分析して、長期的な対策(洗浄できない機器の交換、床や排水などインフラの修理、人や台車の動線の見直しなど)が必要な「繰り返し菌が検出されやすい場所」を特定します。
- 人・物の動きを評価する
- 人、製品、フォークリフト、機械器具、廃棄物、外部業者などの動線を確認し、 外部から菌を持ち込まない、施設内で広げない管理を行います。
- 製品検査を行う場合は、製品の出荷を待つ
- 製品やゾーン1(製品接触面)で「リステリア・モノサイトゲネス」を検査する場合は、結果が出るまで製品を出荷せず保管します。ゾーン1で「リステリア属菌」を検査する場合は、 必ずしも製品を保管する必要ありません。
リステリア管理において「すべきでないこと」
- 洗浄・消毒が不十分なまま始めない
- 施設の洗浄・消毒が適切でない状態で、環境モニタリンを開始してはいけません。
- 家庭用の洗剤やブラシを使わない
- 必ず業務用のブラシや化学薬品を使用し、ラベルに記載された使用方法を守りましょう。
- 「一時的な汚染」と決めつけない
- 陽性が出ても、「たまたま入ってきただけ」と安易に判断してはいけません。「探しだして、徹底的に排除する(seek and destroy)」 という姿勢で、潜伏場所や増殖しやすい場所を徹底的に探します。
- 最終製品の検査に頼らない
- 環境モニタリングにお金をかける代わりに、「管理している証拠」として最終製品の検査を行うべきではありません。 環境モニタリングの方が、時間・コストの面でもはるかに効果的です。
なぜリステリア属菌を検査するのか



【4. 基本は「リステリア属菌」を検査する】とありますが、どうして食中毒を起こす「リステリア・モノサイトゲネス」ではなく「リステリア属菌」を検査するのですか?



環境モニタリングの目的は、「リステリア・モノサイトゲネスに汚染された製品を出荷しないこと」であり、そのためには「菌が住み着ける場所」を早く見つけて排除することが最も重要です。
環境モニタリングは、製品に菌が付いたかどうかを調べる検査ではありません。
本当の目的は、排水溝、機器のすき間、清掃が行き届かない場所といった、菌が定着・増殖できる「ニッチ(微細な潜伏場所)」を見つけ出し、なくすことです。


一般的に、「あるリステリア属菌がニッチに定着できるのであれば、 モノサイトゲネスも同じように定着できる」と考えられています。
そして、リステリア属菌は「環境中でより頻繁に検出される」「検査結果がモノサイトゲネスより早く得られる」という特徴があるため、モノサイトゲネスだけを狙って検査するよりも、問題に早く気づくことができます。
そのため、リステリア属菌の検出を前提とした環境モニタリングは、より保守的(安全志向)な管理方法と言えます。
なぜなら、施設は「検出された菌が、もしモノサイトゲネスだったとしたら」という前提で、菌源を根本から排除する対応が求められるからです。



「リステリア属菌がいる = リステリア・モノサイトゲネスも“いるかもしれない”」。つまり、 より広い範囲をカバーする“指標菌”としてリステリア属菌を検査しているというイメージですね
いつ菌種を特定すべきか
リステリア属菌が検出された場合、その潜伏場所に対して「もしリステリア・モノサイトゲネスだったら」という前提で是正措置を行い、排除するのであれば、検出された菌がモノサイトゲネスか、他のリステリア属菌かを毎回特定する必要はほとんどありません。
ただし、例外として次の2つの場合があります。
1. 是正措置を行っても、リステリア属菌が繰り返し検出される場合
是正措置を実施したにもかかわらず、同じ場所や近接場所でリステリア属菌が繰り返し検出される場合、それは「偶然の一時的な汚染」又は「施設内に定着している」のどちらかである可能性があります。



これを見極めるために、追加の菌の検査を行う理由が生じます。
具体的には、菌種の特定、血清型別、PFGE、全ゲノムシーケンシング(WGS)などを用いて、繰り返し検出される菌が同じであるかどうかを調べます。
この調査の目的は、前回と同じ菌が生き残っているのか、それとも毎回違う菌が偶然入ってきているのか、を判断することにあります。
2. ゾーン1(製品接触表面)で検出し、顧客が菌種の特定を求める場合
歴史的に、食品企業はゾーン1のサンプリングを避ける傾向がありました。
その理由は、ゾーン1でリステリア属菌が陽性になると、リステリア・モノサイトゲネスであるかのように扱い、製品を出荷せず保管しなければならないと考えられてきたからです。
特に、菌種特定に時間がかかり、検査結果が出る頃には消費期限を過ぎてしまう製品の場合、それは大きなリスクと捉えられていました。
しかし、リステリア検査を積極的に行うことを促進するため、FDAは現在、この「陽性=即製品保留」という考え方を推奨していません。
そのため、
- ゾーン1をサンプリングしても、製品の出荷を保留する必要はない
- 繰り返し問題が起きていない限り、リステリア・モノサイトゲネスの検査は必須ではない
とされています。



ただし、顧客が菌種特定を求める場合は、その要求に応じる必要があります。
また、環境ではなく、製品そのものを検査する場合には、検出された菌がリステリア・モノサイトゲネスかどうかを判断するために、菌種特定を行うべきです。
もし陽性となったらどうする
食品工場などで検出されるリステリア属菌は、その性質によって、対策の緊急度と方法が変わってきます。
重要なのは、「一過性の菌」なのか、それとも「定着してしまった菌」なのかを見極めることです。
ただし、この判断は、1回の検査だけではできません。



だからこそ、検査結果を継続的に記録し、データを追跡して傾向を分析することが極めて重要になります。
- これは、いわば「通りすがり」の菌です。
【特徴】
- 1回検出された後、連続して3回以上の検査で陰性
- その後、繰り返し検出されない
【何が分かるか】
- 衛生管理の基本ルール(GMPs)が効果的に実施されている可能性が高い。
【注意点】
- リステリアは、工場に入ってくる原材料から絶えず持ち込まれる可能性があるため、菌の侵入を抑えるための基本的な衛生管理(GMPs)の継続的な実施が不可欠です。
- 環境モニタリングを積極的に行っていれば、リステリア属菌がたまに検出されるのはむしろ自然なことです。
- 逆に、「検査結果がいつも陰性」である場合は、サンプリング方法や検査方法そのものを疑うべきです。
- これらは、施設内に住み着いてしまった菌です。
【特徴】
- 同じ場所、またはその近い場所で繰り返し検出される。
【何を意味するか】
- 衛生管理のルール(GMPs)に不備がある可能性
- まだ見つかっていない菌の隠れ家(ニッチ)が存在する可能性
- この隠れ家から、菌が継続的に放出され、工場内を再汚染し続けることで、製品汚染のリスクが高まる。
【取るべき対応】
- 強力な是正措置を即時に実行
- 菌そのものだけでなく、菌が定着できてしまった原因を徹底的に特定・排除
初回検出への対応(「まさか」を疑う姿勢)
たとえ原材料由来の一時的な持ち込みが原因で、たまに菌が検出されることがあったとしても、それを「当たり前」として放置してはいけません。
持ち込まれた菌が、人や物の動線、管理の隙間をすり抜けて製造工程へ入り込む前に、必ず食い止める必要があります。
初めて検出された場合でも、検出されたゾーンに応じて、事前に決めておいた対応手順に従い速やかに、かつ十分に強い対応を開始します。



優れた工場は、1回陽性が出た際に「たまたまだろう」と安易に決めつけることはしません。その都度、必ず原因を調べ、最悪の可能性(定着の始まり)を疑って行動します。
再検出への対応(緊急事態として扱う)
近い場所で繰り返し検出された場合は、対応レベルをさらに引き上げる必要があります。
環境モニタリングで検出されるリステリア属菌の多くは、 本当の潜伏場所そのものではなく、別の場所へ「移動している途中」で検出されていることがほとんどです。
だからこそ、 初期段階で「探しだして、徹底的に排除する(seek and destroy)」 というアプローチが極めて重要になります。
これにより、 菌の隠れ家(ニッチ)を早期に特定でき 将来の定着や製品汚染を防ぐことができます。



ここでFDAが公表しているRTE食品向けリステリア対策ガイドラインに基づき、リステリア属菌が陽性となった場合に、どのような対応が推奨されているのかを紹介します。
FDAのガイドラインの表6には、環境モニタリングで陽性となった際に推奨される対応方法が分かりやすくまとめられています。
FDAは、次の2つの要因によって対応レベルを変えるべきだとしています。
- 菌が検出された場所(ゾーン)➡ 製品に近いほど、対応は厳しくなる。
- ゾーン1:食品接触面(製品に最も近い)
- ゾーン2~4:非食品接触面(周辺環境)
- 食品の特性 ➡ リステリアが増殖可能な食品ほど、製品への影響を重く見る。
- リステリアが増殖可能な食品
- リステリアが増殖できない食品
| 検出場所 | リステリアが増殖可能な食品 | リステリアが増殖できない食品 |
|---|---|---|
| 非食品接触面 1回目の陽性 | 該当箇所の洗浄消毒 次回の生産時に再検査 | 該当箇所の洗浄消毒 次回の生産時に再検査 |
| 非食品接触面 2回目の陽性 | 洗浄消毒の強化(可能なら設備の分解洗浄) サンプリング、検査の強化 | 洗浄消毒の強化 サンプリング、検査の強化 |
| 非食品接触面 3回目の陽性 | 根本原因分析 | 根本原因分析 |
| 検出場所 | リステリアが増殖可能な食品 | リステリアが増殖できない食品 |
|---|---|---|
| 食品接触面 1回目の陽性 | 該当箇所の洗浄消毒 次回の生産時に再検査 包括的な調査 | 該当箇所の洗浄消毒 次回の生産時に再検査 包括的な調査 |
| 食品接触面 2回目の陽性 | 洗浄消毒の強化(設備の分解洗浄を含む) サンプリング、検査の強化 製品を保管し、検査する もし陽性となった製品は再加工/転用/廃棄 包括的な調査 | 洗浄消毒の強化 サンプリング、検査の強化 製品の保管、検査を検討 包括的な調査 |
| 食品接触面 3回目の陽性 | 生産を停止し、専門家に相談する 洗浄消毒の強化(設備に蒸気をあてるなど、より強力な方法) サンプリング、検査の強化 製品を保管・検査し、製品と食品接触面の検査結果が、3日連続ですべて陰性になるまで、出荷しない | 洗浄消毒の強化(設備の分解洗浄を含む) サンプリング、検査の強化 包括的な調査を強化する 製品を保管し、検査する もし陽性となったロットは再加工/転用/廃棄 |
| 食品接触面 4回目の陽性 | 生産を停止し、専門家に相談する |
このように、「場所 × 回数 × 食品の性質」によって、 対応が段階的にエスカレートする仕組みになっています。
FDAのガイドラインに加えて、United Fresh Produce Association のガイドラインでは、さらなる注意点として以下を示しています。
- 検出場所の確認と原因の検討
- まず、以下の点を整理します。「一時的な汚染の可能性はどの程度か」「 過去に同じ場所、または周辺で検出歴はあるか」「どのゾーンで検出されたか」
- ゾーン1での検出は、製品汚染の可能性を示唆します。また、繰り返し検出される場合は、定着した菌の存在を疑う必要があります。
- 食品接触面または非食品接触面、どちらからリステリア属菌を検出したとしても、それが直ちに「リステリア・モノサイトゲネス」確定ではありません。ただし、どちらにせよ、厳重な対応が必要です。
- 迅速な追加サンプリング
- 根本原因や菌の隠れ家を特定するため、追加の洗浄・消毒を行う前に、検出された場所及びその周辺・隣接エリアをできるだけ早くサンプリングします。
- クロスファンクショナルチームの編成
- 一時的な汚染と判断できない限り、 多部門チーム(品質保証、製造、メンテナンス、衛生管理など)を即座に立ち上げます。
- チームは、汚染の仮説立て、衛生管理の欠陥の特定、即時是正措置の実行を行います。
- 追加サンプリングでは、 ゾーン1に近づく方向で範囲を広げます (例:ゾーン3陽性 → 関連するゾーン2を重点的に調査)。
- 「次に陽性が出たら何をするか」を検査前に決めておくことが重要です。
- 2回目の陽性結果が出た後の詳細調査
- 2回目の陽性が出た場合は、より踏み込んだ調査を行います。
- 調査対象エリアは、メンテナンス作業、工場内の工事、予定外の生産停止、通常とは異なる生産活動(例:試作品の製造)などです。
- 菌の隠れ家になり得る場所がないか、設備を徹底的に調査します。 例えば、中空ローラー、溶接が粗い箇所、破損した表面などです。
- 根本原因を見つけるための体系的調査
- 汚染源が特定できない場合、以下を組み合わせた体系的調査を行います。
- 設備を広範囲に分解し、徹底的な洗浄・殺菌
- 衛生管理の手順が適切か、不備がないか確認する。
- 問題エリアや保冷庫を広範囲に洗浄・消毒
- 全従業員へのGMP再教育
- 繰り返し検出される菌の菌株比較 → 同一菌株なら「定着菌」の可能性が極めて高い。
- 汚染源が特定できない場合、以下を組み合わせた体系的調査を行います。
- 是正措置の結果の文書化
- 実施したすべての是正措置と、追加検査の結果を漏れなく記録します。
- 陽性が続く場合の積極的な対応
- より集中的な殺菌
- より踏み込んだメンテナンス(ニッチの除去、設備の加熱殺菌、設備交換など)
- 検出した菌の追加検査を継続して行い、定着した菌株の動向を把握
- より積極的なメンテナンスの実施(例:リステリア属菌が蓄積し得る「隠れ家」の排除、設備の加熱殺菌、設備の交換)
- 傾向の追跡とサンプリング頻度の見直し
- 陽性の傾向を定期的に見直す。
- 継続的に陰性になるまで、特定ゾーンのサンプリング頻度を増加 → これにより、汚染源をより早く、確実に特定できる。
環境モニタリングでリステリアが全然検出されない



ふきとり検査をしても、リステリア属菌が全く検出されません。これは良い兆候なのでしょうか?
きちんと環境モニタリングプログラムを実施している施設で、リステリア属菌が一度も検出されない場合、考えられる理由は主に次の3つです。
環境モニタリングでリステリア属菌が検出されない3つの理由
- 原材料(このガイドラインでは農産物)にリステリアが存在しない可能性
- ただし、リステリアは土壌由来の微生物です。屋外で栽培された農産物が、施設内にまったく菌を持ち込まないというのは、現実的には考えにくいと言えます。
- 単に「非常に運が良い」だけ
- 理論上はあり得ますが、 長期間にわたって一度も検出されない場合、この可能性は高くありません。
- サンプリングや検査が十分でない可能性
- 菌が存在していても、「取る場所」「取るタイミング」「取る量」「検査の感度」が適切でなければ、菌は検出されません。
この中で最も可能性の高い理由が3です。
そのため、リステリア属菌を全く検出しない場合は、以下の見直しを行いましょう。
- サンプリング計画の見直し
- 菌が潜んでいそうな場所を、すべて網羅できているか
- 菌が最も検出されやすい時間帯・頻度で採取しているか
- 検出できるだけの十分な面積・量を拭き取っているか
- 検査体制(ラボ)の確認
- 検査機関が適切な検出方法を用いているか
- 「偽陰性(菌がいるのに陰性と出る)」を防ぐための 内部精度管理が適切に行われているか
- 「陽性が出やすい場所」をあえて含める
- 少なくとも一時的にリステリアが存在しやすい場所、例えば「原材料(生鮮食品)受け入れエリア」、「屋外と接する動線」、「排水まわり」などを、意図的にサンプリング地点に含めることを検討する。



環境モニタリングの目的は、「菌がどこにも存在しないこと」を証明することではありません。そうではなく、「食品安全のリスクになる前に、菌を見つけ出し、対処すること」です。
そのため、製造環境からリステリア属菌が検出された場合、それはマイナスではなく、むしろプラスに捉えるべき出来事です。
なぜなら、「菌の存在に気づけた」「潜伏場所を特定できる」「製品汚染を未然に防げる」という、改善のチャンスを得たことを意味するからです。
おわりに
以上、United Fresh Produce Association 発行の「リステリア管理のガイドライン」の内容を紹介しました。



リステリア対策で大切なのは、 リステリア属菌が検出されることを過度に恐れないこと、そして検出されたときにどう行動するかを、あらかじめ決めておくことなのですね。
環境モニタリングでリステリア属菌が見つかることは、失敗ではありません。
むしろ、問題が製品に影響する前に気づき、改善できるチャンスと捉えるべきものです。
このガイドラインには、今回紹介した内容以外にも、サンプリングすべき具体的な場所やタイミング、どのような状況で製品の保管や回収を検討すべきかといった、現場で判断に迷いやすいポイントが、実務に即した形で詳しく解説されています。
そのため、日本でリステリア対策を検討している方や、これから環境モニタリングを始めようとしている方にとって、非常に参考になる資料です。



この記事が、「リステリアを検出したらどうしよう」という不安から、環境モニタリングに踏み出せずにいた方にとって、環境モニタリングを前向きに活用するきっかけとなれば幸いです。
なお、本記事が今年最後の更新となります。来年も現場で役立つ食品安全の情報を、できるだけ分かりやすくお届けしていく予定です。引き続き、ぜひお読みいただければ幸いです。









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