夏だ!アイスだ!食中毒? 怪談よりも怖いFDAから届く恐怖の手紙「Warning Letter」

夏だ!アイスだ!食中毒? 怪談よりも怖いFDAから届く恐怖の手紙「Warning Letter」

アイスクリームからリステリアが検出されて、リコールしているというニュースを見たよ。アイスクリームは凍っているのに食中毒が起きるのですか?

日本ではあまり聞かないアイスクリームが原因の食中毒ですが、アメリカでは度々報告されています。

アメリカでは2000年から2020年の間にアイスクリームに関連した食中毒が少なくとも 88件報告されています。これにより、1,150人が食中毒になり、5人が死亡しています。

berry fruit ice cream and spoon

そこでこの記事では、アメリカで発生したアイスクリームを原因とする食中毒事例を紹介するとともに、FDAが立ち入った施設で「不衛生な状況」を発見した際に発行する「Warning Letter」(警告文書)についても紹介します。

受け取った食品事業者の身の毛がよだつ「Warning Letter」を見ることで、FDAがどのような視点で施設に立ち入りを行っているのかを知ることができます。

FDAの視点を知ることで、自分の施設の食中毒予防に役立てることができます。

目次

アイスクリームを原因とする食中毒事例

アメリカ人はアイスクリームがとても好きです。1人当りの年間消費量は13ℓで世界第4位となっています。(ちなみに日本は6.7ℓで世界第22位)

アメリカで発生したアイスクリームを原因とする食中毒で一番有名なのは、2010年~2015年にかけて発生した「ブルーベル社」の製品が原因となったリステリア食中毒です。

このほかにも「アイスクリーム」×「リステリア」の組み合わせで食中毒が何度か起きており、食中毒発生するのは主に病院、長期療養施設、介護施設といったハイリスクグループの人がいる施設となっています。

アイスクリームが原因で過去にリステリア食中毒が起きているのですね。

今回紹介するのは、その中でも一番最近発生したリステリア食中毒です。

   患者数2人
   入院率100%
   年齢(中央値)77歳
   患者の発症日2023年5月と2023年6月
   患者の居所2州
   原因食品The Ice Cream Houseが製造したアイスクリーム
   原因菌リステリア(Listeria monocytogenes
CDC
Recalled products1
Recalled products2
自主回収された製品(画像:FDA

この食中毒の概要を時系列でみてみましょう。

2023年8月10日
  • ニューヨーク州とペンシルバニア州で2023年の5月と6月に「リステリア症」が報告され、2人から検出されたリステリアが「全ゲノムシーケンシング」(WGS)により遺伝的に同一であることが判明
  • ペンシルバニア州政府が患者宅にあった「アイスクリーム」を検査のためサンプリング
  • 製造者が患者宅にあったアイスクリームのブランドについて、自主回収を開始
2023年8月22日
  • ペンシルバニア州の患者宅にあったアイスクリームからリステリアを検出し、患者から検出された菌と同一であることが判明
  • ニューヨーク州政府がアイスクリームの製造工場に立ち入り、患者宅にあったアイスクリームと同じブランドの製品をサンプリングし検査を行ったところ、リステリアを検出。これが、患者から検出された菌と同一であることが判明
2023年9月1日
  • ニューヨーク市保健局がアイスクリームの製造工場に立ち入り、その他の製品についてもサンプリングを行うとともに、環境ふき取り検査を実施。これらからもリステリアを検出し、患者から検出された菌と同一であることが判明
  • 製造者が自主回収の範囲をこの工場で作られたすべての製品に拡大
  • 製造者がこの施設での生産を一時停止
2023年9月6日~9月26日
  • FDAによる工場への立ち入り
2023年10月26日
  • CDCがこの食中毒の終息を発表
  • 製造者が是正措置を講じ、工場の稼働を再開
2024年9月24日

FDAが製造者に「Warning Letter」(警告文書)を通知

食中毒が終わって1年も経ってから警告文書が出されたのですね。どうしてでしょうか。

Warning Letterの中身を紹介

それでは2024年9月24日に出された「Warning Letter」の中身を見てみましょう。

長いので、割愛しながら紹介します。また、FDAの正式な文書のため内容が難しいですが、補足しながら紹介しますので、頑張って最後まで読んでください。

ニューヨーク州ブルックリンのアイスクリームの製造施設に対し、FDAが2024年2月21日から3月26日にかけて立ち入り検査を実施しました。

この立ち入りで、FDAの調査官は、cGMP、危害要因分析及びリスクに基づく予防措置に関する規則に重大な違反があることを確認しました。

さらに、FDAは製造施設内の様々な場所の環境ふき取りサンプルを採取しました。その結果、施設内からリステリアを検出しました。

今回のFDAの立ち入り結果と、製造環境からリステリアが検出された結果に基づき、貴社のアイスクリーム製品は、連邦食品・医薬品・化粧品法の意味において、「不良(adulterated)」であると判断しました。

さらに、対象施設が予防措置規定を遵守しなかったことは、法によって禁じられています。

最初に説明したように、FDAは2023年の食中毒を受け2023年9月6日~9月26日に工場に立ち入りました。

そして、この警告文書にある立ち入り(2024年2月21日~3月26日)は、この食中毒のフォローアップになります。

フォローアップの立ち入りで、適切な衛生管理ができていないことが確認され、製造環境のふき取り検査で「リステリア」を検出したので、この警告文書が出されたというわけですね。


今回の立ち入りの終了時に、FDAの調査官から貴社施設に対し、「Form FDA 483」という「所見報告書」を発行しました。

2024年4月16日には、「Form FDA 483」に対する貴社からの回答を書面で受け取りました。そこには、貴社が講じた是正措置について説明されています。

本文書は、FDAが引き続き懸念を抱いていることを通知し、貴社施設で確認された所見の詳細情報を提供するためのものです。

Form FDA 483」は、FDAの調査官が立ち入りの最後に事業者に渡す報告書のことで、そこには立ち入り時に調査官が発見した指摘事項が書かれています。(ちなみに、なにも指摘事項がなければ「Form FDA 483」は発行されません。)

「Form FDA 483」自体は、調査官の所見であり、それ自体が自動的に法的措置につながるわけではありません。

そして、「Form FDA 483」を受け取った場合、15営業日以内に「改善措置」を書面で回答することが推奨されています。

しかし、FDAが事業者の改善措置が不十分と判断した場合や、問題が深刻であると判断した場合には「Warning Letter」が発行されます。

そして、さらに不遵守が続くと、法的執行措置につながる可能性があります。

「Warning Letter」は、自主的な改善を促しつつ警告を行う、FDAからの最終通告のようなイメージなのですね。

「Warning Letter」は一般に公開され、法的措置に繋がる可能性があります。そのため、顧客、パートナーからの信頼失墜、株価や売り上げへの影響があり、事業者にとっては一番もらいたくない文書です。

WARNING LETTER

貴社の施設では「アイスクリーム製品」を製造していますが、これらの製品は殺菌後、包装する前に外部環境にさらされています。この段階で、製品がリステリアのような環境由来の病原菌に汚染される可能性があります。

さらに、包装後は殺菌処理や病原菌を大幅に低減するような措置も行われていません。

貴社が2023年9月1日付けで作成した「食品安全計画」では、環境中の病原菌を危害要因として認識し、その危害要因に対処するための管理方法を定めていました。

しかし、環境ふき取り検査で施設内に定着したリステリアがいたことから、貴社の施設ではこの環境病原菌を大幅に低減または防止するために必要な衛生管理が十分に実施されていなかったことが明らかになりました。

この点については、以下でさらに詳しく説明します。

ここにある「食品安全計画」とは、製造者が食中毒や健康被害の発生リスクを最小限に抑えるために作成し、実施しなければならない計画になります。

この計画では、製品や製造工程において既知のあるいは合理的に予見できる安全上の危害要因(ハザード)を特定する必要があります。

また、アイスクリームの場合、リステリアの環境モニタリングは、「検証」の一環として行うべきとされています。

そして、もし最終製品や製造環境からリステリアなどの病原菌を検出した場合は、食品安全計画とその管理体制を再評価し、必要な是正措置を講じる必要があります。


FDAが立ち入りを行った2024年2月21日に、製造エリアから採取した110検体の環境ふき取り検査のうち、1検体からリステリア(L. monocytogenes)が陽性となりました。

この陽性検体は、ソフトクリーム製造機のステンレス製ドアとガスケット部分から採取されたものです。

貴社の施設の環境サンプルからリステリアが検出されたのは、今回が初めてではありません。

2023年9月6日のFDAによる立ち入りでも、食品と接触する可能性のある表面付近から採取した3検体の環境ふき取り検査でリステリアを検出しています。

これだけの期間、何度も洗浄・消毒が行われたにもかかわらず、同一のリステリアが検出され続けていることは、貴社の施設内にリステリアが定着していることを示しています。

前回の記事にありましたが、FDAは立ち入り時に本当に100検体以上もの環境ふき取り検査を行っているのですね。
110本中1つの陽性でもダメというのは、食中毒を起こした施設ということもあり、FDAはかなり厳しい態度をとっていますね。

a big ice cream machine in a ice cream factory
イメージ

貴社の最終製品からリステリアが過去に検出され、かつ施設内で繰り返し同一の菌が検出されていることは、貴社の衛生管理手順が食品の汚染を防ぐ上で不十分であることを示しており、これは極めて重要なことです。

食品製造環境においてリステリアを適切に管理するためには、この菌が持つ特性を理解し、病原菌を制御するために必要な衛生管理を実施する必要があります。

今回の検査結果は、貴社が施設内でのリステリアの存在を十分に制御できておらず、このヒト病原菌を排除したり、食品や食品接触面への曝露を最小限に抑えたりするための効果的な方法や管理を実施していないことを示しています。

一度リステリアが製造エリアに定着してしまうと、従業員や設備を介して病原菌が移動し、食品接触面や最終製品を汚染する可能性があります。

したがって、この菌が増殖し、生存できる施設や設備の隠れ場所(定着箇所)を特定し、菌を完全に排除するために必要な是正措置を講じることが不可欠です。

また、リステリア(L. monocytogenes)の検出に加えて、FDAはソフトクリーム製造機の吐出口下にある圧力開放弁から採取した1つの環境ふき取りサンプルからリステリア・イノキュア(L. innocua)を検出しました。

リステリア・イノキュアのようなリステリア属菌が存在するということは、貴社の施設が、リステリア(L. monocytogenes)の生存や増殖にも適した環境であることを示唆しています。

さらに、貴社施設の環境モニタリングプログラムを確認したところ、2023年8月から2023年12月にかけて、貴社自身の検査にでもリステリア(L. monocytogenes)およびリステリア属菌(Listeria spp.)が繰り返し検出されています。これらは、アイスクリーム製造環境(排水溝、ソフトクリーム製造機の車輪やキャビネット、ソフトクリーム製造機のホース、床など)から見つかっています。

この工場ではリステリアが施設内に定着してしまっており、うまく制御できていないことから、再び食中毒が起こる恐れがあるのですね。

image of an ice cream processing environment
イメージ

貴社の「Form FDA 483」への書面による回答には、以下の対策が記載されていました。

  • ソフトクリーム製造機の適切な分解と洗浄について、担当者を再教育すること。
  • 機器の定期点検を含む予防的メンテナンス計画を導入し、漏れや故障を早期に発見して汚染を防止できるようにすること。
  • 環境モニタリング計画に従って、再洗浄、再殺菌、再検査を行うこと。

貴社の最終製品からリステリアが以前に検出されたこと、加工環境においてリステリアが繰り返し検出されている(菌が定着している)ことに加え、直近のFDAの立ち入りの結果も踏まえると、貴社が衛生的な環境を維持できるかについて、我々は引き続き懸念を抱いています。

そのため、貴社において製造環境におけるリステリアの潜在的な隠れ場所や発生源の特定を引き続き行い、リステリアが製造環境や製品を汚染しないよう、必要な対策を実施することを推奨します。

次回の立ち入りでは、貴社の是正措置の有効性、および衛生的な環境を維持する能力について検証させていただきます。

この文書は、FDAの懸念を貴社にお知らせし、それらに対処する機会を提供するものです。

この問題に適切に対処しなかった場合、事前通告なしに法的措置が取られる可能性があります。

この書簡を受け取ってから15営業日以内に、違反に対処するために講じた具体的な措置を書面でFDAに通知してください。

もし15営業日以内に是正措置を完了できない場合は、遅延の理由と完了予定日を明記してください。

この文書から、FDAの厳しい姿勢が読み取れました。一方で、何が問題なのかについて丁寧に説明していることから、食品事業者は何をすればよいのかが明確に理解できると思います。

おわりに

以上がアイスクリームに関連した食中毒とFDAの警告文書の紹介です。

今回紹介した警告文書も含めて、FDAは2019年以降8件の警告文書をアイスクリーム製造業者に対して発行しています。

そして、これら8つの施設のうち7施設からは、製造環境又は最終製品からリステリアを検出しています。

過去の「Warning Letter」はFDAのウェブサイトで一定期間検索することができます。英語のニュースを読んでいて「Form FDA 483」や「Warning letter」がでてきたら、この記事の内容を思い出せばスムーズに理解できると思います。

日本では違反者は公表されますが、「Warning Letter」のような詳細は書かれていません。

食品事業者当人にとっては「もらいたくない手紙」ですが、他の食品事業者にとっては貴重な情報が含まれており、大変参考になる内容だと思います。

日本でも同じように「立ち入り結果」や「違反内容の詳細」が公表されると、消費者だけでなく、食品事業者も活用できますね。

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コメント

コメント一覧 (1件)

  • 保健所関係者ですが、FDAがここまで徹底的にリステリアをターゲットにして、立ち入り検査を行っていることに驚いています。
    絶対にリステリアを見つけてやるぞという気迫を感じました。
    おそらく日本では、民間だけでなく、行政もここまで徹底したリステリアの管理は行っていないのではないのでしょうか。
    日本でリステリア食中毒が発生していないのは、そもそも見つけようとしていないからなのかなと思いました。

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