アメリカで小麦粉を原因とする食中毒が起きたって聞いたよ。
小麦粉って食中毒とは無縁だと思っていたのに、どうして食中毒が起きるのかな?
アメリカでは、小麦粉に関連した食中毒が頻繁に起きています。今回は、小麦粉の食中毒について紹介します。
小麦粉は乾燥していて、とても食中毒が起きる食材には見えません。しかし、小麦粉に関連した食中毒は、アメリカで2000年以降9回も報告されています。
「どうして小麦粉で!」「日本の小麦粉は大丈夫なの?」と疑問に思われるかもしれません。
そんな疑問にお答えできるよう、今回の記事では小麦粉に関連した食中毒を解説します。
それではさっそく見ていきましょう。
この記事でわかること
- アメリカでは小麦粉に関連して何件食中毒が起きているのか
- なぜ小麦粉で食中毒が起きるのか
- 日本では小麦粉で食中毒が起きているのか
2023年4月に起きた「小麦粉」を原因とするサルモネラ食中毒
まずは、アメリカでニュースになっている、小麦粉を原因とするサルモネラ食中毒を紹介します。ちなみに患者数のデータは2023年5月1日までのものです。
患者数:13人 入院者:3人 死亡:0人
患者の年齢:12~81歳(中央値:64歳) 性別:女性が92%
日本で食中毒と聞くと、患者は短期間にしかいないイメージがあります。しかし、この食中毒では患者が2022年12月6日から2023年3月1日までと、3か月にわたり発生しています。
上のマップが患者の分布を示しています。患者数は13人と少ないですが、12州にわたる広域な食中毒です。
アメリカは日本の26倍の面積があります。そのため一人一人の患者はかなり離れたところに住んでいます。それにもかかわらず、患者が食べた共通の食品が小麦粉製品であると結論づけたことに驚きです。
ちなみに日本の面積はモンタナ州(左上のMT)とほぼ同じです。
保健当局が患者に聞き取り調査を行ったところ、88%の患者が、症状が出る前に小麦粉を使った「生の生地」を食べたと回答しました。また、使用した小麦粉のブランド名を覚えていた人全員が「Gold Medalブランド」の小麦粉を購入したと報告しました。
この情報をもとに、FDAが小麦粉の流通調査を行いました。すると、小麦粉はミズーリ州カンザスシティにあるGeneral Millsの工場で作られたことが分かりました。その工場で保管されていた製品サンプルを検査したところ患者から検出されたサルモネラと同じサルモネラが検出されました。
この件を受け、General Millsは2023年4月28日に該当する製品(下画像)を自主回収すると発表しました。
小麦粉に関連した食中毒はたびたび起こっている
アメリカを含め、小麦粉に関連した食中毒はたびたび起こっています。カリフォルニア大学デービス校がまとめたデータがありますので、そこからアメリカで発生した食中毒だけを抜き出してみます。
原因食品 | 病原菌 | 発生年 | 患者数 | 州の数 |
---|---|---|---|---|
ケーキミックス | サルモネラ | 2005 | 26 | 11州 |
冷凍ポッドパイ | サルモネラ | 2007 | 396 | 41州 |
クッキー生地 | 大腸菌O157 | 2009 | 80 | 31州 |
小麦粉 | 大腸菌O121、大腸菌O26 | 2015 | 63 | 24州 |
生地ミックス | 大腸菌O157 | 2015 | 13 | 9州 |
小麦粉 | 大腸菌O26 | 2018 | 21 | 9州 |
ケーキミックス | サルモネラ | 2018 | 7 | 5州 |
ケーキミックス | 大腸菌O121 | 2021 | 16 | 12州 |
2023年4月にも小麦粉を原因とする食中毒が起きたので、数年に1度の頻度で食中毒が起きています。
小麦粉製品は広く流通するためか、どの食中毒も複数の州にまたがって起きています。
また、近年は特に1事件あたりの患者数が少ない傾向があるようです。これは、より少ない患者数でも原因となった食品を特定することができる技術が向上していることが一因だと思います。
同校がまとめたデータには小麦粉製品のリコールに関する情報もあります。2009年から2022年9月までに、病原菌に汚染の恐れがあるとして、合計27回のリコールが報告されています。
なぜ小麦粉で食中毒が起きるの?
小麦粉と聞くと「高度に加工された製品」というイメージがあります。しかし、実際は生の農産物に近いようです。
小麦粉の原料となる「小麦」は屋外の畑で栽培されます。畑には鳥が飛んできたり、動物が畑に侵入したりします。すると、小麦は動物のフンなどにより汚染され、病原微生物が付着する恐れがあります。
参考として、小麦の病原微生物による汚染率は1%前後との報告があります。
その後、小麦は収穫され、工場に運ばれ、粉になります。しかし、工場での製粉過程で病原菌を死滅させる工程はないため、小麦に付着した微生物は、最終製品である小麦粉になっても残っています。
小麦粉に病原菌が付いていたとしても、最終的に家庭で焼く、揚げるといった加熱を行うと、病原菌は死滅します。
しかし、アメリカでは家庭でクッキー、ブラウニー、ケーキなどを作る際に、生の生地を試食することがよくあるようです。そのため加熱前の生地を食べてしまうと、サルモネラや大腸菌に感染し食中毒になる恐れがあります。
食中毒を予防するには?消費者の行動を変えることは難しい
CDCは「生の生地を食べないように!」、「(どうしても食べたければ)加熱処理された製品もあるのでそちらを使うように!」と継続して注意喚起を行っています。
しかし、2019年に行われた調査では、お菓子作りをする人のうち、66%が「生のクッキー生地を食べた」と回答しました。また、85%の消費者は、「小麦粉製品が原因の食中毒やリコールの情報を聞いたことがない」と回答しました。情報を伝えるべき消費者になかなか情報が伝わっていないのが現状のようです。
また、「小麦粉の中に病原菌が2年間生存していた」という報告もあります。そのため、家庭に眠っているケーキミックスがリコールされたものと知らず、ケーキを作る際に生の生地を食べてしまい食中毒になってしまった、ということが今後起こるかもしれません。
日本で小麦粉が原因の食中毒は起きている?
一部注意喚起が行われていますが、今のところ日本では小麦粉による食中毒は報告されていません。
しかし、日本は小麦の8~9割を輸入しています。そして小麦の輸入先の約50%はアメリカからです。そのため、今後小麦粉に関連した食中毒が起こらないとも言えません。
もしかすると、すでに起きているけれども気づいていないだけかもしれません。食中毒が疑わしい患者が発生したとき、保健所が患者の調査を行います。調査では、病気になる前に食べたものや、感染を引き起こしそうな行動がなかったかを聞き取ります。
アメリカで聞き取り調査に使われる調査票には、「加熱されていないクッキー生地やケーキミックスを食べましたか?」や「家族の誰かが、小麦粉を使って料理をしていましたか?」という質問が含まれています。
しかし、日本で使われる調査票には、そのような質問は含まれていません(参考調査票③、④)。
つまり、日本で小麦粉に関連した食中毒があったとしても、そもそも小麦粉について質問していない(調査していない)ため、小麦粉が原因であると断定することは難しいです。
そのため、原因不明の食中毒として処理されてしまう、またはそもそも食中毒として扱われない可能性が高いと思います。
以上が小麦粉に関連した食中毒の解説です。
日本においても、生の生地を食べない、小麦粉を扱ったときは手洗いをする、小麦粉に触れた器具は洗浄・消毒する、といった対策を行い、食中毒に気をつけるようにしてください。
コメント