手洗い設備はいくつ必要?日米比較で見えてくる重要ポイントを紹介

手洗い設備はいくつ必要?日米比較見えてくる重要ポイントを紹介

保健所から「手洗い設備の数が足りないから許可が出せない。」と言われたけど、調理場に手洗い設備はいくつ必要なんだろう?

手洗いは食中毒を防止する上に最も重要なことです。

しかし、飲食店の従業員は本来手を洗うべきタイミングのうち、3回に1回しか手洗いを行っていません。

そのため、従業員に適切に手洗いを行ってもらうには、手洗いのトレーニングだけでなく、シンクの数や設置場所も重要であるとCDCは言っています。

それでは、手洗い設備は「どこに」、「いくつ」設置すればよいのでしょうか?

そのような疑問にお答えできるよう、今回の記事では手洗いシンクの場所と数について、日米の基準を比較したいと思います。

また、アメリカで導入が拡大している「自動手洗い器」についても紹介します。

handwashing

この記事を読めば、手洗い設備の必要な数の「考え方」について、学ぶことができます。

目次

日本の手洗い設備の基準

まずは日本の手洗いシンクの基準を見てみましょう。

食品衛生法に施設の基準が定められています。

チ 従業者の手指を洗浄消毒する装置を備えた流水式手洗い設備を必要な個数有すること。なお、水栓は洗浄後の手指の再汚染が防止できる構造であること。

食品衛生法施行規則 別表第19 三 施設の構造及び設備

手洗い設備を「必要な個数有すること」とあります。

「必要」と判断する基準は何なのだろう?

必要と判断するのが誰で、何に基づいて判断するのか、食品衛生法では具体的に書かれていません。

また、自治体のウェブサイトをいくつか見ましたが、手洗い設備の具体的な数や設置場所について書かれていませんでした。

民間事業者のウェブサイトには、様々な解釈が示されています。「調理場に最低1つは必要」と書いてあるサイトが多いですが、どれも公式見解ではありません。

食中毒予防に一番大切な手洗いですが、基準上手洗い設備がどこに、いくつ必要なのかが分かりにくいですね。


食品衛生法ではよくわからなかったので、参考として文部科学省の学校給食向けのガイドラインを見てみましょう。

学校給食調理場における手洗いマニュアル」では、望ましい手洗い設備について書かれています。そこで、配置と数に関係する箇所だけ抜粋しました。

学校給食従事者の専用手洗い設備は、前室、便所の個室に設置するとともに、作業区分ごとに使用しやすい位置に設置すること

手洗い設備と食品取扱い場所が近いと、手洗い時の洗浄水が食品に飛散します。手洗い設備は、他の施設設備の配置、作業動線等を考慮して設置しましょう

シンクの横に手洗い設備がある場合、ステンレス板を設置して洗浄水の飛散を防止する等、工夫しましょう。

学校給食調理場における手洗いマニュアル 3.望ましい手洗い設備とは

「作業区分ごとに使用しやすい位置に設置」や「施設設備の配置、作業動線等を考慮」と食品衛生法より少し詳しく書かれています。

また、手洗い設備と食品取扱い場所が近いと、手洗いした際の跳水が食品や作業場を汚染してしまうため望ましくないこと。そして、どうしてもそのような配置になってしまう場合は、対策(例:ステンレス板を設置)を取ったほうがよいとなっています。

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写真:学校給食調理場における手洗いマニュアル(文部科学省)

具体的な数は書かれていませんが、食品衛生法より詳しく、そして写真入りで解説されています。大変参考になるので、ぜひ一度ご覧ください。

アメリカの手洗い設備の基準

次にアメリカの基準を見てみます。

アメリカの食品安全規制のテキストであるFDA(米国食品医薬品局)の「Food Code」で、手洗い設備がどのように書かれているか見てみましょう。

Food Codeをよく知らない方は、以下の記事をご覧ください。

5-203.11 手洗いシンクの数
手洗いシンクは少なくとも 1 つ設置する他、5-204.11に規定された従業員が使用するのに便利な場所に必要となる数、及び法令で義務付けられている数以上を備えること。

5-204.11 手洗いシンクの配置
手洗いシンクは、次の場所に設置すること。

 (A)食品の調理、食品の小分け、洗浄エリアの、従業員の使用に便利な位置

 (B)トイレ内またはトイレに隣接する位置

Food Code 2022, Chapter 5. Water, Plumbing, and Waste,

「従業員の使用に便利な位置」など、書き方としては文部科学省の「学校給食向けのガイドライン」にかなり近いです。

少なくとも1つ設置とありますが、Food Codeにも具体的な数字は書かれていないのですね。

たしかに、Food Code内には具体的な数字は書かれていません。

しかし、上記の5-203.11に「法令で義務付けられている数」とあるように、Food Codeを基に各地方政府が法令の基準を作ります

そこで、例としてニューヨーク市の基準を見てみましょう。

§81.21 手洗いシンク

(a) 設置場所

温水および冷水の備えた手洗いシンクは、食品の調理、サービス、食器洗浄エリア、そしてトイレの中又は近接した場所に設置すること。

  1. 食品の調理、サービス、または食器洗浄エリアから7.6メートルを超えないように十分な数の手洗いシンクを設けること
  2. 手洗いシンクが設置されているエリアは、ドアや設備に遮られることなく、本規定が要求する用途に使用できるようにしなければならない。手洗いシンクは、手洗い以外の目的に使用してはならない。
NYC Health Code, Article 81, §81.21 Hand wash sinks.

食品衛生法よりかなり具体的に書かれています。

ニューヨーク市の基準では、作業する場所から「7.6メートル」(英語の原文では「25フィート」)を超えないこと、となっています。

この「7.6メートル」は、ニューヨーク市だけでなく、様々な自治体で、従業員の使用に便利な位置の目安として採用されています。

ここまでのアメリカの基準をまとめると以下のようになります。

  • 作業を行う各部屋に、従業員の使用に便利な位置に手洗いシンクが最低1つ必要
  • 作業する場所から7.6m以内に手洗いシンクが必要

Food Codeには具体的な数字は出てきませんが、上記のような具体的な「距離」を使って手洗いシンクの必要数を判断する際の「考え方」が、Food Codeには書かれています。

食品が調理される場所と手洗いシンクの位置関係に注意すべきである。多くの自治体において、食品施設に必要な手洗いシンクの位置と数を検討する際のガイドラインとして、「距離」を使用している。この情報は、審査のプロセスを支援するために使用することはできるが、「十分な数の手洗いシンクがあるか」や「手洗いシンクが便利な場所にあるか」を判断する唯一の根拠として使用すべきではない。

設備とその周辺の間隔、予想される従業員数、食品の流れに特に重点を置くべきである。例えば、長さが9メートル、幅が4メートルの厨房があったとする。この厨房の大きさは、ガイドラインの「距離」で判断すると、手洗いシンクが1つあればよいとなるかもしれない。しかし、作業場所と手洗いシンクの間に、調理台が置かれている場合、手洗いシンクは使用に便利な位置にあるとは言えない。同様に、混雑時に従業員同士が行き来できるスペースが限られている場合、作業動線の端に手洗いシンクが1つあったとしても、もう一方の端で働く従業員にとって使うことが難しい。

Food Code 2022, Annex 5. Conducting Risk-Based Inspections, Annex 5 – 25

書き方は異なりますが、言っていることは文部科学省の「学校給食調理場における手洗いマニュアル」と同じですね。

このように、7.6mという「距離」だけではなく、設備の配置や人員、作業動線を考慮して、本当に使用に便利な位置にあるかどうか判断することが大切だということが分かります。

「自動手洗い器」知っていますか?

ところでFood Codeの「手洗いシンク」の定義は以下のようになっています。

手洗いシンク
(1) 「手洗いシンク」とは、特に個人衛生に使用するために設置され、手を洗うために設計された洗面所、鉢または器、洗面器、または配管設備をいう。
(2) 「手洗いシンク」には、自動手洗い設備を含む。

Food Code 2022, Chapter 1. Purpose and Definitions, Handwashing Sink.

「自動手洗い設備」とありますが、なんのことか分かりますか。

こちらに動画で解説されているので、ぜひ見てください。

ガソリンスタンドの洗車機みたいですね。

メーカーによると、自動手洗い設備には以下のようなメリットがあるようです。

  • 手洗いがたった12秒で終わる。
  • 99.9%以上の病原菌を除去できる。
  • どこにも触れないため二次汚染が起きない。
  • 誰がやっても同じように手洗いができる。
  • 水の節約になる。

アメリカでは新型コロナウイルス感染症の蔓延もあり、食品工場だけでなく、小売店、飲食店などにも自動手洗い設備の設置が進んでいるようです。

食中毒対策にも効果がありそうですが、さらに「水の節約」にもなるという点が良いですね。日本でもすでに導入している施設はあるのでしょうか。


この記事では日本とアメリカの手洗い設備の基準の違いについて紹介しました。

食品衛生法の施設基準は、どのような施設であっても食品を衛生的に扱うために最低限満たさなければならない基準であり、具体的なことは書かれていません。

しかし、多くの食中毒が従業員の手洗い不足により起こっています。

そのため、食中毒を防止するためには、食品衛生法で求められる以上の対策が必要になります。

この記事を参考に、自分の施設の手洗い設備の場所と数が本当に適切かどうか、もう一度確認してみてください。

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