日本では食品の自主回収を行った場合、届出が義務になったと聞いたよ。自分が購入した食品が自主回収しているかは、どうやって調べればいいのだろう。
日本では2021年から、食品事業者が自主回収を行った時に、自治体へ届出することが義務になりました。
届出された情報は、厚生労働省のウェブサイトに公表され、消費者が確認できるようになっています。
それでは、どれくらいの消費者がこの制度を知っていて、公表された情報を活用しているのでしょうか。
私の家族は、私を除いて誰もこの制度の存在を知りませんでした。そして私自身、日常で厚生労働省の自主回収のウェブサイトを見ることはありません。
このようにあまり活用されていない日本の自主回収の公表制度ですが、実はアメリカでも同じように企業によって行われた自主回収を公表する制度があります。
そこでこの記事では、アメリカの自主回収の状況・取組を紹介します。
日本の状況と比較することで、日本の自主回収の公表制度の改善点が見えてくるかもしれません。
アメリカの自主回収の状況
アメリカの自主回収の状況は、「U.S. PIRG Education Fund」が発行したレポートを参考に紹介します。
同団体は、2023年にFDAとUSDA(米国農務省)が公表した自主回収について調査しました。
USDAが肉や卵加工品などを規制し、FDAはそれ以外の食品を規制しています。両者の違いは下の記事を参考にしてください。
自主回収の数と回収理由
2023年にFDAとUSDAが発表した自主回収は合計313件でした。これは、2022年より8%増加しましたが、2018年や2020年ほどではありません。
313件の自主回収のうち、約半数(49.2%)が「表示にないアレルゲン」を理由にしています。
「表示にないアレルゲン」を理由とする自主回収は2022年は42%、2019年には38%でしたので、年々割合が増えています。2022年から増加した理由として、2023年1月から表示が義務化された「ゴマ」の影響があります。
アレルゲンの次に多かった回収理由が、リステリア菌(15%)とサルモネラ(8.6%)です。
日本では聞かないリステリア菌ですが、アメリカでは多くの食品がリステリア菌を原因に自主回収されているのですね。
回収された食品の種類とその理由
回収された食品の種類として一番多かったものはクッキー、グラノーラバー、キャンディー、ポップコーンといった「Snack(軽食、おやつ)」でした。
そして「Snack」が回収された理由は、ほぼすべてが「表示にないアレルゲン」でした。
そのほかの「食品の種類」と「回収理由」の組み合わせは下のようになります。
食品の種類 | 回収理由 |
---|---|
メロン | すべてサルモネラ |
メロン以外の果実 | ほぼすべてがリステリアとA型肝炎ウイルス |
牛肉 | 多くが大腸菌と異物 |
スープ | すべてがアレルゲン |
サラダ、サラダ用野菜 | 多くがリステリアとアレルゲン |
鳥肉 | 多くがアレルゲンと加熱が不十分な調理済み食品 |
チーズ | ほとんどがリステリア |
サプリメント | ほぼすべてがアレルゲン |
ペットフード | ほぼすべてがサルモネラ |
自主回収の事例紹介
参考までに、自主回収の事例を一つ紹介します。メロン × サルモネラ の組み合わせで起こった自主回収です。
2人が病気になり、医療機関を受診
食中毒が起こっていることは探知されず、患者数は増加していき、10月末には70人以上に
最後の患者が発症
11月17日のFDAとCDCの発表に先駆けて、11月8日にSofia Produce社が自主回収を行っています。その発表を少し見てみましょう。
- 回収時点(11月8日)で、このメロンに関連した病気の報告はありません。
- カナダ食品検査庁が、「Fruits et Légumes Gaétan Bono社」が販売したメロンにサルモネラ菌が混入している可能性があるとして、自主回収を11月1日に発表しました。
- 弊社が販売しているメロンにも同じラベルが貼られ、同じPLUコードが表示されているため、自主回収を行います。
このように「病気が発生しているわけではないけれども、念のために回収します。」という内容でした。
しかし、その後Sofia Produce社は11月15日、11月22日と自主回収の対象範囲を拡大しました。
今だから言えることですが、最初の自主回収の時点で、より適切に対応できていれば、患者発生をもう少し抑えることができたかもしれません。
そして、企業や行政機関が把握する頃には、かなりの人数がすでに感染しているということです。
自主回収情報の入手方法
FDA、USDAのウェブサイトに行けば、それぞれが管轄している食品の自主回収の状況を知ることができます。
これら以外にも、FoodSafety.gov(連邦政府の食品安全情報のワンストップ・ウェブサイト)では、FDAとUSDAの両方の自主回収の情報を見ることができます。
さらに、行政機関が X などのソーシャルメディアでも自主回収情報を投稿しています(FDA、USDA、FoodSafety.gov)。
私も X でFDAやUSDAをフォローしています。ホームページで確認するよりも早く自主回収の情報を知ることができます。
また、行政機関ではなく、民間企業が開発したものですが、スマホのアプリもあります。最新の自主回収の情報を画像付きで確認でき、通知もしてくれます。
アメリカの自主回収制度の課題
最後に「U.S. PIRG Education Fund」のレポートで書かれている、アメリカの自主回収制度の課題についていくつか紹介します。
必要な人に、必要な情報が確実に届くようにする
2023年を見ても分かるように、アレルゲンによる自主回収が約半数を占めます。
そのため、FDAとUSDAは毎週かなりの数の自主回収情報を投稿していますが、その半数がアレルゲンに関することです。
しかし、食物アレルギーがある人は全米で6~8%しかいません。つまり、90%以上の食物アレルギーがない人にとって、半分の情報が不要ということです。
さらに、小麦アレルギーの人にとって乳アレルゲンの不記載が関係ないように、食物アレルギーがある人にとっても、自分に関係のないアレルゲンの情報は不要です。
そして、自分に関係のない情報が毎日大量に送られてくると、消費者は「自主回収疲れ」になってしまい、自主回収情報を確認することをやめてしまいます。
そのため、FDAとUSDAは、消費者が自主回収の情報を選択して入手できるようにすべきです。(例えば、卵のアレルゲンと病原微生物に関する自主回収情報だけ選択できるなど)
解決策の一つとして、FDAとUSDAが共同で、スマホのアプリを開発するという方法があります。
通知する情報を選択できるスマホアプリであれば、必要な情報だけを迅速に通知できます。
小売店から消費者へ、情報が確実に届くようにする
自主回収があった際に、50%の小売店しか会員カード情報から消費者に直接連絡をとっていません。
また、多くの小売店が、自主回収情報を店頭入口、サービスカウンターやその製品の販売エリアにだけ掲示しています。
これでは、たまにしか買い物に行かない人やオンラインで購入している人に、自主回収の情報が届きません。
そのため、小売店は、クラス1の自主回収については、会員カード情報、ウェブサイト、ソーシャルメディア、店舗への掲示など、複数の方法を組み合わせて使い、消費者に確実に情報が届くようにすべきです。
2019年の調査では、85%の消費者はリコール情報を聞いたことがないと回答しました。情報を伝えるべき相手になかなか情報が伝わらないのが現状のようです。
日本の自主回収の状況
それでは日本の状況はどうなっているのでしょうか。
一般財団法人食品分析開発センターSUNATECのウェブサイトで、2022年の自主回収状況がまとめられていましたのでご覧ください。
2022年に厚生労働省・消費者庁に届出された自主回収の件数は692件のようです。(ただし厚生労働省の資料の件数とは異なっています。)
アメリカの倍以上の数ですが、そもそも制度が異なるため、件数を比較しても意味がありません。
日本の近年の自主回収の傾向を分析した記事を探しましたが、見つけることができませんでした。もしご存じの方がいれば、教えてください。
日本の自主回収制度の課題
それでは日本の自主回収の公表制度の課題は何なのでしょうか。
今回、自主回収の情報を見つけようと、厚生労働省の自主回収のウェブサイトを見ていた際に、私なりに気づいた点を紹介します。
消費者へ自主回収の情報が伝わっていない
日本で自主回収の届出が義務になった理由として、消費者へ情報提供し、被害の発生を防止することです。
しかし、いざ厚生労働省の自主回収のウェブサイトから公開情報のページに行こうとすると、非常に分かりづらいです(なぜかは分かりませんが、ページの中間あたりにポツンとあります)。
また、公開情報のウェブサイトがスマートフォンに対応していないため、スマホで自主回収情報を調べようとすると、とても大変です。
このようにウェブサイトから情報を得ようとしても、ウェブサイトのアクセス、使い勝手が非常に悪いです。
また、Xで厚生労働省や消費者庁のアカウントを見ても、自主回収の情報が掲載されることはほぼありません(紅麹など一部を除いて)。
アメリカと異なり、自主回収情報について行政機関がソーシャルメディアをあまり活用していないようです。
これでは、厚生労働省・消費者庁から消費者へ、自主回収の情報がまったく伝わっていないように思います。
多くの情報がごく一部の人にしか関係しない
公開情報の詳細を確認すると、「ある地域の1つのスーパーで表示を貼り間違えて、アレルゲン表示の不記載があった」というような、広域に商品が流通していない事例が多くありました。
このような情報は、「そのスーパーを利用し、その商品を購入し、その食物アレルギーがある人」には重要ですが、それ以外の人には関係がありません。
そのため、毎日多くの自主回収情報がアップされている中から、自分に関係ある情報だけを見つけ出すことは至難の業のように感じます。
これらの課題はどのように解決すればいいのかな?
アメリカでも同じような課題がありましたね。それらの改善策が参考にできます。また、小売店の会員カードの活用も重要なポイントだと思います。
終わりに
以上がアメリカの自主回収状況の紹介でした。
アメリカではFDAの今後10年間の計画である「よりスマートな食品安全の新時代」でも「自主回収の近代化」が重要課題として取り上げられています。
そのため、AIを中心としたデジタル革命の中、アメリカでは自主回収の公開制度はより便利に、確実に情報が伝わるように変わっていくと思います。
アメリカの先行事例の取り組みは、今後日本でもぜひ参考にしたいですね。
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