

ノロウイルス食中毒の約8割が調理従事者が原因だって聞いたよ。従業員教育をやっているつもりだったけど、他に気を付けることはあるのかな。
食品営業施設では通常、下痢やおう吐などの症状がある人は、食品を取り扱ってはいけないというルールがあります。


それでも、体調が悪い調理従事者が食品を扱って、食中毒となる事例が毎年のように発生しています。
「ルールがあるのになぜ食中毒が起こってしまうの?」や「どうやったら従業員の健康管理をもっとうまく行えるの?」というような疑問を持っていませんか。
そんな疑問にお答えできるよう、今回の記事では従業員の健康管理を行う上で、見逃しがちなポイントを紹介します。
この記事はアメリカのCDCのウェブサイトを参考にしています。日本とアメリカでは社会背景や文化に違いはありますが、従業員の心理など共通する部分も多数あります。
この記事を参考にして、より確実な従業員の健康管理体制を構築してください。
この記事を読んでわかること
- 体調が悪いのに従業員が出勤する理由
- そのような飲食店の特徴
- 従業員の健康管理体制を改善する4つのステップ
どうして食中毒になるのか?
体調が悪い従業員が食品を取り扱うと、以下のように食中毒が起こる可能性があります。(参考:東京都)
ノロウイルス食中毒の場合、その約8割が調理従事者が原因となっています。そのため裏を返せば、病気の従業員を働かせないことで、多くの食中毒が予防できます。
食品衛生法でも、営業者は従業員が以下のような症状がある場合、「食品を取り扱わせるかどうか判断しなければならない」となっています。
ハ 食品等取扱者が次の症状を呈している場合は、その症状の詳細の把握に努め、当該症状が医師による診察及び食品又は添加物を取り扱う作業の中止を必要とするものか判断すること。
食品衛生法施行規則 別表第十七
- 黄疸(おうだん)
- 下痢
- 腹痛
- 発熱
- 皮膚の化膿のう性疾患等
- 耳、目又は鼻からの分泌(感染性の疾患等に感染するおそれがあるものに限る。)
- 吐き気及びおう吐
アメリカでの同様の基準は、FDAのFood Codeの「2-201 Responsibilities of Permit Holder, Person in Charge, Food Employees, and Conditional Employees」の項目に書かれています。
食品衛生法だと上記のようにあっさりかかれていることが、Food Codeだと10ページにわたって、かなり詳細に書かれています。
以下の記事でも紹介していますので、参考にしてください。


体調が悪いのに「なぜ」働くのか
アメリカでの調査になりますが、飲食店で働く従業員の5人に1人は、過去1年以内に下痢や嘔吐などの症状があったにもかかわらず、働いたことがあると回答しました。
また、施設の責任者に対して行った調査では、約7割の責任者が体調が悪いにもかかわらず働いたことがあると回答しました。
体調が悪いのに働くと、食中毒の原因になるかもしれません。それなのに、どうして働いたのでしょうか。
従業員が下痢や嘔吐があったにも関わらず働いてしまった理由として、以下のような理由が挙げられています。自分に置き換えてみると、納得できますね。
- あまり具合が悪くなかった。
- 他の人にうつさないと思った。
- 人手不足で他の従業員に迷惑がかかると思った。
- 仕事に対し強い責任感を持っていた。
- 仕事を失うことを恐れていた。
1と2は従業員の知識不足が要因としてありそうです。そのため、従業員教育をきちんとやれば対策がとれそうです。
しかし、3、4、5は知識不足にとどまらず、職場環境、責任感、個人の経済状況なども要因としてありそうで、「ただ従業員教育をすればよい。」とはならないです。



体調が悪いのにどうして働くのかを、従業員から話をしっかり聞いて対応すればいいのかな?



そのとおりです。
しかし、調査では9割の従業員は体調が悪いことを責任者に報告せずに働いていたわ。
そのため、日頃から体調不良を報告しやすい職場環境を作ること、そして責任者から積極的に声がけすることが大切ね。
体調不良の従業員が働いてしまう飲食店の特徴
また、調査の結果、以下のような飲食店で働いている従業員の方が、体調不良を報告せずに働く傾向が強かったようです。
- 1日300食以上提供する忙しい飲食店
- 施設の責任者の経験が4年未満
- 体調不良の際、責任者に伝えることを義務付けていない。
- オンコール(緊急時に代わりに働くことができる)の従業員がいない。
これらの結果については、あくまでそのような傾向があったというだけで、「これらが原因で従業員が体調不良の中働いた。」というわけではない点に注意してください。
しかし、これらに多く該当する施設は注意が必要です。
それぞれの理由として以下のような点が推測されています。
- このような飲食店の経営層は、従業員の欠勤が経営に悪影響を及ぼすことを懸念し、体調不良の従業員を帰宅させることを嫌うかもしれない。
- 従業員数の多い飲食店の従業員は、忙しい同僚を人手不足にしたくないという思いから、病欠の連絡をしたがらないかもしれない。
- 業務量の多い飲食店で働く従業員は、業務量の少ない飲食店で働く従業員よりも収入が多いため、病欠の連絡をしたがらないかもしれない。
- 経験豊富な責任者は、従業員の病欠の際の人員配置に対処することに慣れており、体調不良の従業員の自宅待機を許可したり、奨励したりする傾向が強いのかもしれない。
- 勤続年数の長い責任者は、従業員のことをよく知っており、従業員の病気の性質や出勤すべきかどうかを判断する能力に長けているのかもしれない。
- 従業員の中には、食中毒のリスクについて十分な知識を持たず、どのような症状がある時に働くべきでないかについて、判断することができない人もいるかもしれない。
- そのため、従業員が体調不良の際に責任者に伝えることを義務付けることで、責任者が判断する機会を得ることができ、その結果、体調不良のまま働く従業員が減るかもしれない。
ちなみに調査によると、
- 約3割の飲食店は、従業員の体調不良時の対応について決まりがなかった。
- 約5割の飲食店は、対応が文書化されていなかった。
とのことです。
- オンコールの従業員がいることで、体調不良の従業員が感じる「仕事を休むことへの罪悪感」や、責任者が感じる「体調不良の従業員に仕事をさせることへのプレッシャー」を軽減するかもしれない。
効果的な従業員の健康管理体制を構築する
以上のように、体調が悪い従業員の管理について、多くの飲食店で課題があることが分かりました。
そのため、CDCは以下の4つのステップで対策を取ることが効果的であると言っています。
従業員が病気になった場合、責任者に伝えることを義務付ける方針を文書化する。
また、すでに文書化された方針がある場合は、その内容をより具体的にすることもポイントです。(例:方針に「どのような症状であれば勤務を控えるべきか」や「復帰のタイミング」を含める。)
責任者や従業員が体調が悪いときに働く理由を把握し、対策を取る。
飲食店の従業員の 5 人に 1 人が、1年間の間に少なくとも 1 回、嘔吐や下痢で体調不良のまま勤務したことがあると回答しました。働いた理由は個人的、経済的、社会的など様々な要因があります。
責任者が積極的に従業員の体調の把握を行う。
調査では、責任者が従業員の体調不良を知ったきっかけは、「従業員が自主的に責任者に伝えた。」が一番多かったです。しかし、9割の従業員は責任者に報告せずに、体調が悪いのに働いたと回答しました。
そのため、従業員の健康状態に関して責任者の積極的な関与が必要です。(例:体調が悪そうな従業員に下痢や嘔吐といった食中毒の症状があるかどうかを尋ねる。)
体調が悪いときに、「働かなければならない」というプレッシャーを軽減できるようなスケジュールを作成する。
例えば、シフトごとにオンコール(緊急時に代わりに働くことができる)の従業員を配置することも有効です。



以上が、効果的な従業員の健康管理体制を構築する方法の紹介です。
食品を取り扱う従業員の健康管理は、今さら言うまでもなく、食中毒対策で最も重要なことです。しかし、この基本的なことができていない食品営業施設は多く、過去には体調不良の従事者が作業したことで、2,000人以上の患者が発生した食中毒事例もあります。
簡単なようで、実は非常に管理が難しい従業員の健康です。
というのも、ただルールを決めれば大丈夫ではなく、最終的には「人」がどう考え、どう行動するかがポイントだからです。
そのため、結論で述べた対策だけでなく、組織内での「食品安全文化」の醸成も重要なのではないかと思います。


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