

電子レンジで温めて食べるパスタでリステリア食中毒が起きたというニュースを見たよ。加熱する食品でもリステリア食中毒が起きるのですか?
今アメリカでは「パスタ」に関連した「リステリア食中毒」が発生し、多くのメディアに取りあげられています。
昨年にも大きなリステリア食中毒が発生したにもかかわらず、再び多くの死亡者を出す食中毒が発生したことで注目を集めています。



実は、この事件は死亡者数の多さ以外にも、食品安全に関わる人にとって「重要なポイント」がいくつも含まれています。
そこで、この記事では、現在調査が進められているリステリア食中毒について、その概要と「なぜ今回のケースが重要なのか」をわかりやすく解説します。
日本で食品の営業を行っており、リステリア対策にまだ本格的に取り組んでいない方にとって参考になる内容です。ぜひ最後まで読んでみてください。
食中毒の概要
まずは今回発生している食中毒の概要を紹介します。
| 患者数 | 27人 |
| 入院率 | 25人(入院率:93%) |
| 死亡者 | 6人+妊娠中の女性が感染して胎児が死亡 |
| 患者の発症日 | 2024年8月1日~2025年10月16日 |
| 患者の居所 | 18州 |
| 原因食品 | Nate’s Fine Foods社が製造したパスタ |
| 原因菌 | リステリア(Listeria monocytogenes) |







最近(2025年11月)のニュースなのに、患者は2024年8月から発生していたのですね。
食中毒の大まかな時系列は下のようになっています。
- USDA FSIS(米国農務省 食肉検査局)が、FreshRealm社の「チキン フェットチーネ・アルフレード」を定期的な検査のためサンプリング



「フェットゥチーネ・アルフレード」はバターとチーズをベースにしたパスタ料理です。
- USDA FSISが検査したFreshRealm社の「チキン フェットチーネ・アルフレード」からリステリアを検出し、それが2024年8月から発生しているリステリア症患者と同じ遺伝子型であることが判明
- FreshRealm社が複数の「チキン フェットチーネ・アルフレード」製品の自主回収を開始(下写真)
- 回収となった製品は大手スーパーの「クローガー」、「ウォルマート」で販売されていた
- この時点で患者数は17人、死亡は3人


- FreshRealm社が同社の製品「ビーフミートボール・リングイネ・マリナーラ」(下写真)を検査したところ現在食中毒を起こしているものと同じ遺伝子型のリステリアを検出



「リングイネ・マリナーラ」もパスタ料理で、リングイネという平たいロングパスタに、マリナーラソースを合わせたものです。


- 同社が原材料の検査も行ったところ、「パスタ」からリステリアを検出
- この結果を受けFreshRealm社は、この「パスタ」を含む他の製品についても自主回収を拡大
- この時点で患者数は20人、死亡は4人
- 原材料の「パスタ」から検出したリステリアについて全ゲノムシークエンス(WGS)を行ったところ、現在食中毒を起こしているものと同じ遺伝子型であることが判明
- このパスタの製造元である「Nate’s Fine Foods社」は、様々なパスタを使った製品の自主回収を開始
全米の他の大手スーパーで販売されていた製品についても回収が拡大
10月30日時点で患者数が27人、死亡は6人であることをCDCが発表



最初に「FreshRealm社」が疑われたけど、さらに詳細な調査で、その原料メーカーである「Nate’s Fine Foods社」が原因だと分かったのですね。
食品安全に関わる人が学ぶべき3つのポイント



このリステリア食中毒の何がそんなに問題だったのですか?



私の記事でもよく登場する前FDAの副長官である「フランク・ヤーナス氏」が、Food Safety Newsにこの事件の問題点を寄稿していますので、それをを参考に紹介します
①もっと早くに原因を解決できていれば. . .
今回のリステリア食中毒は、実はかなり早い段階で「異常の兆し」が見えていた事案でした。
最初のきっかけは、USDA FSIS(米国農務省 食肉検査局)の定期検査でリステリアが検出され、 Fresh Realm社 が製品の自主回収を始めた「6月17日」です。
その後の調査で、問題の核心は「原料のパスタそのもの」にあったことが判明しました。
パスタを製造していた Nate’s Fine Foods社 が出荷した原材料にリステリア汚染の可能性があり、この会社でも自主回収が相次いで発生しました。


ところが、患者の発生状況を追ってみると、話はそこで終わりません。
- 最初の回収:6月17日
- 現時点で最後に確認された患者の発症日:10月16日



最初の問題が発覚してから4か月も経ったあとにも新規患者が出続け、死亡例が出ていたのですね。
このことは、6月の時点で根本原因の究明と対策が十分に行われていれば、新たな患者発生や死亡例、そして追加の自主回収が防げた可能性が高いことを示唆しています。



問題があった時に製品を回収するだけでは不十分です。何が起きたのかを正確に突き止め、拡大・再発を防ぐために、行政機関も事業者も徹底した根本原因分析を行う必要があります。
第三者監査の限界が浮き彫りに
Fresh Realm社 が自主回収を始めたのは「6月17日」です。
しかし、、そのわずか1か月前の5月に、原因となったパスタの製造元「Nate’s Fine Foods社」に対し、FDAは通常の立ち入り検査を行っていました。
この立ち入り結果はすでに公開されており、評価は 「NAI(No Action Indicated:特に問題なし)」です。
つまり、問題のある製品をまさに製造していた時期にもかかわらず、FDAは異常を見つけることができなかったことになります。


さらに、Nate’s Fine Foods社 は全米の大手小売店向けに幅広く製品を供給していた企業であるため、GFSI承認規格の第三者認証を取得していた可能性が高いと考えられます。
第三者認証では通常、年に1回の監査が行われます。
第三者監査報告書そのものは確認できていませんが、もし認証を受けていたとすれば、監査機関もこの問題を見抜けていなかった可能性があります。



「行政の立ち入り検査を受けているから安全」、「第三者認証を取っているから安心」。こうした考え方は、今回の事例を見る限り、必ずしも正しいとは言い切れません。第三者監査の限界については、下記の記事でも詳しく解説していますので、参考にしてください。


加熱するから安全 . . . とは言い切れない?
今回回収されたパスタ製品のラベルを確認すると、いずれも「要冷蔵」(5℃以下)又は「要冷凍」で、「電子レンジで加熱して食べる」(Ready to heat)タイプの製品でした。



時系列で示した製品画像を見ると、電子レンジでの加熱時間はそれぞれ「7分」「4分」「2.5分」となっています。
現時点では、正式な原因はまだ明らかになっていません。
しかし、「消費者が加熱して食べのが前提の製品でリステリア食中毒が発生した」という事実は、食品安全の観点から見ても非常に大きな懸念材料です。



リステリアは本来加熱に弱い菌なのに、加熱調理する食品で食中毒が起きてしまったということですね。
今回食中毒が起きてしまった原因として考えられる可能性としては、例えば次のような点が挙げられます。
- メーカーが想定した電子レンジでの加熱条件では、リステリアを確実に死滅させるには不十分だった
- 消費者が加熱時間を守らず、十分に温まらない状態で食べてしまった



私自身も急いでいる時には「ちょっと短めに加熱してしてみよう」や「複数の商品をまとめて温め、ムラが残ってしまう」ことがあります。
こうした状況を踏まえると、今回のケースについては
- メーカー側が「最終的に消費者が加熱するから大丈夫」と過度に依存していた可能性
- リステリアを十分に管理すべき危害要因として扱っていなかった可能性
といった点が課題として浮かび上がります。



「最終的に加熱するから問題ない」という前提に頼り切ってしまうと、重要なリスクを見落とすことにつながります。今回のリステリア食中毒は、その危うさをあらためて示した事例と言えるでしょう。
おわりに
以上、アメリカで現在調査が進んでいるリステリア食中毒の概要と、その背景にある問題点を紹介しました。



私の施設でも「加熱するから大丈夫」と油断せず、リステリア対策を改めて見直したいと思います。
ちなみに日本ではリステリアの基準がある食品は、①生ハムなどの「非加熱食肉製品」と②ソフト、セミハードタイプの「ナチュラルチーズ」だけです。
しかしアメリカでは、これら以外の食品でも多くのリステリア食中毒が発生しており、今回のようにRTE(加熱せずに食べる食品)ではない製品でも食中毒が起きているという点は非常に重要な事実です。
このことから、
- 行政は、日本のリステリア基準の妥当性について再検討する必要がある
- 食品事業者は、リステリア管理の方法を改めて見直す必要がある
と考えられます。



今回、なぜ「加熱して食べるはずの食品」でリステリア食中毒が起きたのかについては、引き続き調査中です。詳細な報告書が公表された際には、あらためて紹介したいと思います。









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