

飲食店での食べ残しの「持ち帰り」について、国が促進しているというニュースを見たよ。
持続可能な開発目標(SDGs)で「2030年までに世界の食品ロスを半分に減らす。」という目標が設定されたことを踏まえ、日本でも「食品ロス」を減らす取組が推進されています。


その一つとして、2024年12月に「食べ残し持ち帰り促進ガイドライン」が消費者庁・厚生労働省により発表されました。



このガイドラインにより日本でも「食べ残しの持ち帰り」が浸透し、「食品ロス」が減少することが期待されています。
それでは他の国はどのような取組があるのでしょうか。
アメリカでは「食べ残しの持ち帰り」は歴史が古く、日本よりも一般的です。
例えば、飲食店で食べきれなかった食事を持ち帰る際に使用する容器を表す英単語として「ドギーバック」(doggie bag)があります。
アメリカが第二次世界大戦に参戦していた1940年代に、食料不足が日常的に起こっていました。そのため、レストランがペットの飼い主に食べ残しをペットに与えるよう勧めたことから「ドギーバック」が始まったと言われています。



そんなに古くから「持ち帰り」が行われていたのですね!
そして、このように「持ち帰り」に長い歴史があるアメリカでは、最近の社会情勢を受けてさらなる「エコ」な取組が行われています。
そこでこの記事では、「食べ残しの持ち帰り先進国」であるアメリカの一歩進んだ取り組みについて紹介したいと思います。
Food Code の「持ち帰り容器」の基準が改正
2024年11月にFDAが Food Code の追補版(Food Code Supplement)を発行しました。
Food Code についてご存じない方は、下の記事をご覧ください。


追補版ではいくつかの改正点がありますが、その一つが「テイクアウト」や「食べ残しの持ち帰り」の際に使われる容器についてです。
この Food Code の改正により、飲食店やイベントでの「持ち帰り」だけでなく、小売店や惣菜店での量り売りで、施設側が用意した再利用可能な容器や、消費者自身が持参した容器を使うことがより推進されると考えられています。



少し長いですが、Food Code の改正された規定を紹介します。
3-304.17 再利用可能な容器に食品を詰めること
(A) 以下の条件を満たした場合、従業員または消費者によって食品を容器へ詰めることができる。
- 容器が、本規定の4-101.11、4-201.11及び4-202.11に規定されている複数回使用の要件に従って設計・製造されていること。
- 食品を詰める前に、本規定の4-601.11、4-602.11、4-701.10、4-702.11及び4-703.11に規定されている手順に従って、容器が洗浄及び殺菌されていること。
- 従業員が目視で容器を検査し、使用前に容器が規定された要件を満たしていることを確認すること。
(B) (D)項で規定されている場合を除き、食品を容器に詰める際は、以下の点に注意する。
- 容器へ詰める際には、汚染のない方法で行うこと。
- 容器を取り扱う際は、食品接触面に直接触れないこと。
- 食品接触面は、本規定の4-6に従って洗浄し、4-7に従って従業員によって殺菌されていること。
(C) 及び(D) (略)
Supplement to the 2022 Food Code, FDA



難しく感じた人もいるかもしれないため、少し補足します。
(A)の1にある「4-101.11、4-201.11及び4-202.11」は食品に触れる器具の耐久性、有害物質が食品に移行しないことなどが書かれています。
(A)の2にある「4-601.11、4-602.11、4-701.10、4-702.11及び4-703.11」は一般的な洗浄・消毒について書かれています。
そのため、上の(A)、(B)を要約すると、「容器は耐久性があり、きちんと洗浄・殺菌されたものを使用し、食品を詰める前に容器を従業員が目視でチェックすること。食品を詰める際には、食品、容器、作業台を汚染しないよう注意すること。」となります。
また、当然ですが「使い捨て容器」を再利用することはできません。



なるほど。当たり前のことが書かれているのですね。
なぜ再利用ができる容器が推奨されているのか



どうして Food Code が改正されることになったのですか?
Food Codeが改正された背景としては、再利用可能な持ち帰り容器について以前のFood Codeが厳しすぎたこと、そして世界的な「使い捨て容器」の使用削減の動きや、再利用可能な容器の使用についての需要の高まりを受けたためです。


日本もそうですが、飲食店で食べ残しを持ち帰る際には、食品安全の観点から店側が用意した「使い捨て容器」が使われることが一般的です。
また、新型コロナウイルス感染症の影響により、「テイクアウト」や「フードデリバリー」が一般的になりましたが、その際にも「使い捨て容器」が使われます。
このように食品業界で重宝されている「使い捨て容器」ですが、世界中で日々大量に製造・廃棄されており、環境への影響を見過ごすことができなくなっています。



例えばスターバックスは、毎年約70億個の使い捨てカップを消費しています。





世界的に「使い捨て容器を減らそう」という流れがあるのですね。実際に「再利用可能な容器」は「使い捨て容器」を使うより環境負荷が少ないのですか?
「再利用可能な容器 vs 使い捨て容器」の比較については、多くの研究があります。
ここではミシガン大学が行った研究について、要点を紹介します。
- 再利用できる容器は使い捨て容器に比べて、最初は製造に多くのエネルギーを必要とし、温室効果ガスを多く排出する。
- しかし、4回から13回使用すれば、使い捨て容器と同等か、それよりも環境負荷が低くなった。
- 再利用できる容器の環境負荷が低くなるために必要となる使用回数は、どのような種類の使い捨て容器の代わりに使用するかによって変わる。
- ただし、消費者が使用した容器を返却するためだけに車で移動したり、容器を洗う際に水を使いすぎると、エネルギー削減効果が失われる可能性がある。
- そのため、消費者が適切な行動をとるよう促すための「教育」も重要となる。



ただ「再利用可能な容器」を利用すればよいのではなく、それ以外の面も含めて環境影響に気を付けなければならないのですね。



環境面だけでなく、再利用可能な容器を使用することは、お店にとっても経済面でのベネフィット、従業員や顧客満足度の向上といった良い面もあります。
事例紹介
それでは「再利用可能な容器」についての取組事例を紹介します。
自治体の取り組み
アメリカのオレゴン州は2023年に州法を改正しました。
従来はレストランでの食べ残しやテイクアウトを、「客が持参した容器」で持ち帰ることは禁止されていました。
しかし、改正後はルールに従えば、客が持参した容器で持ち帰ることが可能になりました。
さらに2025年1月からは、レストランで「発泡スチロール」の持ち帰り容器を使用することが禁止になりました。



このように法律の後押しがあれば、食品事業者も「再利用可能な容器」に移行しやすいですね。
大学の取り組み
現在アメリカの多くの大学の食堂では、持ち帰りの際に共有の再利用可能な容器を導入しています。
例えばテキサス州立大学では、以下のように容器が循環しています。
利用者は6ドルのデポジットを払い、食堂で「再利用可能な容器」を入手する。
食堂での「食べ残し」や「テイクアウト」を持ち帰る際に容器を使う。
食べた後は、容器を軽くすすぎ、食堂や大学構内に設けられた回収ボックスに容器を返却する。
回収された容器は、専門の業者によって洗浄・消毒が行われ、再び大学の食堂に戻る。


テキサス州立大学の食堂では、1日あたり3,000~4,000食が提供され、そのうち約10%がテイクアウトされるようです。
そのため、1日あたり300~400個の使い捨て容器が削減されることになります。



大学のように「同じ人」が「同じ場所」で頻繁に食事をする場合、このようなビジネスモデルが実行しやすいのですね。



カナダのオタワでは同じような取組を市レベルで試行しています。ビジネスとして成り立つのかは、今後の結果次第です。
おわりに
以上が、アメリカでの「再利用可能な容器」についての最近の話題でした。



Food Code のように基準が改正されたり、使い捨て容器の使用が禁止されるなど、法律的な後押しがあるのが印象的でした。
ちなみに冒頭で紹介した日本の「食べ残し持ち帰り促進ガイドライン」では、持ち帰りの際に使用する容器について以下のように書かれています。
③衛生的な移し替えに関する留意事項
容器への移し替えは、原則、持ち帰る消費者に実施させること。
また、持ち帰りの容器は、事業者が衛生的に保管し、清潔な容器、器具(箸等)を提供すること。事業者は、消費者が以下の事項を守って移し替えが出来るよう配慮すること。
- 衛生的な移し替えができるよう、清潔な容器、器具を使って行うこと
- 発熱や下痢等の体調不良のない、大人が行うこと
- フードコート等の場合、異なる施設の食品を同一の容器に詰めないこと



厚生労働省は「再利用可能な容器」の利用について、あまり積極的に推進していないように見えますね。
確かに食品安全の面だけ見れば、消費者が持参した容器を使うのは危険かもしれません。
しかし、将来にわたって「安全な食品」を十分な量供給し続けるには、地球規模の視点を持つことが大切です。
そのため、より環境にやさしく「持ち帰り」を推進していくためには、食品事業者だけが行うのでなく、行政機関による法的な後押し、消費者の意識を変えるためのコミュニケーション、教育訓練が必要だと思います。



アメリカに「ドギーバック」があるように、日本にも「もったいない」があり、物を粗末にしないという文化の下地があります。今後、自分の容器で持ち帰り・テイクアウトをする人が増えるといいですね。
持ち帰りについては下の記事でも触れていますので、ぜひご覧ください。


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