

ペットフードが原因で、ペットが「鳥インフルエンザ」に感染したというニュースを見たよ。ペットフードが病原菌に汚染されていることがあるのですか?
日本と同様にアメリカでも「鳥インフルエンザ」が猛威を振るっており、乳牛や家禽類、野生動物への感染が広がっています。


それに伴い、アメリカでは「ペットフードが鳥インフルエンザに汚染されていた」ため回収される事例が頻発しています。
また、ペットの猫や犬が「鳥インフルエンザに汚染されたペットフード」を食べたことで病気になったり、死亡したりする事例も報告されています。



アメリカでは2022年以降、少なくとも136匹の飼い猫が鳥インフルエンザに感染しています(USDA。2025年4月12日現在)。
そして、ペットフードの問題は「鳥インフルエンザ」だけに留まりません。
ペットフードが食中毒菌に汚染されていたため、飼い主が感染する事例も数多く報告されています。
そこで今回は、アメリカで最近よくニュースで目にする「ペットフードのリスク」について、ニュース記事を参考に紹介したいと思います。
今回紹介する記事は、「With bird flu cases rising, certain kinds of pet food may be risky for animals – and people」(鳥インフルエンザの患者が増加する中、ある種のペットフードは動物にとって、そして人間にとっても危険かもしれない)(CNN、2025年1月18日)です。
この記事を読みながら英語だけでなく、ペットフードの安全性、飼い主の考え方、行政機関の対応につい学びましょう。



日本であまりペットフードが話題になることはありません。しかし、アメリカで問題になることは、将来日本でも問題になることが多いです。
事前にアメリカの最新状況を学んで、対策に役立てましょう。
ペットフードでペットが鳥インフルエンザに感染
まずは記事で紹介されている事件の概要を紹介します。
- オレゴン州で、室内飼育されていたペットの猫1匹が、七面鳥の生肉を使ったペットフードを食べた後に死亡した。
- 死亡した猫を検査したところ「高病原性鳥インフルエンザウイルス」が検出された。
- 開封済みのペットフードを検査したところ、「高病原性鳥インフルエンザウイルス」が検出された。
- 死亡した猫及びペットフードから検出した「高病原性鳥インフルエンザ」の遺伝子型が一致した。
- 当該ペットフードの製造メーカーが自主回収を行った。


この事件のように「生肉」を使ったペットフードが原因で、ペットが病原菌に感染する事例はあとを絶ちません。



飼い主はどうして「生肉」を含むペットフードをペットに与えるのでしょうか?
記事では、死亡したペットの飼い主は下のように述べています。
She also wanted to be sure that Villain ate a high quality diet. Like a growing number of pet owners in the US, she liked the idea of giving her pets raw food, which she believes is healthier since it was less processed than dry kibble and perhaps more similar to what animals eat in the wild.
彼女はまた、ヴィラン(ペットの猫の名前)に質の高い食事を与えたいと思っていました。アメリカでペットに生の食事を与える飼い主が増えているように、彼女もペットに生の食事を与えることに魅力を感じていました。なぜなら、生の食事はドライフードよりも加工度が低く、野生の動物が食べるものに近いと考え、より健康的だと信じていたからです。
CNN



「自然」=「健康に良い」というイメージがあるため、ペットに生肉を与える飼い主は増加傾向にあります。
先ほどの自主回収を行ったペットフードの製造メーカーのウェブサイトには、生の原料を使ったペットフードを与えることによる健康面のベネフィットが多く書かれています。例えば下のようなものです。
There are many reports of pets with chronic illnesses, food intolerances and allergies whose symptoms have disappeared since they were transitioned to a raw food diet.
生食に切り替えてから、慢性疾患、食物不耐性、アレルギーを持つペットの症状がなくなったという報告が多数あります。
Adding some raw food to a pet’s current diet or switching one meal a day a few times a week can be very beneficial to your pet’s overall health.
ペットの毎日の食事に少し生の食材を加えたり、週に数回、1日1食を生の食事に切り替えたりすることは、ペットの総合的な健康状態にとって非常に有益です。
Northwest Naturals Raw Pet Food



人が持っている「自然なものの方が健康に良い」というイメージをうまく利用してマーケティングしているのですね。
また同じ考え方で、生肉だけでなく「生乳」(未殺菌乳)もペットに与えることが人気となっています。
記事の中でも、生乳を与えたことで飼い猫のうち2匹を亡くし、1匹を危篤状態にしてしまったカリフォルニア州の飼い主は次のように言っています。
Journell told CNN that he began supplementing the regular diet of his oldest cat, Alexander, with raw milk after the cat lost weight. He said he believed that Alexander was developing kidney problems, which are common in cats, and hoped the raw milk might heal him. Journell said Alexander did seem to gain weight and get more energy, so he began to offer raw milk to his other cats, too.
ジャーネル氏はCNNに、最年長の猫アレクサンダーが痩せてきたため、普段の食事に生乳を足して与え始めたと話しました。猫によくある腎臓の病気が始まったと思い、生乳で良くなるかもしれないと期待したそうです。アレクサンダーは実際に体重が増え、元気になったように見えたため、他の猫にも生乳を与えるようにしたということです。
CNN


以前、アメリカで生乳を飲むことに根強い人気があるという記事を書きましたが、そこでも被害者の母親が上と同じようなことを言っています。


このようにペットの飼い主達は、「犬や猫はもとは野生動物だから、より自然に近い食事を与えたほうが良い」という考え方を持っています。
しかし、専門家によるとその考え方は誤っているようです。
The idea that raw food is healthier because it is closer to the diets of wild animals isn’t correct, he said.
生の食べ物は野生動物の食事に近いから健康的だという考えは、間違っています。
“The little fluffy dog is sitting on your couch is very much removed from a wolf or a fox in terms of its intestinal tract, intestinal bacteria, its physiology. They aren’t just wild animals that we moved into our house today. They’ve evolved with us and changed with us,” Weese said.
「ソファに座っている小さな愛らしい犬は、消化器官、腸内細菌、体の仕組みといった点で、オオカミやキツネとは大きく異なっています。私たちのペットは、ただ野生動物を連れてきたわけではありません。私たちと一緒に進化し、変化してきたのです。」とウィーズ氏は述べています。
CNN
私はペットの専門家ではないため生肉を含むペットフードの「良い・悪い」は分かりません。
しかし、少なくとも食品安全の専門機関であるFDAとCDCは、ペットへ生の食事を与えることは推奨していません。
ペットフードが原因で飼い主が食中毒菌に感染



鳥インフルエンザ以外にもペットフードが汚染されていることはあるのですか。



実はペットフードから食中毒の病原菌が検出されることは珍しくありません。
FDAが市販品の「生肉を含むペットフード」の汚染状況を調査したところ、サルモネラは約8%、リステリアは16%の製品から検出しました。
それ以外の調査でも、生肉ベースのペットフードは、ドライフードよりも高い汚染率となっています。
ペットは私たちの生活に密接に関わっており、ペットフードは素手で扱われることも多いです。
そのため、ペットやペットフードを通じて人に(鳥インフルエンザを含めた)これらの病原菌が感染することがあります。
それでは次にペットフードが原因で、人がサルモネラに感染した主な事例を紹介します。
年 | ペットフードの種類 | サルモネラの血清型 | 患者数 |
---|---|---|---|
1999 | 豚の耳(犬用おやつ) | Infantis | 30人 |
2002 | ペット用おやつ | Newport PT 14(多剤耐性) | 5人 |
2005 | 犬・猫用おやつ | Thompson、 Cerro、 Meleagridis | 9人 |
2008 | ドライペットフード | Schwarzengrund | 70人(21州) |
2012 | ラム肉と米を主原料とするドライタイプのドッグフード | Infantis | 49人(20州+カナダ) |
2013 | チキンジャーキー(おやつ) | Typhimurium | 43人(16人が入院) |
2018 | 七面鳥のひき肉ベースのペットフード | Reading(多剤耐性) | 358人(入院133人、死亡1人) |
2019 | 七面鳥の生肉ベースのペットフード | ||
2019 | 豚の耳 | CerroDerby、 London、 Infantis、 Newport、 Rissen、 I 4,[5],12:i:‐ (多剤耐性) | 154人(35人が入院。34州。27人が5歳未満) |
2023 | 犬・猫用ドライフード | Kiambu | 7人(1人が入院。7州。6人が1歳未満) |
2024 | 生肉ベースのペットフード | I 4,[5],12:i:‐ (超多剤耐性) | 44人(13人が入院。カナダの10州。43%が5歳未満) |



ペットフードが原因で100人以上が感染した事例も起きているのですね。



複数の抗生物質に耐性を持つ菌も検出しており、ペットフードの汚染は公衆衛生上、重要な課題になっています。
生ペットフードに対するFDAの対応
アメリカではペットフードはFDAによって規制されています。
そのため、人向けの食品と同様に製造メーカーはHACCP、cGMPなどの実施が必要となります。
そして、ペットフードの鳥インフルエンザウイルスの汚染及び自主回収の頻発を受け、FDAはペットフードの製造者に対し以下のような指示を出しています。
The agency directed pet food manufacturers to consider the risk of bird flu in their required food safety plans, including adding a step to cook animal products like milk, meat or eggs, or adding supply chain controls to ensure that the products they’re using in their food don’t come from infected flocks or herds.
FDAはペットフード製造業者に対し、必須となっている食品安全計画について、鳥インフルエンザのリスクを考慮するよう指示しました。具体的には、牛乳、肉、卵などの動物性製品を加熱調理する工程を追加すること、または食品に使用する製品が感染した家禽や家畜由来でないことを保証するためのサプライチェーン管理を強化することなどです。
CNN



メーカーは鳥インフルエンザのリスクも管理しなければならないのですね。
そして、飼い主への助言は人向けの食肉を扱うときと同じで、しっかりと手洗いすること、そして、ペットフードが触れた作業台、調理器具、ペット用の食器の洗浄・消毒となっています。



しかし、実際には多くの飼い主はそのような注意喚起を知らないようです。


アメリカ国内の1,000人以上の犬猫の飼い主を対象とした調査が行われました。
結果は下のように、多くの飼い主が「ペットフードのリスク」について十分な知識を持っていないことがわかりました。
- 25%が生肉ベースのペットフードを与えている。
- ペットに餌を与えた後に42%が手を洗っていない。
- 8%がペットフードやおやつを自分自身で食べたことがあった。
- 78%が最近のペットフードのリコールや食中毒の発生について知らなかった。
- 4分の1は、ペットフードが食中毒の原因となる可能性があると知らなかった。



この調査結果から、ペットフードが食中毒菌に汚染されていた場合、飼い主が感染するリスクはかなり高そうですね。
おわりに
以上がアメリカでのペットフードの最新の状況を、ニュース記事を読みながら紹介しました。
アメリカほど多くはありませんが、日本でも約9%の世帯がペット(犬または猫)を飼育しています。
最近では、ペット同伴可能な飲食店やペットと泊まれる宿などの「ペットツーリズム」も人気があり、私たちの食事とペットの食事はとても近い状況になっています。
そして、日本においても過去にペットフードがサルモネラに汚染されていたため、自主回収された事例もあります。
日本ではペットフードの最終製品について病原菌の基準はありません。
製造基準として「加熱し、又は乾燥するにあっては、微生物を除去するのに十分な効力を有する方法で行うこと」、「病原微生物により汚染され、又はこれらの疑いがある原材料を用いてはならない」といった曖昧な基準があるだけです。
そのため、アメリカと同様に、「健康に良い」というイメージが先行し「生ペットフード」ブームが起きた際に、食中毒菌の感染が拡大しないか心配です。



インターネットで検索すると、多くの「生肉ベースのペットフード」があり、「生肉が良い」という情報を簡単に見つけることができます。
そのため、ペットフードを扱う製造者や飼い主だけでなく、ペットと触れ合う可能性がある食品事業者も、ペットフードのリスクをきちんと理解し、対策を取っていく必要があります。
コメント
コメント一覧 (1件)
ペットフードでサルモネラの食中毒が多い理由は、二次汚染が起きやすい製造環境にあるのとサルモネラが乾燥に強いためでしょうか?
どのような原因で汚染が起きているのか解説してもらえると助かります。