知っているようで知らない!サルモネラ食中毒について解説

知っているようで知らない!サルモネラ食中毒について解説

アメリカでメロンが原因のサルモネラ食中毒が起こっていると聞いたよ。サルモネラは卵や肉類にいる菌ではないのかな?

サルモネラ食中毒というと何を原因食品として思い浮かべるでしょうか。

三重県のホームページによると

牛・豚・鶏などの食肉、卵などが主な原因食品です。特に近年では鶏卵のサルモネラ汚染率が増加し、卵内にも菌が認められることがあるので注意が必要です。これまでに、卵焼きやオムレツ、手作りケーキやマヨネーズなどからもサルモネラ食中毒がおこっています。」

とあります。

やはり肉類や卵に注意が必要なようです。

実はサルモネラ食中毒は、思っていないような食品が原因になることもあります。

この記事では、アメリカで発生したサルモネラ食中毒を紹介します。

日本であまり事例がない食品が原因になっているので、サルモネラ対策を考える上で参考にしてください。

目次

アメリカでのサルモネラ食中毒の発生状況

まずは、アメリカでのサルモネラ食中毒の発生状況を見てみましょう。

サルモネラ食中毒は、毎年100~150件前後発生しています。

Salmonella outbreaks

患者数は、2,000~5,000人の間を推移しています。

Salmonella_illnesses

上記のデータは行政に食中毒と断定され、CDCへ報告された数です。しかし、実際の食中毒の患者数はもっと多いと考えられています。

CDCの推定ではサルモネラによる食中毒患者数は毎年103万人、入院が2万人、死亡が380人程度いると考えられています

ちなみに日本の場合、厚生労働省の食中毒統計では、事件数20~30件程度、患者数600~1000人程度で推移しています。一方で、サルモネラ食中毒の患者数は年間10万~30万人程度いると推定されています

サルモネラによる広域食中毒

次に、近年アメリカで発生した広域的なサルモネラ食中毒をいくつか抜粋して紹介します。

原因食品サルモネラの種類患者数州の数
2023メロンSalmonella Sundsvall30242
角切り玉ねぎSalmonella Thompson8023
牛挽肉Salmonella Saint Paul184
生のクッキー生地Salmonella Enteritidis266
小麦粉Salmonella Infantis1413
2022アルファルファスプラウトSalmonella Typhimurium638
生のサーモンSalmonella Litchfield394
ピーナツバターSalmonella Senftenberg2117
2021スティックサラミSalmonella I 4,[5],12:i:3410
魚介類Salmonella Thompson11515
玉ねぎSalmonella Oranienburg1,04039
食肉製品Salmonella Infantis,
Salmonella Typhimurium
4017
サラダSalmonella Typhimurium314
冷凍の調理済みえびSalmonella Weltevreden94
未加熱の鶏肉の冷凍食品Salmonella Enteritidis3611
ブリーチーズS.Chester, S.Duisburg,
S.Typhimurium, S.Urbana.
204
七面鳥のひき肉Salmonella Hadar3314

上に書いた原因食品を含め、野菜、果物、スプラウト、木の実、キノコ、魚、乳製品、ピーナツバター、シリアル、小麦粉など、日本ではあまり食中毒の原因にならない食品がサルモネラ食中毒の原因として特定されています。

また、毎年のように広域的な食中毒が報告されていることも、日本との違いです。

ピーナツバター、シリアル、小麦粉はすごく乾燥した食品なのに、なぜサルモネラ食中毒の原因になるの?

それを理解するにはサルモネラの特性を知る必要があります。
ピーナツバターを例に解説します。

ピーナツバターでなぜ食中毒が起きるのか?

細菌が増殖する条件について

微生物学を学んだことがある人だと、細菌が増殖する条件を知っていると思います。

日本語ではよく「温度」、「水分」、「栄養分」の3つが細菌増殖の3条件と呼ばれたりします。

英語では「FATTOM」という頭字語(acronym)を使って、細菌増殖の条件を表現します。

Food(食べ物)

細菌が増殖するための食べ物。細菌が好きな食べ物は人間と同じで、動物性タンパクを多く含む食品(例:肉、魚介類、卵、乳製品など)です。また、加熱処理された植物性の食品(例:調理されたジャガイモ、調理された米、豆腐、大豆タンパク食品など)も好みます。

Acidity(酸度)

細菌は一般的に酸性やアルカリ性の食品が苦手です。酸度はpHで表されます。一般的に、pH値が4.6以下の食品は酸度が強すぎるため、細菌が増殖することができません。

Temperature(温度)

一般的に、多くの細菌は5~60℃(危険温度帯)の間で増殖します。ただし、細菌の種類によって好む温度は異なり、より高温を好む細菌、より低温を好む細菌もいます。

Time(時間)

細菌が増殖するには時間が必要です。条件が整えば、1つの細菌が20~30分ごとに分裂して2倍になっていきます。

Oxygen(酸素)

増殖するために酸素を必要とする細菌がいます。一方で、酸素がない状態を好む細菌もいます。また、酸素があってもなくても増殖する細菌もおり、サルモネラなどの多くの食中毒細菌はこのグループに属します。

Moisture(水分)

細菌が生きていくためには水分が必要です。脱水、冷凍、塩漬け、砂糖漬けなどの方法で食品から水分を取り除くことで、細菌の増殖を抑えることができます。食品中の水分量は水分活性で表されます。通常、水分活性が0.85以下の食品は、細菌の増殖を維持するのに十分な水分を含んでいません。

FATTOMの中で注目してほしいのが「Moisture」(水分)です。

ピーナツバターは一般的に水分活性は低く、0.35以下です。

通常、水分活性を0.85以下にすれば食中毒細菌は増殖できず、0.50以下であらゆる微生物の増殖を防ぐことができます

そのため、ピーナツバター自体は、比較的安全な食品と言えます。しかし、増殖できないだけで、長期間生存することができる場合があります。

ピーナツバター中でサルモネラがどれくらいの期間生きているかを調査したところ、24週間後でも生存していました。つまり、ピーナツバターがサルモネラに汚染されていた場合、賞味期限の期間くらいは生き延びることができるということです。

ピーナッツバターのピーナッツ(落花生)自体は土壌中で育つため、ピーナッツの細菌汚染をゼロにすることは難しいです。実際、ピーナッツの約2%からサルモネラが検出されています。

そのため、収穫後の工程、特に加熱工程である「焙煎」がサルモネラを死滅させる上で重要になります。

焙煎がHACCPで言うところの「CCP」(重要管理点)になるわけです。

なぜ食中毒が起きたのか?

ここで、以前別の記事で紹介した2009年のピーナツバターが原因となったサルモネラ食中毒を見返したいと思います。

原因工場に立ち入った際にFDAが以下の指摘をしています。

  • 手洗い設備は、調理器具やモップの洗浄にも使用されていた(交差汚染の恐れ)。
  • 焙煎工程の機器の設定(例:焙煎温度やベルトの速度)が細菌を死滅させるのに十分であるかどうか評価をしていなかった。
  • 生のピーナッツと焙煎後のピーナッツが隣り合わせに保管されていたため、焙煎後の製品が汚染される可能性があった。
  • 建物に隙間があり、搬入口や屋根の空調用吸気口周辺から害虫が工場に侵入できるようになっていた。

つまり、この工場では「焙煎工程の妥当性評価を行っていなかった」、「焙煎後のピーナツが汚染される環境にあった」というわけです。

そのためこの食中毒は、「ピーナッツの焙煎工程でサルモネラを死滅させることができなかった」または「焙煎後のピーナツがサルモネラに汚染された」ために発生したと考えられます。

加熱条件を決めるときの注意点

実はピーナツバターが原因の食中毒は先ほど紹介した2009年の食中毒以外にも、1996年2007年2012年2022年などと頻繁に起きています。

つまり、ピーナッツバターのサルモネラ食中毒は、2009年のPCA工場特有の問題ではなく、どこの施設でも起こりえる問題ということです。

サルモネラは一般的には熱に弱いと考えられています。しかし、水分活性の低い食品中では耐熱性を示すことがあり、食品の水分活性が低くなるにつれて耐熱性が高くなると言われています。

例えば、水分活性0.99の食品の場合、60℃で5分間加熱すればサルモネラをほとんど死滅(105 減少)させることができます。

しかし、水分活性0.85の食品では同じ条件では不十分で、サルモネラをほとんど死滅させるためには60℃で50分間加熱する必要があります。

さらに、水分活性以外にも、食品の組成(脂肪含量、タンパク質含量、酸度など)もサルモネラの耐熱性に影響を与えると言われています。

別の製品で使われている加熱条件を自分の製品に当てはめても、十分にサルモネラを死滅させることができない場合があるということです。

ピーナッツバターは、水分活性が極めて低く、脂肪含量が高いため、水分活性0.85の食品よりもさらに耐熱性が高くなると予想されます。

そのため、ピーナッツを原料に含む製品を作る際には、一般的なD値やZ値を特定の製品の工程に当てはめるのではなく、その製品中でサルモネラを十分に死滅させることができる殺菌条件かどうかを評価する必要があります。

実際の製品の組成、加熱方法と条件食品を考慮して、殺菌条件を決定しないと、サルモネラが生き延びる恐れがあるということです。


この記事ではアメリカで発生したサルモネラ食中毒とピーナッツバターを例にサルモネラの特性について解説しました。

多くの人が、「水分活性が低い食品は微生物が増殖しないから安全だ。」という認識を持っています。

サルモネラはそのような「思い込み」や「油断」の隙をついてくるわけです。

みなさんの施設でも、「日本だけでなく、アメリカで自分の製品に似た製品で食中毒が発生していないか」や「自社の製品の特性に応じた殺菌条件を設定できているか」を確認して頂ければと思います。

小麦粉については以下の記事でも紹介しています。

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