お店をやっているけど、食中毒が起きたときに、どれくらいコストがかかるのだろう。
食中毒が発生すると営業停止だけでなく、被害者への補償、売り上げ減少、罰則など、様々な経済的コストが生じます。
「食中毒が起きると、どれくらいコストがかかるの?」というような疑問を持っていませんか。
そこでこの記事では、アメリカの事例を使って、食中毒になった場合の経済的コストを解説します。
食中毒が発生した際にかかるお金を知ることで、食中毒予防にどれくらいお金をかければいいのかを判断する材料になると思います。
なお、この記事では英語から日本語への翻訳に当たって「1ドル146円」(2023年12月1日のレート)で計算しています。
食中毒の経済的コスト
ここではアメリカで行われた研究について紹介します。
この研究では、様々な条件に応じて食中毒の経済的コストがどう変化するかをコンピュータでシミュレーションしました。
様々な条件とは、飲食店の種類、患者数、影響の程度などです。
「影響の程度」とは、様々なシナリオを想定し、どのような経済的コストが生じるか検討したもので、この記事では次の2つの場合のみ紹介します。
「影響が高かった場合」は、レストランの収益が減少し、訴訟、訴訟費用、罰金が発生する場合を想定しています。
逆に「影響が低かった場合」は、収益が減少せず、訴訟、訴訟費用、罰金が発生しない場合を想定しています。
下の表が結果になります。
患者数が5人の場合 | 患者数が250人の場合 | |
---|---|---|
ファストフード店 | ||
– 影響が低い | 58万円 | 120万円 |
– 影響が高い | 2億6000万円 | 2億8000万円 |
高級レストラン | ||
– 影響が低い | 120万円 | 190万円 |
– 影響が高い | 2億6000万円 | 3億8000万円 |
ファストフード店では、5人が発病した場合の食中毒で58万円(影響が低い場合)から、250人が発病した場合の食中毒で2億8000万円(影響が高い場合)の費用が発生する可能性があります。(58万円~2億8000万円)
また、高級レストランの方が、食中毒が発生した場合の費用はファストフード店より総じて高いことが分かります。(120万円~3億8000万円)
表からも分かるように、食中毒が発生した場合の経済的コストはかなり大きく、規模の大きな会社であっても破産することがあります。
ご存じの通り、多くの食中毒は基本的な食品安全対策が適切に取られなかったため発生します。例えば、基本的な手洗いを行う、体調不良時に調理に従事しないことで、多くの食中毒を防ぐことができます。
食品安全対策のうち、従業員教育は、従業員1人あたり数千円で行うことができます。
また、従業員が体調不良の際に出勤しないようにする場合は11,000円から50万円程度の負担で済みます。
食中毒発生の莫大なコストを抑えることができると考えれば、このような食中毒予防に投資をすることは、費用対効果の面で十分価値はあるのではないでしょうか。
過去最大の罰金
上記の説明で、どれくらい費用がかかるのか、イメージできたと思います。
次に、食中毒を起こしたことによる罰金を紹介します。
チポトレ・メキシカン・グリル(Chipotle Mexican Grill)は、アメリカ、カナダ、フランス、ドイツ、イギリスで約3,200店舗を営業しているメキシコ料理のレストランチェーンです。
チポトレは2015年から2018年にかけて、アメリカで複数の食中毒を発生させ、1,100人以上が食中毒になりました。
この結果チポトレは2020年4月に「36億5千万円の罰金の支払い」と「食品安全管理の見直しを実施すること」で、起訴が猶予される制度に合意しました。
この罰金は、食中毒による罰金の過去最高額と言われています。
チポトレで発生した食中毒まとめ(Food Safety Newsから引用)
- 2018年オハイオ州でウエルシュ菌による食中毒。7月26日から7月30日の間に食事をした647人が発病した。
- 2017年バージニア州でノロウイルスによる食中毒が発生。135人以上が発病した。病気の調理従事者が原因であった。
- 2015年マサチューセッツ州でノロウイルスによる食中毒。136人の患者が確認された。
- 2015年広域にわたる腸管出血性大腸菌O26による2件の食中毒。①11州で少なくとも55人が感染。②3つの州で少なくとも5人が感染。
- 2015年カリフォルニア州でノロウイルスによる食中毒。約80人の客と18人のレストラン従業員が症状を訴えた。
- 2015年ミネソタ州でサルモネラによる食中毒。17店舗で患者は81人発生した。
- 2015年ワシントン州で腸管出血性大腸菌O157による食中毒。患者5人のうち3人が入院した。
日本の場合、食品衛生法違反は最も重い場合でも「3年以下の懲役又は300万円以下の罰金」です。
7つの食中毒を起こしてしまったとはいえ、アメリカの罰金の額はとんでもないですね。
ちなみにこの間のチポトレの株価は約1/3になってしまいました。
過去最大の懲役刑
次に、経済的コストではありませんが、食中毒を起こしたことによる「懲役刑」について紹介します。
ピーナッツ・コーポレーション・オブ・アメリカ(PCA)は、年間36億円の売り上げがあったピーナッツ加工の会社ですが2009年に破産しています。
2008年から2009年にかけてアメリカ及びカナダでサルモネラの食中毒が発生し、この原因食品がPCAが製造したピーナッツバターでした。
この食中毒では、患者は700人以上発生し、9人が死亡しました。
結果、PCAのCEOスチュワート・パーネルは人々を病気にする食品を販売した罪で28年の実刑判決を受けました。
また、CEOの弟のマイケル・パーネルは懲役20年、工場の元品質保証マネージャーには懲役5年が言い渡されました。
アメリカでは過去にも大規模な食中毒や死亡事例は発生しましたが、PCA関係者への刑罰は、食中毒発生に関して下された過去の刑罰の中で最も厳しいものでした。それはなぜでしょうか。
実はCEOはピーナツバターがサルモネラに汚染されていたことを知っていたにもかかわらず、それを隠して出荷するよう指示していました。
また、2008年に食中毒が発生する以前から、同社は検査を行っていないにもかかわらず、製品にサルモネラが含まれていないことを顧客に保証していました。
さらに検査でサルモネラ菌が検出された場合、そのロットを再検査し、菌が検出されなければ販売することもありました。
このような食品安全に対する悪質な背景があり、食中毒による刑罰では過去最大となりました。
この記事では食中毒が起こった際の経済的コストについて紹介しました。
みなさん具体的な数字を見て、経済面でも食中毒予防の重要性が認識できたのではないでしょうか。
今回は経済的コストに視点をおいて解説しました。しかし、食中毒により体調を崩してしまった顧客がいることを忘れてはいけません。
お金は払えば済む話ですが、食中毒が起きてしまうと、人の一生を台無しにしてしまう可能性があります。
安全な食品を作るにはコストがかかります。そして、どの程度まで食品安全に資源を割くかは、その企業の選択です。
そのため、食品安全への投資は、その企業が従業員や顧客をどの程度大切にしているかが問われます。
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