食品偽装で大規模食中毒が発生!想定外を想定しよう

アメリカで食品偽装が原因で500人以上の子どもに健康被害があったというニュースを見たよ。食品偽装は品質の問題で、食品安全とは関係ないと思っていたよ。

食品偽装は場合によっては人に健康被害を起こします。

みなさんは、2023年10月から今年にかけて、アメリカで食品偽装が原因で大規模な食中毒が起こったことはご存じでしょうか。

日本ではほとんど報道されなったため、知らない人も多いかもしれません。

子ども向けのパウチ飲料が鉛に汚染されていたことが原因で、アメリカで多くの子どもが被害にあいました。

WanaBana apple cinnamon fruit puree pouch
原因となったパウチ飲料の一つ(画像:FDA

実は日本でも食品偽装は起きており、毎月のようにニュースになっています。

そこで、この記事ではFDAのウェブサイトを参考に、「食品偽装」について解説します。さらに、最近アメリカで起きた食品偽装の事件も紹介します。

アメリカの事例を教訓に、自分の施設の対策に役立ててください。

目次

「食品偽装」とは

FDAでは食品偽装を「Economically Motivated Adulteration」と言っています。

日本語に訳すと「経済的な動機による食品偽装」です。

食品偽装には次の2つの場合があります。

  1. 誰かが意図的に食品中の高価な成分を取り除いたり、代用したりすること
  2. 食品をより良く見せたり、より価値があるように見せたりするために、食品にある物質を加えること

安価なものをより高価に見せるために、食品中の成分を取り除く、代用する、別の何かを加えるのですね。

食品偽装は気づかれないように行われるため、どれくらい行われているかを正確に知ることは難しいです。

専門家による試算では、食品偽装は世界の食品産業の1%に影響を及ぼし、そのコストは年間約100億~150億ドルに上るともいわれています。

過去に起こった食品偽装

様々な食品が偽装されています。ここでは代表的な食品を紹介します。

  • ハチミツ、メープルシロップ
    • はちみつやメープルシロップに安価な甘味料が混ざっている場合があります。FDAが輸入はちみつのサンプリング検査を行ったところ、2021-2022年では10%が、2022-2023年では3%が偽装されていました。
  • オリーブオイル
    • 高価なエキストラバージンオリーブオイルを安価な植物油で希釈し、ピュアオリーブオイルとして高値で販売している場合があります。2023年11月には、スペインとイタリアが組織的な偽装に対し合同調査を行い、260,000リットルものオリーブオイルを押収しました。
  • 魚介類
    • 高価な魚の代わりに安価な魚を販売する、冷凍の水産物に氷を加えて重くして販売する場合があります。FDAが卸売の段階で行った調査では、15%に誤った魚種名がつけられていました。
  • 乳児用粉ミルク
    • 2008年中国のメーカーが、乳児用粉ミルクにメラミンを添加し、製品に十分なタンパク質が含まれているように見せかけました。この食品偽装により、30万人以上が病気にかかり、5万人が入院、少なくとも6人が死亡したと報道されました。
Honey

これらの偽装は過去の話ではなく、今現在も起こっていることです。

アメリカで最近起きた事例:子ども向けパウチ飲料

ここからは、2023-2024年にかけてアメリカで発生した食品偽装事件を紹介します。

  • 患者数:519人(CDC
  • 患者が在住する地域:44州+ワシントンDC、プエルトリコ
  • 原因食品:アップルシナモン フルーツピューレパウチ

原因食品は下の画像のようなパウチに入った子ども向けのピューレ飲料です。日本でも似たような製品は販売されています。

Affected Cinnamon Applesauce Pouches
画像:FDA

それでは事件の概要を時系列に沿って紹介します。

2023年6-10月

ノースカロライナ州健康局に、関連のない4人の子ども(1~3歳)の血中鉛濃度が5μg/dL以上であるとの報告が入り、調査を開始

各家庭の調査の結果、WanaBana社の「アップルシナモン フルーツピューレパウチ」が疑わしい食品として浮上した。

家庭に保管されていた製品を検査したところ、高濃度の鉛(1.9~3.0ppm)を検出

2023年10月28日

FDAが当該製品を子どもに与えないよう注意喚起

2023年10月30日

WanaBana社が「アップルシナモン フルーツピューレパウチ」を自主回収することを発表

2023年11月9日

WanaBana社が自主回収の範囲を拡大し、プライベートブランド2つ(WeisとSchnucks)も回収に含めることを発表

これらのリコールにより、2022年1月から2023年10月までに製造された約300万個の製品が自主回収の対象になった。

2023年11月22日

「ダラー・ツリー」(全米に展開する100円均一ショップ)において、自主回収された製品が店頭に陳列されていたことをFDAが発表

2023年12月8日

FDAがエクアドルにある製造者に立ち入り検査を行い、製品の原料として使用された「シナモン」から高濃度の鉛を検出したと発表(5110ppmと2270ppm)

Cinnamon
2024年1月5日

自主回収された製品の原料として使用されたシナモンから、鉛に加えて高濃度の「クロム」も含まれていたことをFDAが発表(1201ppmと531ppm)

2024年2月29日

自主回収された製品の原料として使用されたシナモンに「クロム酸鉛」が加えられていたことをFDAが発表

2024年3月6日

(WanaBana社とは別の)粉末シナモン製品から高濃度の鉛を検出したため、購入しないようFDAが注意喚起

2024年7月25日

さらに別の粉末シナモン製品から高濃度の鉛を検出したため購入しないようにFDAが注意喚起

2024年7月30日

さらに別の粉末シナモン製品から高濃度の鉛を検出したため購入しないようにFDAが注意喚起

なぜシナモンにクロム酸塩が加えられたのか

自主回収の対象となった製品はエクアドルにある「Austrofood社」が製造したものです。

Ecuador

Austrofood社は原料として納入された粉末シナモンの検査を行っていませんでした。納入業者からの検査成績書に「鉛が含まれていないこと」が書かれていたためです。

そして、その粉末シナモンの販売業者は別の加工業者から粉末シナモンを仕入れていました。(下の図を参照)

Supply chain of cinammon
シナモンの流通工程

FDAによると、シナモンに「クロム酸塩」を加えたのは、シナモンの加工業者ではないかとのことです。

クロム酸塩をスパイスに添加することで、重量を増やし、色を濃くすることができます。これは結果としてスパイスの金銭的価値を高めます。

このような背景があり、歴史的にスパイスにクロム酸鉛が添加されてきました。

この事件から見えてくる課題

この事件は、子ども向け製品に高濃度の重金属が含まれていたこと、それが約2年間と長期に渡って流通していたことから、アメリカの食品安全の信頼性に大きな衝撃を与えました。

その中でも特に「自主回収システム」の欠陥について批判があります。いくつかを見てみましょう。

自主回収の実行性についての問題点

自主回収において、最初の重要なステップは「影響を受けた製品の範囲」を決めることです。

しかし、多くの場合、企業は2回(あるいは3回)の対象製品の拡大を行います。今回の事例でもWanaBana社は、最初の自主回収から10日後に対象製品の拡大を発表しました。

このような複数のメッセージは、消費者だけでなく川下の企業にも混乱を引き起こします。

そして、自主回収における次の重要なステップは「該当する製品を迅速に市場から排除する」ことです。

しかし今回の事例では、全米チェーンである「ダラー・ツリー」が最初のリコールから23日経ってからも、店頭に製品を陳列していました。

消費者へのコミュニケーションが欠如

自主回収された食品を購入した消費者に、必要な情報が届かない場合があります。

(日本も含め)現在の自主回収制度は、行政や企業のウェブサイトやSNSから消費者が積極的に自主回収情報を探し出す必要があります

さらに、今回の事例では、問題が発覚するまでの約2年間に、長期保存可能な製品が何百万個も全米に流通していました。そのため、自主回収された製品は、消費者の家庭だけでなく、フードバンク、再販店、オンラインショップなど、公式の流通先リストには載っていない場所にも流通していた可能性があります

また、「自主回収」という言葉も消費者に混乱を生みます。

「企業が自主的に回収しているのだからリスクは低い」と消費者が勘違いする恐れがあります。

自主回収の効果を評価する情報が不十分

自主回収の効果を評価する情報がFDAから公表されていません。

そのため、消費者は「自主回収がどれくらい適切に行われたのか」や「自主回収の方法がどれくらい改善しているのか」を知ることはできません。

今回の事例のシナモンアップルソースの自主回収は2024年3月4日に終了しました。

しかし、299万個のうち何個が回収されたのか、又は廃棄されたのか、あるいは自主回収された製品の流通先の事業者が回収をどの程度実行したのかは公表されていません。

「自主回収システム」以外の課題

現在の衛生管理の主流は「HACCP」です。

HACCPは、自分が製造する食品にどのようなハザード(危害要因)があるかを事前に分析し、管理する手法です。

しかし、ハザードの洗い出しの際に、スパイスに意図的に混入させられる鉛を想定していないと、鉛というハザードは管理されず、HACCPシステムをすり抜けてしまいます。

実際、Austrofood社では、シナモン中の鉛はハザードから見落とされていました

そのため、食品偽装に対しては、従来のHACCPだけで対応することは難しいです。

おわりに

以上が食品偽造とアメリカで最近発生した事件の紹介です。

アメリカで起こることは、今後日本で起こりえます。

この記事を読んでいる皆さんの施設では、食品偽装に対してどのような対策を取っていますか。

この事例からも分かるように、検査結果をもらうだけでは不十分な場合があります。かといって、数多くある原材料すべてについて、想定されるハザードをすべて検査することは不可能です。

第三者による監査の結果を参考にするというのはどうでしょうか。しかし、Austrofood社は問題となった製品を作っている間の外部監査でA+の成績をもらっていました

このように、経済的な動機に基づき行われる食品偽装は、従来の手法だけでは完全に防ぐことは困難です。

食品偽装については、GFSIなどが対策の考え方を示しています。長くなってしまうため、また別の機会に紹介したいと思います。

今できることは、今回紹介したような海外も含めた偽装の事例を多く学ぶことです。

そして、「もし自分の施設で使っているシナモンがクロム酸塩で汚染されていたとしたら…」を想定し、どのように対策すればそれを防ぐことができるか考えましょう。

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