従業員が嘔吐・下痢!どれくらい休ませればいいの?

従業員が嘔吐・下痢!どれくらい休ませればいいの?

自分の施設の従業員がノロウイルスに感染してしまった!どれくらい休ませればいいのかな?

従業員から「下痢の症状がある」、「定期検便でサルモネラを検出した」、「家族がノロウイルスに感染した」などの報告があったとします。

stomach pain

このような場合に、どう対応するか決まっていますか?

従業員が食中毒菌やノロウイルスに感染していた場合、対応を一つ間違えると、大規模な食中毒になる恐れがあります。

そのため、通常は従業員を休ませるといった対策を取ると思います。それでは、従業員をどれくらい休ませればいいのでしょうか?

この記事では、従業員が嘔吐や下痢などの症状がある場合などに、どのように対応したらよいのかを、日米の基準を比較しながら紹介したいと思います。

目次

日本の基準は具体的なことが書かれていない

日本の基準から見ていきます。

食品衛生法の基準

食品衛生法では次のようになっています。

ハ 食品等取扱者が次の症状を呈している場合は、その症状の詳細の把握に努め、当該症状が医師による診察及び食品又は添加物を取り扱う作業の中止を必要とするものか判断すること。
(1)黄だん
(2)下痢
(3)腹痛
(4)発熱
(5)皮膚の化のう性疾患等
(6)耳、目又は鼻からの分泌(感染性の疾患等に感染するおそれがあるものに限る。)
(7)吐き気及びおう吐

食品衛生法施行規則 別表第十七 七

営業者は、従業員が(1)~(7)の症状があった場合、医療機関を受診させるか、食品を取り扱わせるかを判断しなければなりません。

発熱など、食中毒菌に感染していない場合でも起こる症状があります。具体例がないため、営業者は判断するのが難しいですね。

飲食店向けの基準

次に厚生労働省の飲食店向けのガイドラインを見てみましょう。

6.従業員の健康管理・衛生的作業着の着用など

(1)始業前又は作業中に、以下の方法で確認します。

(2)従業員に、下痢や嘔吐などの症状がある人がいないか確認します。症状があった人は直接食品を取り扱う業務に従事させてはいけません。帰宅させ、病院を受診するようにします。治るまでは、直接食品を取り扱う業務に従事させないようにします。

HACCPの考え方を取り入れた衛生管理のための手引書 (小規模な一般飲食店事業者向け)(令和6年1月改訂)

少し具体的に書かれています。

しかし、「治るまで」というのはどうことでしょうか。症状がなくなればいいのでしょうか。それとも、検査で菌が検出されないことを確認する必要があるのでしょうか。

詳細がなく、判断するのが難しいです。

大量調理施設向けの基準

より厳しい基準として、学校給食など、大量調理を行う施設(1回300食以上を調理)の場合を見てみましょう。

(4) 調理従事者等の衛生管理

④ ノロウイルスの無症状病原体保有者であることが判明した調理従事者等は、検便検査においてノロウイルスを保有していないことが確認されるまでの間、食品に直接触れる調理作業を控えるなど適切な措置をとることが望ましいこと。

下痢又は嘔吐等の症状がある調理従事者等については、直ちに医療機関を受診し、感染性疾患の有無を確認すること。ノロウイルスを原因とする感染性疾患による症状と診断された調理従事者等は、検便検査においてノロウイルスを保有していないことが確認されるまでの間、食品に直接触れる調理作業を控えるなど適切な処置をとることが望ましいこと。

大量調理施設衛生管理マニュアル(平成29年6月16 日)

嘔吐や下痢がある従事者は病院を受診し、「感染性疾患の有無を確認」するとなっています。

通常「感染性疾患」かどうかを判断するためには、検便などを行うことになります。その場合、医療機関を受診→検便の採取→検査結果が判明まで1~2週間かかることも珍しくありません。

その間調理に従事できないとなると、他の従事者への負担が大きくなります。

また、ノロウイルスについては陰性確認をしてから復帰するとなっています。感度が高いリアルタイムPCR法の検査は5,000円~10,000円ほどかかるため、経済的負担が大きくなります。

そして、ノロウイルス以外の食中毒菌が検出された場合の対応については書かれていません。


このように、日本の基準は営業者が「柔軟に」対応できるよう、ざっくりとした基準になっています。

しかし、詳細や具体例が示されていないため、営業者は何を根拠に判断すればいいのか悩むかもしれません。

アメリカの基準はどうなっているの?

アメリカの基準については、FDAの「Employee Health and Personal Hygiene Handbook」(従業員の健康・個人衛生ハンドブック)を参考に紹介します。

従業員の健康管理については、Food Codeで細かく決まっています。しかし、複雑な内容のため、一度読んですぐに理解できるものではありません。

そこで、このハンドブックは、Food Codeの基準を分かりやすく解説したものになります。Food Codeについて知らない方は、以下の記事をご覧ください。

ちなみに、このハンドブックはFood Code 2017年版をもとに作られています(現在の最新版は2022年です)。2017年版は少し古いですが、2017→2022で関連箇所が大きく改訂されているわけではないため、十分に参考になります。

Q&A形式で、「このようなときはこうする」が具体的に解説されており、分かりやすいハンドブックです。

注意すべきビッグ6

食中毒を起こす微生物はどれも注意が必要です。

しかし、ハンドブックでは、特に注意が必要な微生物を6つについて「ビッグ6」と呼んでいます。

特に注意が必要なビッグ6

  1. ノロウイルス
  2. 腸チフス(Salmonella Typhi)
  3. 腸管出血性大腸菌
  4. 赤痢菌(Shigella spp.)
  5. A型肝炎ウイルス
  6. サルモネラ

ハンドブックでは、この「ビッグ6」を中心に対策が示されています。

「制限」と「除外」の違いを理解する。

まずはハンドブックで使われる重要な言葉の定義を説明します。「制限」と「除外」です。

制限(Restriction)

制限(Restriction)とは、食中毒を起こさないようにするため、従業員の活動を制限することを意味します。

制限された従業員は、未包装の食品、使用前の器具・食器・リネン類、または未包装の使い捨て器具・容器を取り扱うことはできません。

制限された従業員は、レジ係、客席係、テーブル係、食事以外の清掃やメンテナンス業務などを行うことはできます。

「制限」された従業員は、施設にいることは可能ですが、食品を汚染する恐れがある作業は行えません。

除外(Exclusion)

除外(Exclusion)とは、従業員として食品施設で働くこと、または食品施設に立ち入ることが許可されないことを意味します。

除外された従業員は、食品を受け取る、調理する、保管する、包装する、提供する、販売する、輸送する、または購入する区域に立ち入ることができません。

除外されると、基本的に施設に立ち入ることができません。

この2つの言葉は、ハンドブックでよく出てきますので、覚えておいてください。

こんなときどうする!状況に応じた対応方法

ハンドブックでは5つの状況に応じた対応方法が示されています。

5つ表が出てきますので、それぞれの表にどんなことが書いてあるか見てみて下さい。

表1a:従業員に症状がある場合

症状高リスク施設の場合通常施設の場合仕事への復帰
の条件
復帰にあたり
保健所の承認
嘔吐除外除外症状が治まって少なくとも 24 時間経過
または
診断書を提出
不要
下痢除外除外不要
黄疸除外除外黄疸が出てから7日間経過
または
診断書を提出
必要
発熱を伴う喉の痛み除外制限診断書を提出不要
感染性の傷、膿疱制限制限適切に覆われている不要
高リスク施設:乳幼児、高齢者、免疫抑制された人など食中毒になった時に重症化しやすい人に対し食事を提供する施設

表1b:診断され、症状がある場合

診断除外仕事への復帰
の条件
復帰にあたり
保健所の承認
A型肝炎ウイルス何らかの症状が出てから14日以内、または黄疸が出てから7日以内の場合は除外する黄疸が出てから7日間経過
または
無黄疸性の場合は症状が出てから14日間経過
または
診断書を提出  
必要
腸チフス除外する診断書を提出必要
サルモネラ嘔吐または下痢の症状に基づき除外する診断書を提出  
または
嘔吐または下痢の症状が治まり、無症状になってから 30 日間経過
必要
腸管出血性大腸菌嘔吐または下痢の症状に基づき除外する①通常の施設の場合:症状がなくなってから24時間経過した場合は制限に移る。そして③の条件を満たせば復帰できる

②高リスク施設の場合:③の条件を満たすまで除外

③診断書を提出  
または
症状がなくなってから7日間経過
必要(ただし①で制限に移る場合は不要)
赤痢菌
ノロウイルス嘔吐または下痢の症状に基づき除外する①通常の施設の場合:症状がなくなってから24時間経過した場合は制限に移る。そして③の条件を満たせば復帰できる

②高リスク施設の場合:③の条件を満たすまで除外

③診断書を提出  
または
症状がなくなってから48時間経過
必要(ただし①で制限に移る場合は不要)

表2:診断されたが、症状がなくなった場合

診断高リスク施設通常施設仕事への復帰
の条件
復帰にあたり
保健所の承認
腸チフス除外除外診断書を提出必要
サルモネラ制限制限診断書を提出
または
嘔吐や下痢がなくなり、症状がなくなってから30日間経過
必要
赤痢除外制限①通常の施設の場合:症状がなくなってから24時間経過した場合は制限に移る。そして③の条件を満たせば復帰できる

②高リスク施設の場合:③の条件を満たすまで除外

③診断書
又は
症状がなくなってから7日間経過
必要(ただし①で制限に移る場合は不要)
腸管出血性大腸菌
ノロウイルス除外制限①通常の施設の場合:症状がなくなってから24時間経過した場合は制限に移る。そして③の条件を満たせば復帰できる

②高リスク施設の場合:③の条件を満たすまで除外

③診断書を提出
または
症状がなくなってから48時間経過
必要
A型肝炎ウイルス何らかの症状が出てから14日以内、または黄疸が出てから7日以内の場合は除外する何らかの症状が出てから14日以内、または黄疸が出てから7日以内の場合は除外する黄疸が出てから7日間経過
または
無黄疸性の場合は症状が出てから14日間経過
または
診断書を提出
必要

表3:診断されたが、一度も胃腸炎症状がない場合

診断高リスク施設通常施設仕事への復帰
の条件
復帰にあたり
保健所の承認
腸チフス除外除外診断書を提出必要
赤痢除外制限診断書を提出
または
診断されてから7日間経過
必要(ただし通常施設で制限の状態で働く場合は不要)
腸管出血性大腸菌
サルモネラ制限制限診断書を提出
または
診断されてから30日間経過
必要(ただし通常施設で制限の状態で働く場合は不要)
ノロウイルス除外制限診断書を提出
または
診断されてから48時間経過
必要(ただし通常施設で制限の状態で働く場合は不要)
A型肝炎ウイルス除外除外無黄疸性の場合は症状が出てから14日間経過
または
診断書を提出
必要

表4:菌に暴露されたが、症状がなく、菌も検出もしていない場合

診断高リスク施設通常施設仕事への復帰
の条件
復帰にあたり
保健所の承認
腸チフス制限従業員に対し、注意すべき症状について教育し、一般衛生管理、手洗い、調理済み食品に素手で触れないことの遵守を徹底させる
最後の曝露から14日間経過
または
従業員の家庭内接触者が無症状になってから14日間経過
不要
赤痢制限最後の曝露から3日間経過
または
従業員の家庭内接触者が無症状になってから3日間経過
不要
腸管出血性大腸菌制限
ノロウイルス制限最後の曝露から48時間経過
または
従業員の家庭内接触者が無症状になってから48時間経過
不要
A型肝炎ウイルス除外過去にHAVに感染した、HAVワクチンの接種、又はIgG投与によりHAVに対する免疫を持っている
または
最後の曝露から、又は従業員の家庭内接触者が黄疸が出てから30日間経過
または
従業員が、暴露から30日間経過するまで調理済み食品に素手で触らず、追加トレーニングを受けている
不要

表4のタイトルに「暴露」という言葉が出てきましたが、これはどういう意味ですか?

ここでいう暴露とは、「病原菌に感染する機会があった」ということです。具体的には下のような場合です。

【暴露に該当する場合】

  • 食中毒の原因となった食品を食べた、または取り扱った。
  • ビッグ6に感染した人が調理した食品を食べた。
  • 食中毒の発生した場所に通っていた、またはそこで働いていた。
  • 食中毒の発生した場所にいた、または働いていた人と同居している。
  • ビッグ6に起因する病気と診断された人と同居している。

具体例を見てみる

表だけ見ても分かりづらいかもしれません。具体例を見てみましょう。


嘔吐や下痢の症状があった場合は、どうすべき?

表1a」を見ます。

嘔吐や下痢があった場合は、従業員を「除外」します。

そして、症状が治まってから24時間経過するか、または、医療機関を受診し「感染性でない旨」の診断書を提出すれば、通常の仕事に復帰することができます。


下痢の症状があり、腸管出血性大腸菌を検出した場合は?

表1b」を見ます。

もし高リスク施設(病院、保育園、介護施設など)で働いている場合は、従業員を「除外」します。

そして、診断書(2回検査して連続して陰性)を提出、または症状がなくなってから7日間経過し、保健所からの承認を得られれば、通常の仕事に復帰できます。


定期検便でサルモネラを検出したけど、症状が一切ない場合は?

表3」を見ます。

もし通常施設で働いている場合は、従業員を「制限」します。

そして、診断書(2回検査して連続して陰性)を提出または診断されてから30日間経過し、保健所からの承認を得られれば、通常の仕事に復帰できます。


家族がノロウイルスに感染したらどうすればいいですか?

表4」を見ます。

通常の施設の場合、「制限」も「除外」も必要ではありません。

従業員に対し、注意すべき症状について教育し、一般衛生管理、手洗い、調理済み食品に素手で触れないことの遵守を徹底させれば、通常の仕事を行えます。

高リスク施設の場合は、「制限」します。

そして、最後の曝露から48時間経過する、または従業員の家庭内接触者が無症状になってから48時間経過すれば、通常の仕事に復帰できます。

さまざまな状況に対応できるよう、細かく決まっているのですね!

おわりに

以上が、従業員が嘔吐、下痢などの症状があった場合の対応について、日米の基準の比較です。

多くの食中毒が「従業員」を原因に起こっています。そのため、ほとんどの施設にとって、従業員の健康管理は、加熱や冷却といった「重要管理点」(CCP)と同じくらい重要なはずです。

しかし、日本の基準はかなりあっさりと書かれており、営業者が判断するのが難しいと思います。

逆にアメリカの基準は、オペレーションに不要な混乱を避けつつ、食品安全が確保されるように設計されています。

そのため、食品営業施設のみなさんが自分の施設の対策を考える際には、このハンドブックの考え方は参考になると思います。(省略している箇所があるため、参考にする際には原文を確認してください。)

そして、大切なこととして、ハンドブックで示された対策だけでなく、一般的な衛生管理も同時に行う必要があるということを忘れないでください。

〇〇日休ませたから大丈夫ではなく、復帰してからの手洗い、RTE食品に素手で触らないといった基本的な衛生管理もしっかり行うことで、このハンドブックの対策が有効に機能します。

※「RTE」はReady To Eatの頭文字をとったもので、加熱や調理をせずにそのまま食べられる食品を意味します。

FDAはこのハンドブックの内容を分かりやすく理解できるツールも公開しています。参考にしてください。

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