インターネットで見つけたそのレシピ、本当に大丈夫?

インターネットで見つけたそのレシピ、本当に大丈夫?

インターネットで鶏肉の低温調理のレシピを見つけたけど、大丈夫かな?肉が赤くて、中心まで加熱されていない気がする。

みなさんは、新しい料理に挑戦したいと思ったとき、何を参考にしますか?

プロの料理人であれば、創意工夫して、自分のレシピを作ることもあるかもしれません。

しかし、ほとんどの飲食店や家庭では、誰かが公開しているレシピを参考にするのではないでしょうか。

今だと「料理本」、「料理番組」、「レシピを公開しているブログ・ウェブサイト」、「YouTube」など、簡単にレシピを見つけることができますね。

それでは、はたしてこれらのレシピを参考にすることで、安全な食品を作ることができるのでしょうか?

そこでこの記事では、料理本、料理番組、ブログ・ウェブサイト、YouTubeは安全な食品を作ることができる情報を伝えているのか、そしてこれらのメディアが正しい情報を伝えることの重要性について紹介します。

目次

料理本について

情報源がアナログからデジタルに移行した現在でも、料理本は依然として人気ですね。

それでは、料理本はどれくらい食品安全についてきちんと情報を伝えているのでしょうか。ここでは、アメリカで行われた調査を紹介します。

研究者が、ニューヨークタイムズのベストセラーリストに載った29の料理本の合計1,497のレシピについて、食品安全の面から評価しました。

研究者が特に注目したのは次の3点です。

  • レシピに、具体的な加熱温度が書かれているか?
  • もし温度が記載されている場合、その温度は「安全」な温度か?例えば、アメリカでは鶏肉は中心部まで74℃になるまで加熱する必要があります。
  • 正しい食品安全の情報を伝えているか?例えば、「肉汁が透明になるまで加熱すればよい」は科学的に正しい情報ではありません

結果はというと、ベストセラーの料理本に書かれている多くの情報が不正確で、科学的な根拠に基づいていないことが分かりました。

具体的な温度を明記したレシピは全体の8%しかありませんでした。そして、具体的な温度が書かれたレシピであっても、3割近くが不適切な温度が書かれていました。

言い換えると、具体的な温度が書かれており、その温度が正しかったものは、レシピ全体の6%しかなかったということです。

そして、ほとんどのレシピが加熱したことの判断基準として「調理時間」、「色」、「感触」、「見た目」といった不適切な方法を書いていました。

色や見た目では「きちんと焼けたか」を正確に判断できません。そのため、北米では家庭での調理でも「きちんと焼けたか」を中心温度計で確認することが推奨されています。

Woman reading cookbook

料理番組について

現在はテレビだけでなく、Netflixといったストリーミングサービスでも、有名人や人気シェフが料理番組を行うことが多く、人気になっています。

そのため、料理番組での食品の取り扱いは、視聴者の食品の取り扱いに大きな影響を及ぼす可能性があります。

ここでは、アメリカで行われた調査を紹介します。人気シェフ24人が出演する100のエピソードについて、評価を行いました。

結果は、88%が生の肉を扱った後に手を洗いませんでした(又は洗うところが放送されなかった)。

さらに、中心温度計を使わない(75%)、調理済みと未調理の肉を同じまな板で調理する(25%)、髪を触る(21%)、指をなめる(21%)などの問題が見られました。


同じような傾向は、10の料理番組の39のエピソードを調べた他の調査でも見られました。

結果は、不適切な手洗い(93%)、不適切な手袋の使用(100%)、不適切な野菜や果物の洗浄(91%)、不適切な時間と温度管理(93%)などです。

Cooking show

料理レシピのブログ、ウェブサイトについて

レシピブログやレシピを紹介しているウェブサイトは、作りたい料理や手元にある材料を検索するだけでよいため非常に人気があります。

アメリカとカナダの人気トップ50のレシピブログから、合計784のレシピについて評価を行った調査を紹介します。

784のレシピの中で、事前の手洗いを指示していたものは0.1%でした。

生の食肉、鶏肉、魚を使うレシピで、温度計を使って中心温度を計るよう指示していたレシピは17%でした。そして、温度以外の「きちんと加熱できたか」の指標は、時間、見た目、色などでした。

また、食肉、鶏肉、魚を触った後に手を洗うように指示していたレシピは0.2%だけでした。

さらに、食べ残しの保管については4%のレシピで指示があり、その45%は政府のガイドラインから逸脱した指示となっていました。

調理済みのターキーを室温で4日間保存可能と書いていたブログもあったようです。誤字であることを願います。

Person Is Preparing Recipe Using Digital Tablet

YouTubeについて

手順を見せながら説明できるため、料理とYouTubeの相性は特によいです。そのため、コロナ後のレシピを参照とする媒体としてはYouTubeが一番人気になっています。

イギリスの研究者が、YouTubeでチキンサラダの作り方を英語で紹介している動画38本について評価しました。

Fresh salad with grilled chicken breast.

【温度について】

温度計を使って温度を計ることを紹介した動画は8%だけでした。

そして、その中の11%については、誤った調理方法を伝えていました。例えば、鶏肉の低温調理では、水浴の温度と調理時間については説明したものの、鶏肉の中心温度については触れられませんでした。

【手洗いについて】

調理を開始する前に手を洗ったり、口頭で説明したりする動画は一つもありませんでした。

そのほか、生の鶏肉に触れた後の「手洗いの必要性」について説明があったものは、わずか3%でした。

さらに、生の鶏肉を扱った後に手洗いを行った動画は8%ありましたが、きちんとした手洗いを行ったものは一つもありませんでした。

【交差汚染について】

ある動画では、鶏肉を調理する際に手袋を着用していましたが、その後にレタスを扱う際に、手袋を交換するかどうかの説明はなく、交換する様子もありませんでした。

5%の動画については、鶏肉を事前に流水で洗うことが説明されていました。

生肉とサラダを調理する際に、器具の洗浄や、交換について説明していたものはほとんどなく、16%については、同じ器具を使用していました。

シーンが変わる際に編集されているだけで、実は使用済みのまな板を洗浄・消毒してから使用しているのかもしれませんが、その点について説明がなかったようです。

Woman recording video of her cooking for online video blog, focus on camera

そもそもレシピで食品安全に触れる必要性はあるのか

以上のように「料理本」、「料理番組」、「インターネット」のレシピには、食品安全についてきちんと情報が提供されていない、提供されていたとしてもその多くが間違っていることが分かりました。

「手洗い」は当たり前すぎるし、毎回手洗いしていると長くなるので、わざわざ伝えていないのではないですか。

紙面の都合や動画の尺の問題で、正しい食品安全情報をすべて伝えていると、冗長な感じやテンポ感が悪くなるため、あえて削除しているのかもしれません。

しかし、これらのメディアが正しい食品の取り扱い方法を伝えることは、大きな意味があります。

2024年にアメリカで行われた調査では、行政機関が出す食品安全の情報を信用している消費者は43%でした。これは健康関連のウェブサイトの51%、シェフや料理の専門家45%よりも低かったです。

また、レシピに食品の安全な取り扱い方法を含めることで、利用者の食品の取り扱いが改善されることが分かっています

さらに、家庭での食中毒は「実は多く起こっている」と考えられています。

例えば、厚生労働省の統計情報を見ると、家庭での食中毒は毎年全体の10~20%を占めています。

この原因物質には、アニサキス、植物性自然毒(有毒植物、キノコ)、動物性自然毒(フグ)がほとんどを占めており、細菌性やウイルス性の食中毒が報告されることはめったにありません。

この数字や原因物質が家庭での食中毒の実態を表しているかというと、そうではありません。

厚生労働省の食中毒統計に含まれるのは、保健所に届出があり、調査で食中毒と判断された事件だけです。

そして、飲食店と比べて、家庭での食中毒が保健所に届け出されることはほとんどありません

特に人から人に移る感染症との区別がつきにくいことや、患者が少ないため原因究明が難しいことから、細菌性、ウイルス性食中毒が届出されることはほとんどないと思います。

そして、どれくらいの食中毒が家庭で起こっているかを推測することは難しいのが現状です。

このような理由から、現在多くの消費者が利用する料理本、料理番組、ブログ・ウェブサイト、YouTubeにおいて、適切な食品の取り扱い方法を発信していくことは重要です。

アメリカでの取り組み

アメリカでは、これらのメディアにおいて「適切な食品の取り扱い方法」を発信してもらうための取り組みがあります。

「Partnership for Food Safety Education」(食品安全教育を推進しているNPO団体)が、動画や文書でレシピを公開する際のガイドを作成し公開しています。

Safe recipe style guide

このガイドに基づきレシピを作成すると以下のようになります。

グリルバジルチキン(4人分)

Grilled basil chicken

(材料)

バルサミコ酢3/4カップ
バジルの葉詰め込んだ状態で1/4カップ(冷たい流水で軽く揉む
オリーブオイル大さじ2
ニンニク(みじん切り)1片
小さじ1/2
プラムトマト4個(清潔な野菜用ブラシで流水でこする
骨なし皮なし鶏むね肉4枚(1枚の重さ113g)

(作り方)

  1. 石鹸と水で手を洗う。
  2. バジルとトマトを洗った後、清潔なペーパータオルで水気を拭き取る。
  3. 清潔なまな板でトマトを4等分に切る。
  4. (マリネ液)最初の6つの材料をミキサーにかける。蓋をしてよく混ざるまで撹拌する。
  5. 鶏むね肉を浅い皿に置く生の鶏肉は洗わないこと。マリネ液をかけ、皿に蓋をする。時々裏返しながら、冷蔵庫で約1時間冷やす。生の鶏肉に触れた皿は洗う。
  6. 生の鶏肉を扱った後は、石鹸と水で手を洗う。
  7. 油を塗ったグリルラックに鶏肉を並べ、中火にかける。生の鶏肉に使ったマリネ液は他のものに再利用しないこと。鶏肉を片面4~6分焼く。食品用の中心温度計で鶏肉の中心温度が74℃になるまで焼く。
The Safe Recipe Style Guide (The Partnership for Food Safety Education)

赤の太字がガイドをもとに追加された部分です。

ガイドでは、「加熱温度」、「手洗い」、「交差汚染」、「農産物の洗浄」の4つに重点を絞って、レシピに追加することを推奨しています。

動画でも、タイミングよくテロップでの解説を入れることで、動画の流れを遮ることなく、効果的に食品安全のメッセージが伝えられます。

非常にシンプルですが、これらをレシピの中に入れるだけで、消費者の行動を変え、家庭での食中毒を減らすことができます。

おわりに

以上が料理本、料理番組、ブログ・ウェブサイト、YouTubeで紹介されているレシピを食品安全の面から見た際の注意点です。

日本においても、レシピ共有サイトに食中毒の危険があるレシピが公開されていたとして、問題になったことがあります。

明らかに問題があるレシピについては、このように問題点が指摘されることがあります。

しかし、より専門的な視点が必要な「食品の安全な取り扱い」に関しては、今回紹介した海外の事例と同じで、きちんと紹介しているものはほとんどないように思います。

私もYouTubeの料理動画をよく見ますが、きちんとした手洗いや中心温度計を使っている動画は見たことがありません。

この記事を書いている時に、レシピ共有サイトで鶏肉の低温調理を見ていると、下のようなレシピがありました。

低温調理でしっとり柔らかな鶏ハム(4人分)

(材料)

鶏むね肉:2枚

(作り方)

  1. 大きな鍋を沸騰させる。
  2. ジップロック(中)に皮を取った鶏むね肉を丸い筒の形になるよう入れ空気を抜く。
  3. ①に②を入れ、ジップロックの周りから沸騰した泡が少し出てくるようになったら蓋をして、火を止めて1~1.5時間放置する。
  4. 5mmほどにスライスしたら出来上がり☆
Cookpad

一見すると問題なさそうですが、食品安全に知識がある人が見ると、いろいろと問題があるレシピです。

それでは、このレシピをどうすれば「Partnership for Food Safety Education」のガイドに沿ったレシピにすることができるでしょうか。

日本においてもアメリカで行われたような調査の実施や「Partnership for Food Safety Education」のガイドのような、ガイドラインが必要だと思います。

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