以前、食中毒のような症状があった時に、何をすればいいのか分からなくて困りました。どうすればよかったのかな?
日本では自治体が消費者向けに「食中毒かもと思ったら」の情報を公開しています。
参考として目黒区のウェブサイトを見てください。
必要なことをわかりやすく解説してくれています。
多くの自治体のウェブサイトでは、まずは医療機関の受診し、そして保健所へ連絡するよう書かれています。
それでは、他の国でも同じような対応をすればいいのでしょうか。
この記事ではCDCのウェブサイトをもとに、アメリカ流の「食中毒かもと思ったら」を紹介します。
日本とアメリカを比較することで、日本の自治体のウェブサイトに書かれていない多くの情報があること、そして、日本の食中毒調査を改善する手がかりがあることに気づかされます。
食中毒かもと思ったら
医療機関を受診する
食中毒かもと疑ったら、かかりつけ医を受診しましょう。
アメリカでは下痢の症状があった際に、2~3割の人しか医療機関を受診しません。そして、さらにその内の2~3割しか検便を行っていません。
「検便」は食中毒を起こした病原菌を検出するための最も重要なポイントです。
早く検便を行うことで、病原菌を検出できる可能性が高くなります。そして、病原菌が何か分かれば、病気の原因(例:飲食店での食事)を特定できる可能性が高くなります。
逆を言えば、検便を実施しなければ、病気の原因を特定することはとても困難になります。
ちなみに日本では食中毒のような症状があった際の医療機関の受診率は約3割、検便の実施率は約1割とアメリカと同程度に低いです。
食中毒を疑って医療機関を受診した際には、医師に検便の実施について相談しましょう。
何を食べたか、何をしたかを書き出す
食中毒の原因となる食品は、ほとんどの場合、直前に食べた食事ではありません。食べてから2~3日やそれ以上かかることがあります。
そのため、病気になる前の1週間に食べたものをすべて書き出しましょう。
外食先で食べた食事も忘れないようにします。
可能であれば、食料品や飲食店のレシートを集めておきます。
また、食事だけでなく、参加したイベント、ペットを飼っているか、その他の動物との接触も書き留めておきます。
保健所に病気を連絡する
地元の保健所に食中毒のような症状があったことを連絡しましょう。
食中毒の疑いが強ければ、保健所が原因を特定するための調査を行います。
保健所の職員は、病気になる前にあなたが何を食べ、何をしたのかの聞き取り調査を行います。その際に、レシートのコピー、スーパーの会員カード情報、食べ残しの食品の提出を求められることがあります。
保健所が調査を行って、同じ飲食店を利用した人や同じ食品を食べた人で同じように病気になった人がいれば、原因施設・原因食品として断定されます。
以上が「食中毒かもと思ったら」やることです。
比べてみると、日米の情報にほとんど差はありませんね。
日本の自治体のウェブサイトはここで終わりです。しかし、CDCのウェブサイトには続きがあります。
「食中毒になる前に行っておくこと」です。
食中毒になる前に行っておくこと
スーパーの会員に登録する、食料品のレシートを保管する。
多くのスーパーや小売店で、ポイント会員やお買い物会員の制度があります。
このような会員制度に登録することで、会員の情報だけでなく、自分が購入した食品の日時、種類、メーカーなどの情報も記録されます。
スーパーなどは、このような会員の購入履歴の情報を、マーケティングに利用します。
しかし、この購入履歴の情報を活用するのは、スーパーだけではありません。
アメリカでは食中毒調査で、患者のスーパーなどでの購入履歴のデータを使うことが頻繁にあります。
購入履歴のデータから、同じ症状がある人が、同じ食品を購入していることが分かれば、その食品が食中毒の原因である可能性があり、より詳細な調査が行われます。
会員カードの情報は、食中毒調査にそんなに役に立つの?
アメリカでは会員カードの情報は、迅速に原因を特定するために、とても重要なツールになっています。
人の記憶は曖昧です。2~3日前の食事を思い出すのも苦労する時があります。
それでも2~3日前であれば、まだ何とか思い出せるかもしれません。
しかし、リステリア菌による食中毒の場合は、汚染された食品を食べてから、発症するまで1~2か月かかることがあります。
1~2か月前に食べた食品を正確に思い出せる人はまずいません。
また、例えばコショウといった調味料が原因の食中毒の場合、通常の「食べた物」の調査だけでは原因食品を特定することはできません。
というのも、コショウは様々な料理に使われるため、共通食を特定することが難しいからです。
しかし、複数の患者の購入履歴に「同じメーカーのコショウ」があれば、疑わしい原因食品として調査の対象になります。
このような理由から、アメリカでは会員カードの情報は客観的な情報源として、食中毒調査で積極的に利用されています。
例えば、食中毒があった際に保健所の職員が「患者の聞き取り調査」に使う質問票にも、患者の会員カードの有無やその情報を使うことの了承を得ることが、書かれています。
また、会員制度がないスーパーで、クレジットカードの情報から購入履歴を割り出し、原因食品を追跡した事例もあります。
日本では「会員カード」の情報を食中毒調査に使うという話を聞いたことがありません。データを利用する上で、日本独特の障害があるのでしょうか。
食品表示を保管しておく
みなさんも、食べきれなかった肉や魚などを冷凍保管しておくことがあると思います。
その際には、表示が付いた元の包装のまま保存するか、小分けする場合は、元の表示と一緒に保管するようにしましょう。
というのも、食品のパッケージや表示には、ロットや製造者などが書かれており、食中毒調査の際に重要な情報源となります。
食中毒調査の際に、自宅にある残品を検査したところ、原因となった菌を検出し、原因食品の追跡に役立ったという事例もあります。
食品リコールや食中毒に関する最新情報の入手する
みなさんは「どの食品でリコールが行われているか」や「どの食品が原因で食中毒が起こっているか」を知る手段はありますか?
食品のリコールや食中毒に関する最新情報は、ソーシャルメディアでFDAやCDCなどの行政機関をフォローすることで入手することができます。
また、ここでもスーパーの会員登録が役に立ちます。食品がリコールされた段階で、すぐにスーパーから購入者に連絡がいく仕組みがあります。
アメリカに住んでいた時に、地元のスーパーから「あなたが購入した食品がリコールされている。」とメールが時々届いていました。
以上がアメリカでの「食中毒かもと思ったら」と「食中毒になる前に行っておくこと」です。
「食中毒になる前に行っておくこと」は日本の行政機関が教えてくれない情報ですね。
今回紹介した「食中毒になる前に行っておくこと」の中で、スーパーの会員情報は、広域の食中毒が発生した際に特に重要な情報源となります。
フランク・ヤーナス氏(元FDA副長官)は、今後の食品安全の課題に取り組む上で「Data Sharing」(データのシェア)が非常に重要であると述べています。
日本において、(おそらく)食中毒調査にあまり活用されていない小売店の会員情報を、行政と事業者が協力し、より活用できる体制を構築できれば、日本における広域食中毒の調査能力が格段に向上すると思います。
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