飲食店でも衛生管理はしっかりやらないといけないと分かっているけど、忙しいし、いろいろ手間だからし、あまりやる気が出ないなー。
なにかモチベーションアップの方法はないかな。
日本では食中毒の約6割は飲食店で発生しています。そのため、食中毒を減らす上で飲食店の衛生レベルを向上することは非常に重要です。
しかし、「衛生管理に取り組むメリットを感じない」や「どうやって、衛生管理のモチベーションを上げればいいの?」というような疑問を持たれていませんか。
そのような疑問に答えていきたいと思います。
今回は視点を少し変えてみます。
CDCのウェブサイトを参考に、飲食店側ではなく、行政の視点からモチベーションアップの方法を見てみます。具体的には、保健所の「飲食店への立ち入り検査」を例に見ていきます。
行政による立ち入り検査は、アメリカと日本で大きく異なる点があります。
アメリカでの取り組みは、日本においても飲食店の衛生管理のモチベーションアップ、食中毒を減らすヒントなると思います。
飲食店が原因の食中毒は増加している
アメリカでは毎年約800件の食中毒事件が報告されています。そしてその多くで飲食店が原因施設となっています。
具体的な数字で見てみましょう。
原因施設が飲食店だったの食中毒の割合は、1967年から1997年までは平均41%だったのに対し、2009年から2015年では平均61%と、20%も増加しています。
このため、アメリカにおいても食中毒を減らす上で、飲食店の衛生レベルを向上させることは非常に重要な課題と言えます。
アメリカでは飲食店の立ち入り結果を公開している
飲食店の衛生状態を向上させる手段の一つとして、行政による立ち入り検査があります。アメリカでは、各自治体の健康局の職員が飲食店に定期的に立ち入ります。
日本の場合は、保健所が飲食店に立ち入りますね。
立ち入った際には、その施設が衛生基準に合致しているかどうかを確認します。もし、食中毒を起こすリスクが高い違反があった場合は、営業停止になることがあります。
そして、日本との大きな違いとして、アメリカでは多くの自治体が、飲食店の立ち入り検査の「成績」を公開しています。
成績のつけ方や公開方法はいろいろあります。
下の写真はニューヨーク市の場合です。
ニューヨーク市では飲食店の店頭に「A」、「B」、「C」といったカードが掲示されています。これは、その飲食店の衛生状態をレターグレード(Letter grade)で表したものです。
Letterは「文字」、gradeは「成績」で、つまり「文字で表した成績」ということです。
レターグレードはアメリカの学校で成績を表すのによく使われており、アメリカ人には馴染み深い制度です。日本では成績を表すのによく「優」、「良」、「可」が使われますので、「優」が A、「良」が B、「可」が C といったところです。
飲食店の衛生レベルをA、B、Cで表しているのですね。
レターグレード以外にも、「点数」、「Pass・Conditional Pass・Closed」(合格・条件付き合格・営業停止)など、様々な方法があります。
成績の公開方法も自治体によって大きく異なります。
先ほどのニューヨーク市では「飲食店の店頭に成績カードを掲示しなければならない」となっています。別の自治体では「施設のどこかに掲示すればよい」だったり、そもそも施設への掲示を義務付けていない自治体もあります。
また、多くの自治体では、ウェブサイトでも成績を公開しています。
店頭に成績が掲示されている場合、お店に入る前に、衛生状態をチェックできるので、消費者は安心して入ることができますね!
レストランに立ち入り結果を掲示すると食中毒が減少する
食中毒を減らすのに飲食店の衛生状態の向上が必要だということ、そして、飲食店の衛生状態の向上には健康局による立ち入り検査が重要な役割を果たしていることがわかりました。
そこでCDCは、「健康局による立ち入り結果の成績の付け方や公開方法」が「飲食店での食中毒の発生件数」にどのような影響があるのか調査を行いました。
調査の結果、以下の2点がその地域の食中毒の減少に関係があることが分かりました。
飲食店が原因の食中毒を減少させる2つの要素
- 成績を施設に掲示することを義務付けている。
- 成績をレターグレード(A・B・C)で表している。
それぞれの詳細を見てみましょう。
成績を施設に掲示することを義務付けている
先ほども言ったように、成績の公開方法はいろいろあります。
例えば、成績を施設に掲示しなければならない、オンラインで公開している、そもそも公開していない、などです。
これらの公開方法の違いが食中毒発生件数にどう影響するのかを表したのが下の表です。
成績の公開方法 | 飲食店1,000軒あたりの食中毒発生件数 |
---|---|
施設に掲示 | 0.29件 |
オンラインで公開 | 0.70件 |
公開していない | 1.0件 |
成績を公開していない自治体に比べ、施設への掲示を義務付けている自治体は、飲食店での食中毒の発生が1/3以下でした。
また、オンラインで公開している自治体と比較しても、半分以下でした。
このように、成績を飲食店に掲示することを義務付けることで、食中毒を減らす効果が期待できます。
成績をレターグレード(A・B・C)で表している
成績の付け方にも様々な方法があります。
例えば「レターグレード」、「点数」などです。これらの成績の付け方の違いが食中毒発生件数にどう影響するのかを表したのが下の表です。
成績の付け方 | 飲食店1,000軒あたりの食中毒発生件数 |
---|---|
レターグレード | 0.57件 |
点数 | 0.69件 |
成績をつけていない | 0.96件 |
成績をつけていない自治体に比べ、「レターグレード」を導入している自治体は、飲食店での食中毒の発生がおよそ半分でした。
「点数」を用いている自治体と比較した場合、「レターグレード」を導入している自治体では少しだけ食中毒の件数は少なかったですが、その差はほとんどありません。
このように、レターグレードで成績を付けることで、食中毒を減らす効果が期待できます。また、レターグレードでなくても、成績を付けることは効果がありそうに見えます。
以上がアメリカでの飲食店への立ち入り制度の紹介です。
なぜ食中毒の発生に違いが見られたのでしょうか。
飲食店の店頭に、立ち入り結果の成績をレターグレードで掲示することで、消費者はそのお店に入る前に、その店の衛生状態を分かりやすく知ることができ、安心して食事ができます。
これにより、衛生レベル向上に頑張っている飲食店に、より多くのお客さんが来ることになります。店の売り上げアップは、飲食店が衛生レベルを向上するモチベーションに繋がります。
これらの結果として、その地域の食中毒が減少すると考えられます。
このように、立ち入り結果の成績を公開することは、消費者、営業者、行政にとってメリットがあるwin-win-winな制度となっています。
日本でもいつか同じような制度ができるとよいですね。
次の記事では、今回説明した「立ち入り検査の成績」を地図上にプロットする方法を紹介します。
ニューヨーク市のレターグレードについては下の記事でも紹介しています。
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