HACCPが義務化されて、うちの施設ではスマホで記録をつけ始めたよ。これでHACCPは万全だね。
HACCPが義務となってから、「HACCPに対応したアプリ」が多く登場しました。
「テンプレートに入力するだけで衛生管理計画ができる」、「スマホで記録し、データはクラウドに保管される」、「データの出力・集計・視覚化が容易にできる」など、数多くの有料・無料のアプリがあります。
さらに、新型コロナウイルス感染症の蔓延、AI技術の進歩もあり、食品業界のデジタル化が急速に進んでいます。
デジタル化は食品工場だけではありません。
飲食店、ベーカリー、コンビニ、スーパーなどにおいても、スマートフォンやタブレットを使って、HACCPの記録、手順書の確認、在庫・勤怠管理、注文/予約の受付、決済などが一般的になりました。
食品安全でのデジタル化のメリットとして、紙やペンを作業場内に持ち込む必要がなくなり、異物混入の恐れも減ります。
デジタル化されることで、作業がより効率的になったのではないでしょうか。
このように、メリットが多いデジタル化ですが、もしかするとスマホやタブレットといった「スマートデバイス」自体が新たなリスクを生むかもしれません。
そこでこの記事では、アメリカ食品医薬品局(FDA)が行った調査を参考に、スマートデバイスを使うことで生じるリスクについて紹介します。
スマホが菌に汚染されている
スマホがトイレの便座よりも汚いというニュースを見たことがあるけど、実際はどれくらい汚染されているの?
実は、食品工場や飲食店の従業員が使用しているスマートデバイスの使用実態、汚染状況については、あまり調査が行われていません。
一方で、医療機関で使用するスマートデバイスについては多くの研究が行われています。
それらの研究の中で、デバイスから検出された細菌には、アシネトバクター属、黄色ブドウ球菌、腸球菌、エンテロコッカス属、レンサ球菌、クレブシエラ属、プロテウス属、シュードモナス属、バチルス属など、日和見感染を起こすが病原菌が含まれています。
また、医療関係者を対象に行った調査では、200台のスマートデバイスのうち25%から黄色ブドウ球菌を検出しました。
このように、手が触れるスマートデバイスには、手から菌が付着し、生存することが確認されています。
スマートデバイスの消毒は意外と難しい
細菌汚染を減らすには、スマートデバイスをしっかり消毒すればいいのかな。
スマートデバイスを適切に消毒すれば、汚染が低下することは確認されています。
一方、スマートデバイスは精密な電子機器のため、食品の機械器具と同じような方法で、水や洗剤、消毒剤で洗浄・消毒することは難しいです。
そのため多くの施設では、防水、落下時の故障防止、そして消毒しやすいように、「保護ケース」にスマートデバイスを入れているのではないでしょうか。
しかし、スマートデバイスを保護ケースに入れた場合、「消毒しにくい箇所」ができるため注意が必要です。
保護ケースによく用いられるゴムやプラスチックといった素材の表面に、リステリア菌やサルモネラ菌が付着し、バイオフィルムを形成し、生存することが分かっています。
そのため、スマートデバイスを消毒しやすいように保護ケースに入れたとしても、穴や継ぎ目があるケースの場合、消毒をしっかり行えず、汚染の原因となる恐れがあります。
消費者はスマートデバイスをどう扱っているか
食品従事者は、スマートデバイスを使った後にきちんと手を洗っているのかな?
先ほども言ったように、食品従事者のスマートデバイスの利用状況に関する調査はほとんどありません。
そこで、ここでは一般的な消費者が調理中にどのようにスマートデバイスを使用しているかを紹介します。
アメリカのFDAが消費者3,870人を対象に聞き取り調査を行いました。
結果は、約半数が調理中にスマートデバイスを使用していました。
そして、その傾向は年齢が若いほど高い傾向があり、18~35歳では62%が、一方65歳以上では29%が調理中に使用すると回答しました。
また、肉を触った後に石鹸で手を洗うと答えた人は85%だったのに対し、スマートデバイスを使った後では37%しか石鹸で手を洗うと回答しませんでした。
そして驚くべきことに、多くの消費者はスマートデバイスを普段からトイレやジムに持っていっており、デバイスが「汚い」と認識していました。
多くの人がデバイスを汚いと知っているのに、触った後に手を洗っていないのですね。
また、アイルランドの公的機関であるSafefoodが行った調査では、消費者に実際に調理を行ってもらい、その工程を観察しました。
参加者(合計51人)は30分の調理の最中に、平均5.8回スマートデバイスに触れました。
そして、3人に1人が鶏肉に触った後に、4人に3人が卵を触った後に、手を洗わずにタブレットを触っていました。
また、事前にきれいにしておいたスマートデバイスから腸内細菌を検出しました。そのため、調理中の手を介して、スマートデバイスが汚染されたと考えられました。
消費者を対象にした調査ですが、多くの食品事業者にも思い当たる当たる節があるのではないでしょうか。
対策を立てる
ここまでの内容をまとめると以下のようになります。
- スマートデバイスはきちんと消毒しないと汚い。
- スマートデバイス上でも菌は生存できる。
- 手指にいる菌がスマートデバイスに移る。逆もまた同じ。
- 調理中にスマートデバイスを触った後に、手を洗う人は少ない。
今のところ、スマートデバイスが原因で食中毒が起きたという報告は「まだ」ありません。
ただし、報告がないだけで、十分に起こり得ることです。
そのため、食品事業者の方は、スマートデバイスによる汚染を防ぐための対策を取る必要があります。
スマートデバイスは、HACCPで言うところの「危害要因(Hazard)」をもたらす「汚染源」になるということです。
ここではアリゾナ大学Cooperative Extensionの記事を参考に、対策を紹介します。
定期的に消毒する
作業台や機械器具類は定期的に清掃・消毒を行っていると思います。
スマートデバイスについても同じように、「いつ」「だれが」「どうやって」清掃・消毒するのか、明記しましょう。
可能であれば、保護ケースの消毒が難しい箇所について、きちんと消毒できているかを検証してみるといいかもしれません。
手を洗う
スマートデバイスを使用した後に、手を洗わなければいけないことを衛生管理計画に盛り込み、従業員に教育しましょう。
個人のデバイスについて使用方針を立てる
個人のスマートデバイスの使用に関して、使用方針を立てましょう。
そして、設定した方針について従業員とコミュニケーションをとり、教育を行います。
対策は基本的な内容ですね。スマートデバイスが「汚い」という認識を持つこと、そしてデバイスの消毒や手洗いを習慣化することが大切です。
終わりに
以上が、スマートデバイスがもたらすリスクについての紹介でした。
肉や魚を触った後は手を洗うこと、トイレに行った後は手を洗うこと、などは何十年にも渡って言われてきたため、ほとんどの従業員はリスクを理解しています。
しかし、スマートデバイスは比較的新しく、あまりにも私たちの身近にある存在のため、リスクがあることをつい忘れてしまう、またはあえて見過ごしてしまいます。
スマホやタブレットで衛生管理を行う際には、ぜひこれらのデバイスの管理方法についても、含めるようにしてください。
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