意外と多い!野菜・果物が原因となった食中毒を紹介

意外と多い!野菜・果物が原因となった食中毒を紹介

メロンが原因のサルモネラ食中毒が発生しているとニュースで見たよ。野菜や果物が原因の食中毒なんてあまり聞いたことがないけど、気を付けないといけないのかな。

実は生鮮野菜や果物の食中毒は多く発生しています。

生で食べる野菜や果物は、見た目はきれいですが、外で栽培されるため土や水、環境からの汚染を受けやすいです。

また、産地→輸送→加工場→市場→小売店など、様々な流通段階を経るため、それらの場所での汚染も起こりえます。

そして一度汚染されると、食べるときに加熱工程がないため、菌を「やっつける」ことができません。

そのため生で食べる野菜や果物は、思っている以上に食中毒のリスクが高い食品です。

アメリカほどではありませんが、日本でも生の野菜や果物が原因の食中毒が時々発生しています。

そこで今回は、アメリカで生で食べる野菜や果物が原因となった食中毒を紹介します。

日本の野菜果物の輸入量は年々増加していることから、アメリカでどのような食品が原因で食中毒が発生しているかを知ることは、日本における食中毒予防の役立つと思います。

この記事は「Multistate Outbreaks of Foodborne Illness in the United States Associated With Fresh Produce From 2010 to 2017」(Front Microbiol. 2019 Nov 22;10:2667.)を参考にしています。

目次

どうやって農産物は汚染されるのか

野菜・果物は生産、流通、販売の様々な段階で汚染を受けます。

収穫前、収穫中、収穫後それぞれの段階での汚染の原因を少し見てみましょう。

収穫前の汚染

農産物は屋外で地中又は地面の近くで栽培されます。そのため、「灌漑(かんがい)用水」、「土壌」、「肥料」、「糞尿」、「昆虫」、「ほこり」などから食中菌に汚染される可能性があります。

灌漑用水

汚染された灌漑用水が原因で、農産物が汚染されることがあります。過去にも、灌漑用水が原因でロメインレタスの腸管出血性大腸菌O157の食中毒や、トマトのサルモネラ食中毒が発生しています。

irrigation water

土壌改良剤(肥料、堆肥、糞尿など)

土壌改良剤(肥料、堆肥、糞尿など)も、農産物を汚染します。2006年に発生したホウレンソウの腸管出血性大腸菌O157の食中毒では、豚の糞が水を汚染したために発生したと推測されています。

ほこり、昆虫

牛がいる牧場から60~180m離れたところにある葉物野菜をほこりなどを通じて汚染することが実験で確認されています。

また、線虫、ナメクジ、昆虫は食中毒菌を保有することがあります。例えばハエは、排泄物や吐き戻しを通じて、ホウレンソウリンゴに病原大腸菌を付けることができます。

収穫中の汚染

収穫中には、「機械」、「輸送容器」、「ナイフなどの道具」、「人の手や手袋」との接触を通して、農産物を汚染する、汚染を拡大する可能性があります。

Farmer makes the lemons harvest in spring. Agriculture.

例えば、腸管出血性大腸菌を付けたナイフを使ってレタスを収穫したところ、19個ものレタスを汚染する可能性が示されました

日本でも2023年にリンゴでの腸管出血性大腸菌O157食中毒がありました。器具による汚染の可能性が考えられています。

収穫後の汚染

収穫後の輸送、貯蔵、加工の段階でも汚染が起こりえます。

輸送の段階では、輸送車両や温度管理に使われる氷などの冷媒が汚染の原因になる可能性があります。

洗浄、切断、乾燥、包装などが行われる加工場では、汚染された設備や他の農産物により交差汚染が起こりえます。例えば、メロン農場のコンベアから採取した環境サンプルの33%から大腸菌が検出されました。

apple baltconveryer

保管されていた洗浄済みのメロンから、サルモネラと大腸菌をそれぞれ0.8%と1.6%検出されたとの報告もあります。

また、農産物の形状によっては、洗浄、殺菌工程ですべての菌を取り除くことは難しかったりします。

そして、流通の最終段階の小売店や飲食店でも、従業員の取り扱いによって農産物は汚染される可能性があります。

生鮮農産物が原因の食中毒の発生状況

アメリカでは動物性食品を避けたい人の増加や、健康志向の高まりから生野菜・果物の市場は増加しています。

そして生鮮農産物の消費量が増えると、それに関連した食中毒も増加します。

食中毒全体の件数そのうち農産物が
原因の食中毒件数
そのうち広域食中毒
2004-2010年1,779件 163件(9%)45件(28%)
2010-2017年1,797件228件(13%)85件(37%)

2004-2010年では、163件の食中毒全体の9%)が生鮮農産物によるものでした。そして、このうち45件(28%)が広域食中毒(複数の州に渡って発生)でした。

一方、2010-2017年では、228件(全体の13%)の食中毒が生鮮農産物によるものでした。そして、このうち85件(37%)が広域食中毒でした。

このように、生鮮農産物を原因とする食中毒が増加しており、公衆衛生上重要な課題になっています。

ただし、この食中毒件数の増加には、食中毒調査能力の向上も影響しているかもしれません。

原因微生物と原因食品

2010-2017年に発生した生鮮農産物が原因の広域食中毒(85件)の原因微生物の内訳です。

細菌性の食中毒が83件を占め、「サルモネラ」が68%、「病原大腸菌」が27%、「リステリア」が5%でした。

また、細菌性の食中毒の他に「A型肝炎ウイルス」と「サイクロスポラ(原虫)」がそれぞれ1件ずつ発生しています。

細菌性食中毒83件のうち、70%が野菜によるもので、30%が果物が原因の食中毒でした。果物の方が発生件数は少なかったのですが、死亡者数では果物の方が多く、76%を占めました。

メロンが原因の大規模なリステリア食中毒が発生したため、果物の死亡者数が多くなっています。

原因となった野菜の上位3位は、①スプラウト(28%)、②レタス(14%)、次いで③キュウリ、ロメインレタス、葉物野菜(それぞれ12%)でした。

原因となった果物の上位3位は①メロン(40%)、②パパイヤ(28%)、③マンゴー(12%)でした。

こうして見るとアメリカでは、あまり日本で食中毒が起きていない野菜・果物が原因で食中毒が起きているんですね。

次に、細菌性食中毒の原因菌となった「サルモネラ」「病原大腸菌」「リステリア」について、もう少し詳細を見てみましょう。

サルモネラ

2010年から2017年の間に、農産物を原因とする広域のサルモネラ食中毒は56件発生しました。

原因食品は、果物が41%、種を持つ野菜(きゅうり、トマト、トウガラシなど)が27%、スプラウトが21%などでした。

果物では、メロン(9件)のほかにパパイヤ(7件)、マンゴー(3件)などでも食中毒が起きています。

野菜が原因の大規模な食中毒は、2015年に発生したメキシコから輸入されたキュウリを原因とする食中毒です。40州にわたり患者が907人発生し、そのうち204人が入院、6人が死亡しました。

果物が原因の大規模な食中毒は、2017年に発生したメキシコから輸入されたパパイヤを原因とする食中毒です。23州にわたり患者が220人発生し、そのうち68人が入院、1人が死亡しました。

Papaya

病原大腸菌

2010年から2017年の間に、病原大腸菌による農産物を原因とする広域食中毒は23件発生しました。

大部分が、レタス、ロメイン、キャベツなどで、そのほかにスプラウト、葉物野菜が原因になっています。果物が原因となった事例は報告されていません。

ロメインレタスの事例紹介

2018年にロメインレタスを原因とする腸管出血性大腸菌O157食中毒が発生しました。

最終的に、16州にわたって患者62人が確認されました。

調査の過程でロメインレタスが原因と疑われましたが、どこの産地でいつ収穫されたロメインレタスなのかが不明でした。

過去の記事でも紹介しましたが、遡り調査には時間がかかります。

そのためFDAは消費者の健康を守るために、「すべてのロメインレタス」を食べないように注意喚起を行いました。

特定のメーカーやロットを特定せずに注意喚起を行うのは、風評被害を生むため通常は行いません。それでも行ったということは、それだけFDAは必死だったと言えます。

この事件を受け、業界団体では(FDAの勧告もあり)ロメインレタスに「栽培された地域」と「収穫日」を自主的に表示するようにしました。

romaine-harvest-region-and-date-labels
画像:Food Safety News

このような表示があると、産地やロットの迅速な特定につながり、業界としても同じような出来事(FDAによるすべての製品に対する注意喚起)を防ぐことができます。

リステリア

2010年から2017年の間に、リステリアによる農産物を原因とする広域食中毒は4件発生しました。

メロン1件、核果(モモ、ネクタリン、プラムなど)1件、スプラウト1件、レタス1件でした。

2011年に発生したメロンを原因する食中毒では、28州にわたり患者が147人発生し、そのうち143人が入院、33人が死亡しました(致死率22%)。

メロンがどうして汚染されたのかを詳しく知りたい方はこちらの文献を参考にしてください。

大規模な食中毒を起こしたのだから経営者は悪い人だろうと思うかもしれませんが、この本を読むと、衛生面の改善に前向きに取り組んでいたようなイメージを受けます。

また、食中毒が発生する直前の2011年7月に行われた第三者監査で、96%の点数を獲得し「Superior(優れている)」の結果をもらっていたという点も気になる点です。別の記事でも書きましたが、大規模な食中毒を起こした施設であっても、第三者監査でよい点数を取っていることがあります。


以上が生鮮農産物が原因の広域食中毒の紹介です。

日本ではアメリカほど農産物が原因の食中毒が報告されていませんが、これは本当に食中毒が起きていないからなのか、それとも行政が探知できていないのかはわかりません。

しかし、アメリカで起きているのであれば、日本で同じような食中毒が起きてもおかしくはありません。

そのため過去の事例を学び、対策を立てていくことが大切です。

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