【食品への意図的な化学物質の混入】日本でも起きている!自分の施設は大丈夫では通用しない

【食品への意図的な化学物質の混入】日本でも起きている!自分の施設は大丈夫では通用しない

アメリカで食品に意図的にクロム酸鉛が混入されたことで、500人以上に健康被害があったと聞いたよ。安全意識が高い日本では、意図的な混入は関係のない話ですよね?

実は食品への意図的な物質の混入事件は世界中で起きています。

日本も例外ではなく、国内での混入だけでなく、輸入の原材料でも起こり得ます。

どのような物質が、どの段階で、誰によって、何の目的で混入されたのかについて過去の事例を知ることが、意図的な混入事件を防ぐ第一歩になります。

そこでこの記事では、アメリカの国土安全保障省(United States Department of Homeland Security)が行った調査を参考に、2009年から2022年までに起こった「意図的な化学物質の混入」事件の状況について紹介したいと思います。

目次

調査の対象範囲

この調査の対象範囲は、2009年から2022年までに論文やニュースなどで報道された「意図的な化学物質の混入」事件です。

そのため、2009年以前の事件はこの調査から除外されています。例えば2008年に中国で発生した粉ミルクへのメラミンの混入事件は大きな社会問題になりましたが含まれていません。

そのほかに除外された、又は含まれている事件は下のとおりです。

調査から除外された事件の例調査に含まれる事件の例
殺人、自殺、暗殺(親族、隣人、知人による特定の個人を狙ったもの)・混入した食品を複数の同僚に配布
・共有のコーヒーポットに混入
自家醸造、メタノールを混ぜた飲料*飲料への意図的な農薬の混入
経済的動機による牛乳の不純物混入*牛乳への意図的な農薬の混入
残留農薬*有害な量の農薬を意図的に食品に混入
事故で混入したガラスや金属の破片*ガラスや針を意図的に食品に混入
*は食品安全上の問題のため除外 (文献のTable1を翻訳、一部改変)

また、経済的な動機による食品偽装については、病気や死亡に至った事件は調査に含められていますが、経済的な損害のみしか生じなかった事件は含められていません。

そのほか、論文やニュースになっていない事件については、当然含まれていません。

最終的に14年間で76の事件が該当しました。これらの詳細を見ていきましょう。

飲料への混入が一番多い

76の事件を化学物質が混入された「食品カテゴリー」でまとめたのが下の表です。

事件数は「飲料」が最も多く(26%)、次いで食事、肉類、牛乳、乾燥食品と続きます。

食品カテゴリー事件数
(乳を含まない)飲料20件
食事14件
肉類9件
牛乳5件
乾燥食品(ポテトチップス、シリアルなど)5件
生鮮果物/野菜4件
缶詰4件
ケーキ/パン3件
甘いお菓子3件
調味料、ドッグフード各2件
ベビーフード、チーズ、サプリメント、魚、酢各1件
文献のTable2を翻訳、一部改変
Plastic bottles of assorted carbonated soft drinks

飲料は液体で、色や香りが付いているから、混入させやすい食品なのかもしれないですね。

入手しやすい化学物質が使われる傾向がある

次は、「どのような化学物質が使用されたのか」についてです。

意図的な混入に最も多く用いられたのは「市販されている化学物質」で、22件と全体の29%を占めました。これに対し、「規制されている化学物質」は2件だけでした。

次に多かったのが「違法薬物」で18件でした。このうち12件は、偽の包み紙に包まれていました。(例:フェンタニルがキャンディーの包み紙で包装されていた)

化学物質の種類化学物質名事件数
市販の化学物質洗剤、亜硝酸塩、硝酸塩、ペンキ、不凍液、漂白剤、タリウム、酢酸鉛、硫酸ヒドロキシルアミン、炭化カルシウム、家具のつや出し剤、オレオレジン、2,4-ジニトロフェノール22件
違法薬物MDMA、THC、マリファナ、カンナビノイド、アヘン、フェンタニル、コカイン、覚せい剤18件
農薬エチレンオキシド、モノクロトホス、メソミル、特定不能11件
殺鼠剤1,080(モノフルオロ酢酸ナトリウム)、ブロジファクム、テトラミン、特定不能9件
処方薬ラクトパミン、クレンブテロール、バイアグラ®、フェノバルビタール7件
規制されている化学物質ホルムアルデヒド、過酸化水素、シアン化物2件
粒子土、砂、泥、針3件
尿尿2件
除草剤(パラコート)、不明各1件
文献のTable3を翻訳、一部改変

比較的簡単に入手できる化学物質が使われる傾向があるようです。また、違法薬物については、昨年日本でも「大麻グミ」が問題になりましたね。

Rainbow_fentanyl
色がつけられたフェンタニル(画像:US Drug Enforcement Administration)

製造・調理段階での混入が多い

次は「どの段階で化学物質が混入された」についてです。

製造段階での混入が最も多く、そこから流通するため、影響も大きくなります。死者数、病気になった人数ともに一番多くなっています。

混入場所事件数死者数病気になった人数
製造段階212053,572
調理段階*11739387
違法薬物の偽装包装12216
農場80843
改ざん*28620
学校/職場の
共用エリア*3
7145
小売店200
家庭104
文献のTable4を翻訳、一部改変

*1 「調理段階」とは、レストラン、学校、刑務所、その他のケータリングイベントにおいて、調理従事者によって料理が準備される状況

*2 「改ざん」とは、誰かが包装された食品を入手し、家に持ち帰り、それを他の誰かが購入したり、食べたりする場所に置くこと

*3 「学校/職場の共用エリア」とは、共通の冷蔵庫に弁当を保管したり、ある人が持ってきた食品を他の人が食べたりする状況

レストランなどの調理段階では、調理場内に他の食材と一緒に化学物質があったり、製造工場よりも従業員管理が難しいため、混入への対策が難しいですね。

busy restaurant

従業員による犯行、そして経済的な理由が多い

次は、「犯行主体」とその「動機」です。

従業員」が犯行主体となった事件が20件(26%)と最も多く、次いで「会社」が15件(20%)でした。

従業員の動機としては、「復讐」が最も多く、全体としては「経済的な理由」が14件と一番多かったです。

犯人動機
事故交差汚染麻薬取引経済的ゆすり精神異常意図的復讐不明合計
従業員211117720
会社1111215
薬物の売人1111
不明111811
知り合い3328
犯罪122319
生物蓄積11
事故11
合計621214338101876

アメリカで去年起きた事件もエクアドルの会社がシナモンにクロム酸鉛を添加し、金銭的価値を高めていましたね。

Cinnamon

事例紹介

統計情報だけだと、あまり実感がわかないと思いますので、具体的な事例を2つ紹介します。

死者数が最も多かった事件

初めに紹介するの、死者数が一番多かった事例です。

発生年:2011年

場所:インド

混入された食品:アルコール飲料

化学物質:農薬

汚染場所:工場

犯行の主体:会社

動機:経済的な理由

死亡者数:143人、病気になった人:144人

この事例では地元の醸造所で作られたアルコール飲料に農薬が混ぜられました。

事件の要因については、以下のように書かれています。

One man in the illegal liquor business who operates in Gocharan told him this batch came from a man who was “extremely greedy” and who watered down the liquor then mixed in pesticide to give it “flavour”.

(訳)ゴチャランで違法酒販業を営むある男は、この酒は「非常に貪欲」な男から仕入れたもので、「風味」をつけるために、酒を水で薄め殺虫剤を混ぜたものだと語った。

India toxic alcohol kills 143 in West Bengal, BBC (2011年12月15日)

そして事件が起こった背景としては、次のように書かれています。

He said police were regularly bribed: “There is an officer nominated for collecting the bribe. We call this person the ‘dak master’. In every law enforcement office, there is one ‘dak master’. If you pay him, you can carry on with your activity.

(訳)警察は定期的に賄賂を受け取っている: 「賄賂を集めるために指名された警官がいる。 私たちはこの人物を『ダク・マスター』と呼んでいます。 どの警察署にも『ダク・マスター』が一人はいる。 彼に金を払えば、(違法な)活動を続けることができます」。

India toxic alcohol kills 143 in West Bengal, BBC (2011年12月15日)
Someone_giving_bribe

日本と状況がかなり違うと思います。意図的な化学物質の混入は日本では起きていないのですか?

そんなことはありません。実は「病気になった人数」が一番多かった事件は日本で起こりました。次の事例を紹介します。

発生年:2013年

場所:日本

混入された食品:冷凍食品

化学物質:農薬

汚染場所:工場

犯行の主体:従業員

動機:復讐

死亡者数:0人、病気になった人:2,800人

クリームコロッケなどの冷凍食品に農薬(マラチオン)が意図的に混入された事件で、2013年と比較的最近の事件のため、まだ記憶にある方もいると思います。

この事件が起こった背景は、新たに導入された人事制度により、契約社員の給与が引き下げられたことによる不満となっています。

そして、工場側としても、従業員が外部から異物を持ち込み、意図的に混入する可能性を想定していなかったとのことです。

また、第三者委員会の報告書では「食品企業としてのミッションの再確認と浸透」や「社員や契約社員、それに地域とのコミュニケーションに努め、外部からの侵入と内部による犯罪の双方を未然に防ぐ企業風土をつくる。」などと提言しています。

食品安全ではなく、食品防御の事例ですが、強固な「食品安全文化」の構築の重要性を感じます。

おわりに

以上が、意図的な化学物質の混入事件の状況になります。

「自分の施設は今まで問題がないから大丈夫だろう」ではなく、規模に関係なくどの施設でも起こりえることです。

意図的な化学物質の混入対策については、英語だけでなく、日本語でも素晴らしい文献が多数ありますので、ご自身の施設で取り入れる際の参考にしていただければと思います。

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