昨日行ったレストランがすごく汚なくて、ゴキブリがいたよ。いつか食中毒を起こさないか心配…。保健所に連絡すると営業停止になったりするのかな。
日本では、「〇〇の飲食店が食中毒を起こして営業停止になった」というニュースはよく見ます。
しかし、食中毒を起こさなくても、「お店が汚い」や「衛生上問題がある」というだけで営業停止になることはあるのでしょうか。
保健所は定期的に飲食店などに「立ち入り検査」を行っています。その結果が悪かった場合、どうなるのでしょうか。
そこでこの記事では、アメリカと日本の「立ち入り検査後の対応の違い」について紹介します。
アメリカの立ち入り検査後の対応
アメリカでは保健所の立ち入り検査の結果、衛生上問題があると営業停止になることがあります。
例としてニューヨーク市を見てみましょう。
ニューヨーク市の立ち入り検査
以前の記事でニューヨーク市の取り組みを紹介していますので参考にしてください。
ニューヨーク市は27,000ある飲食店に対し、事前通告なしの立ち入り検査を行っています。
衛生的に優れている施設には1年に1回程度。そして、衛生面に問題がある施設には、より多くの頻度で立ち入り検査を行っています。
立ち入り検査の結果は A、B、C の成績で表されます。
成績の付け方は、立ち入り検査の際に見つかった違反の点数を足していく方式です。
運転免許の違反の計算と同じですね。
違反の合計点数が 0~13点までであれば「A」。14~27点であれば「B」、28以上は「C」の成績が与えられます。
成績 | 違反の合計 |
---|---|
A(優) | 0~13点 |
B(良) | 14~27点 |
C(可) | 28点以上 |
そして、A、B、C が書かれた成績カードを、消費者が店に入る前に確認できるよう、店頭などに掲示していなければなりません。
施設の成績やどのような違反があったかは、過去のものも含めてニューヨーク市のウェブサイトに公表されています。
違反の種類
違反の点数を累積していくのはわかったけど、違反にはどのような種類があるの?
違反は次の3つに分けられています。
- Public health hazard(公衆衛生上の危害):リスク 大
- (例)食品を適切な温度で保存していない
- 7点から
- Critical violation(重大な違反):リスク 中
- (例)サラダを事前に洗わずに提供した
- 5点から
- General violation(一般的な違反):リスク 小
- (例)調理器具を適切に消毒していない
- 2点から
食中毒を起こすリスクの高さに応じて、違反に重み付けがされています。リスクは「Public health hazard」が一番大きいため点数が高く、「General violation」が一番軽微のため点数が低くなっています。
また、違反の状況に応じても点数が変わります。
スピード違反と同じで、どれくらい違反したかによって点数が変わるのですね。
一つ例を見てみましょう。
「Critical violation」(重大な違反)の「施設に生きたゴキブリがいた」場合です。
違反の状況 | 点数 | 罰金 |
---|---|---|
①ゴキブリが1~5匹いた | 5点 | $200 |
②ゴキブリが1つのエリアに6~10匹 | 6点 | $200 |
③ゴキブリが1つのエリアに11~15匹 | 7点 | $250 |
④ゴキブリが1つのエリアに16~20匹 | 8点 | $300 |
⑤ゴキブリが20匹を超えていた | 28点 | $350 |
ゴキブリがたくさんいると、それだけで28点なので、成績は「C」になるということか。罰金もあるんですね。
「Public health hazard」(公衆衛生上の危害)がもし検査中に改善されなかった場合や、それ以外の違反でも放置しておくと食中毒が起きる恐れが高い場合は、施設の営業停止が検討されます。
上の例の「施設に生きたゴキブリがいた」はCritical violationですが、ゴキブリが20匹を超えていた場合は食中毒が起きる恐れが高いため、営業停止の対象になります。
日本で義務化されたHACCPに関しては、HACCPプラン通りに実施していなかった場合やHACCPプランが施設に保管されていなかった場合は「Public Health Hazards」の違反となり、営業停止の対象となります。
どのような状態が違反になるのかは公表されているため、飲食店の営業者は自分で点検しておくことができます。
どれくらいの施設が営業停止になっているのか
食中毒を起こさなくても、違反があるだけで営業停止になることはわかったけど、実際どれくらいの施設が営業停止になるんだろう。
ニューヨーク市では、2023年に17,000の飲食店に立ち入り検査を行い、400近い施設が営業停止になりました。
つまり、立ち入り検査の結果、2%ほどの飲食店が営業停止になったということです。
ニューヨーク市は立ち入り検査の対応に関して、非常に厳しい自治体です。そのため、アメリカのすべての都市がニューヨーク市と同じレベルで営業停止にしているわけではありません。
そして、このようなニューヨーク市の取り組みは「厳しすぎる」、「罰金を徴収するためのシステムだ」というような批判もあります。
しかし、食中毒を減らすことに貢献しているという報告もあり、いずれにしても大変注目されている取り組みです。
立ち入り検査の限界について
ニューヨーク市の職員が第三者の視点で、事前通告なしに営業中の飲食店に立ち入るので、きちんと衛生面がチェックされているように思えます。
そして消費者も成績を参考に店を選ぶため、立ち入り検査の成績は、飲食店にとって店の存続を左右する大きな問題です。
しかし、成績がその店の日々の衛生状態を表しているわけではありません。
成績は、立ち入り検査を行った日、その時間のお店の衛生状態しか切り取れないからです。
また、市職員がお店に滞在している時間は、営業者や従業員は「いかに違反にならないようにするか」に細心の注意を払うため、普段よりもよく見えるように行動するかもしれません。
立り入り検査やその成績には、このように限界があることを理解する必要があります。
立ち入り検査の限界については下の記事もご覧ください。
日本の立ち入り検査後の対応
日本の自治体は年間の立ち入り計画や立ち入り結果は公表していますが、個別の立ち入り検査の結果は公表していません。
そのため、「個別施設の衛生状態がどうだったのか」や「衛生状態が悪い施設がどうなったのか」を消費者が知ることは難しいようです。
そして、「店が汚かった」や「衛生上問題があった」という理由で営業停止になることは、自治体の違反者の公表やニュースを見ている限り、基本的にはなさそうです。(食品衛生法上は営業停止にすることはできますが)
この記事では、アメリカと日本の立ち入り検査後の対応の違いを紹介しました。
アメリカ(特にニューヨーク市)は、日本に比べると非常に厳しい制度ですね。
食品安全の目的は、食中毒が発生する前に措置を行い、食中毒の発生を未然に防止することです。
そのため、日本の「食中毒があった後に営業停止にする」は、食中毒発生を未然に防止するという点では、不十分かもしれません。
アメリアの取り組みすべてを真似する必要はありませんが、食中毒を予防するという観点では、いろいろと学べることがあると思います。
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