アメリカで生乳が原因で、170人以上が食中毒になったというニュースを見たよ。アメリカでは生乳を飲むことが一般的なの?
その国で起こっている事故や人々の考え方、法整備の状況を知るためには、ニュースや新聞記事を読むことが一番手っ取り早い方法です。
そこで今回は、アメリカで最近よくニュースで目にする「生乳(無殺菌乳)」について、新聞記事を参考に紹介したいと思います。
今回紹介する記事は、「Raw Milk Is Booming. A Salmonella Outbreak Highlights Its Risks(生乳ブーム。サルモネラ菌の食中毒によりそのリスクが浮き彫りに)」(ニューヨーク・タイムズ、2024年7月19日)です。
「ニューヨーク・タイムズ」は、独自の取材をしっかりと行っており、記事が読みやすいため、私が好きな新聞の一つです。
この記事を読みながら、アメリカでの生乳の食中毒の状況、なぜ生乳が人気なのか、行政機関の対応について紹介したいと思います。
アメリカで問題になることは、将来日本でも問題になることが多いです。
事前にアメリカの最新ニュースで学んで、自身の施設のリスクマネジメントに役立てましょう。
英語で記事が読めると、日本のメディアで紹介されていない海外の情報をいち早く知ることができます。ぜひ皆さんもチャレンジしてください!
生乳が原因で少なくとも171人が食中毒に
まずは記事で紹介されている生乳が原因の食中毒を紹介します。
- 原因食品:Raw Farm(カリフォルニア州)が販売した生乳(無殺菌乳)
- 患者数:171人(うち22人が入院)
- 患者の40%は5歳未満
- 原因菌:サルモネラ
- 患者の発症期間:2023年9月~2024年3月
患者の多くが「小さな子ども」であること、そしてかなり長期に渡って患者が発生していることが特徴的です。
病気になっても医療機関を受診しない人がいる、受診しても検便を行わない場合がある、保健所の調査に協力しないなどがあるため、実際の感染者数はもっと多いと考えられます。
昔から生乳の食中毒は起きている
最近アメリカでニュースになることが多い「生乳」ですが、食中毒の原因となるのは決して新しい話ではありません。
FDAの調査では、1987年から2010年までに生乳が原因の食中毒が133件起きています。合計で、患者数は2,659人、入院者数は269人、死亡が3件、死産が6件、流産を2件を引き起こしました。
生乳を飲む人は、アメリカの人口の5%程度です。しかし、その割合に対して、多く食中毒が発生しています。
今回の食中毒を起こしたRaw Farmは過去に何度も食中毒を起こし、自主回収を行っています。
- 2024年2月:生乳を使ったチーズの食中毒(腸管出血性大腸菌O157)
- 2023年5月:生乳の自主回収(カンピトバクター)
- 2023年8月:生乳を使ったチーズの自主回収(サルモネラ)
- 2016年1月:生乳の食中毒(腸管出血性大腸菌O157)
- 2015年10月:生乳の自主回収(カンピロバクター)
- 2012年5月:生乳/クリームの食中毒(カンピロバクター)
- 2011年11月:生乳の食中毒(腸管出血性大腸菌O157)
- 2008年9月:生乳のクリームの自主回収(カンピロバクター)
- 2007年12月:生乳の食中毒(カンピロバクター)
- 2007年9月:生乳のクリームの自主回収(リステリア)
- 2006年9月:生乳の食中毒(腸管出血性大腸菌O157)
こんなにも事件を起こしているのに、ビジネスは好調だったのですね。
FDAやCDCは「生乳のリスク」について、繰り返し注意喚起していますが、そのリスクは消費者には正確に伝わっていないようです。
また、今年の3月以降、アメリカでは「乳牛」への高病原性鳥インフルエンザの感染が拡大しており、生乳を飲むことでヒトへの感染が心配されています。
しかし、今年の6月の生乳の売上は昨年より35%増加しており、消費者の人気はむしろ拡大しているようです。
なぜ生乳が人気なのか
それでは記事を少し読んでみましょう。
記事でインタビューされているのがジャッキーです。彼女の9歳の息子が生乳を飲んで「サルモネラ」に感染しました。
Jackie knew that drinking unpasteurized milk came with some risk, but she believed that the lack of processing made it a healthier choice for her family. And she trusted Raw Farm, which states on its website that it tests every tank of milk for pathogens before bottling it or making it into cheese, butter or other dairy products.
(筆者訳)ジャッキー自身、無殺菌乳を飲むことに多少のリスクがあることは知っていた。しかし、加工していない分、家族にとってより健康的な選択だと信じていた。 そして、Raw Farmのウェブサイトには、生乳を瓶詰めする前や、チーズやバターなどの乳製品にする前に、すべてのタンクで病原菌の検査を行っていると書かれていたことから、信頼していた。
The New York Times
記事にある「unpasteurized milk」が生乳(無殺菌乳)のことです。同じ意味で「raw milk」が使われる場合もあります。
日本でも同じだと思いますが、「自然」、「無加工」、「無添加」といった言葉を見ると、多くの人が無意識に「健康にいい」というイメージを持っています。
そして、生乳に対するアメリカの消費者が持つイメージも同じです。
具体的には、生乳は以下のような「良い点」があるとしてマーケティングされます。
- 乳糖不耐症、喘息、アレルギーを治す。
- 腸内環境に良い菌を多く含む。
- 免疫機能を高める。
- 殺菌乳より骨粗しょう症に効果がある。
- 殺菌乳より栄養面で優れている。
- 殺菌乳より安全である。
- HACCPや検査を適切に行えば安全である。
しかし、これらの迷信は科学的に否定されています。
検査を行えば安全なのか?
次に、今回の食中毒を受けて、営業者のコメントを見てみましょう。
Aaron McAfee, the president of Raw Farm, said that their usual milk tank tests didn’t detect the salmonella that caused the outbreak. It was a “learning opportunity” that led the farm to improve its testing protocols, he said.
(筆者訳)Raw FarmのAaron McAfee代表によると、同牧場が行っていたタンクの検査では、食中毒の原因となったサルモネラは検出されなかったという。そして、この食中毒は、同牧場が検査手順を改善する「学びの機会」となった、と彼は言っている。
“To any families that were part of that learning experience, we are sorry,” Mr. McAfee said. “The improvements that we made have dramatically increased our food safety,” he added.
「このような学びの経験の被害者となったご家族には、申し訳なく思っています。」と彼は言い、「今回の事件を受け行った改善により、我々の食の安全性は劇的に向上しました。」と付け加えた。
The New York Times
「検査でサルモネラを検出しなかった」というコメントから、自分の施設が原因ではないと思っているように感じます。
これだけの事件が起こしたにも関わらず、「学びの機会」という言葉を使い、今後も生乳を販売していくという強い意図が伝わります。
代表のコメントは以下のように続きます。
“Pathogens are entirely natural,” he said, adding that “our consumers are seeking to rebuild that relationship with the farm and the bugs that naturally live there.” He also said that the company’s products are labeled with warnings that they may contain disease-causing microbes, as required by state law.
(筆者訳)「病原菌は完全に自然なものです。そして、私たちの顧客は、農場とそこに生息する菌との関係を再構築することを求めています。」 と付け加えた。また彼は、同社の製品には、州法で義務付けられている病気を引き起こす微生物が含まれている可能性があるという警告を表示しているとも言っています。
The New York Times
顧客の要望に応えて「自然」なものを販売しており、そして自分たちは法令を順守しているというスタンスです。
検査手順を改善したのであれば、今後はこの農場の生乳を飲んでも安全なのかな?
FDAは、事前検査は「殺菌工程」の代替にはなり得ないと言っています。
生乳に含まれる菌は多様で、変化しやすく、予測が不可能です。そのため、すべてのタンクにおいて、すべての病原菌を検査することは不可能です。
そして、完ぺきな検査というものはなく、「病原菌が検出されなかった=病原菌が存在しない」ではないということを理解する必要があります。
もし完ぺきな検査があるのであれば、この農場は何年にも渡って数多くの食中毒を起こさなかったことでしょう。
おわりに
以上がアメリカにおける生乳の状況を、新聞記事を読みながら紹介しました。
アメリカで生乳を飲む理由は、様々な社会的背景があります。そのため、いくらリスクがあるからと言って、単純に禁止することは難しいようです。
今回読んだニューヨークタイムズはリベラルなメディアです。保守的な出版社の記事を読むと、別の視点があり面白いです。
ニュースを読むことは、知識を得るだけでなく、英語力の伸ばすのにもってこいです。
このニューヨークタイムズの記事も、ぜひ繰り返し読んで、単語力を向上してください。
さらに、この記事も含めて最近の多くのニュース記事には「音声読み上げ機能」もついています。
実際に音で聞いて英語の音を確かめてみる、シャドーイングしてスピーキング能力を上げるなど、ニュースを使って勉強すれば、「一石三鳥」、「一石四鳥」の効果があります。
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