日本にいると分からないけど、海外の人は日本の食品の安全性について、どう思っているのかな?
日本に住んでいて日本のニュースだけを見ていると、海外から見た日本を知る機会がほとんどありません。
日本から日本を見ているだけだと気が付かなかったこと、当たり前になっていたことが、海外から日本を見ることで「新たな発見」があります。
そこでこの記事では、海外のニュースやソーシャルメディアで、日本の食品の安全性がどのように伝わっているのか、理解されているのかを見てみましょう。
放射性物質
まず、海外からの関心が依然として高い「放射性物質」について見てみます。
2023年8月24日から福島第一原発の処理水の海への放出が始まりました。下の記事はその翌日の新聞記事です。
Experts say Japan’s discharge into the ocean of treated radioactive wastewater from the ruined Fukushima nuclear power plant, which began on Thursday, does not and will not pose health risks to people who eat seafood. But even though the scientific evidence bears that out, not everyone is convinced.
(訳)専門家によると、木曜日から始まった福島原子力発電所からの処理水の海への放出は、魚介類を食べる人々の健康にリスクをもたらすものではなく、今後ももたらすことはないという。しかし、科学的根拠がそれを裏付けているとはいえ、誰もが納得しているわけではない。
Seafood Is Safe After Fukushima Water Dump, but Some Won’t Eat It, The New York Times (2023年8月25日)
専門家の共通認識としては、処理水の海への放出は現在も、そして未来においても健康被害を生じるものではないとなっています。
一方で、海外の市民が「安心」しているかというと、そうではないようです。
記事ではその後、魚の買い控えやが起きている、日本大使館への抗議活動があった、日本料理店の予約が半分になった、などが書かれています。
「安全」だけど「安心」できないというわけですね。
ただし、日本食に対する海外の市民のイメージは刻一刻と変化してるようです。
2024年8月の記事では、北京に新たに開店した「日本の回転ずし店」が大人気となっています(ただし、日本からの魚は中国に輸出できないため使用していません)。
生卵
日本の「生食文化」は海外から見てもかなり特殊です。
そのため、自国では「危険だから食べるな」と言われているものが「なぜ日本では食べることができるのか」について疑問に持つ人が多いようです。
生卵を例に見てみましょう。
以下は「Reddit」と呼ばれるアメリカで人気の掲示板型ソーシャルサイト(いわゆる「2ちゃんねる」のようなもの)に立てられたスレッドです。
ELI5: How does Japan produce eggs that are safe to be eaten raw?
(訳)分かりやすく説明して:日本はどのようにして生で食べても安全な卵を作っているの?
Reddit
文頭にある「ELI5」は「Explain like I’m 5」の略で、直訳すると「私を5歳児だと思って分かりやすく説明して」です。インターネットの掲示板などで、専門的なことをかみ砕いて説明してほしい時に使われるネットスラングです。
回答の一部抜粋を紹介します。
America is a country that does not have healthy conditions for may of its chickens, and a much higher proportion of chickens are infected with salmonella than other countries such as Japan.
(訳)アメリカは、鶏の多くが健康的な環境にない国であり、日本などの他の国と比較して、サルモネラ菌に感染している鶏の割合がはるかに高い。
Reddit
実際のところ、日本の鶏もかなり高い割合でサルモネラに汚染されています。誰でも書き込める掲示板のため、回答についてはそこまで信頼性はないようです。
もう少し信頼できる出版物を見てみましょう。
According to Kids Web Japan, Japan has a process to help curb the potential of putting any salmonella-ridden eggs on store shelves. Dubbed Japan’s “super egg machine,” the device actually has the ability to check inside of the egg to ensure that bloodspots are not present, using spectroscopic analysis. The machine also cleans the eggs without breaking their shells, dries them, and packages them so they are safe for human consumption.
(訳)Kids Web Japanによると、日本ではサルモネラ菌に汚染された卵が店頭に並ぶのを阻止する工程があるという。日本の「スーパー・エッグ・マシン」と呼ばれるこの装置は、分光分析を使って卵の内部をチェックし、血痕がないことを確認する機能を備えている。この機械はまた、卵の殻を割らずに洗浄し、乾燥させ、人間が食べても安全なように包装することができます。
The Real Reason Raw Eggs Are Generally Safe To Eat In Japan, mashed (2023年7月3日)
文書中にある「Kids Web Japan」は、外務省が運営するウェブサイトです。
「スーパー・エッグ・マシン」は正式名称ではないです。おそらくGPセンター(卵選別包装施設)に置かれている装置のことですね。
上の記事にある装置の他にも、サプライチェーン全体で厳格なガイドラインがある、感染していない鶏を使っている、ワクチンを打っているなどが日本の卵の安全性に貢献していると様々な記事に書かれています。
日本政府も生卵を推しており、公式Xで卵かけご飯を紹介しています。
ちなみに、日本の鶏卵中のサルモネラ汚染率は0.0029%(10万個に3個)と推測されています。一方、アメリカは0.005%(2万個に1個)と推測されています。
アメリカの汚染率とそれほど変わらないのですね。
いくら安全だと言っても当然リスクはあるため、高齢者、乳幼児(2歳以下)、妊娠中の女性、免疫機能が低下している人は、生卵を避けるようにしてください。
鳥刺し
生卵の他に、日本で生食できるもので話題になるのが「鳥刺し」です。
鳥刺しは保健所や行政機関が繰り返し食中毒のリスクが高いことを注意喚起していますが、日本では多くの店で提供しており、簡単に食べることができます。
Quora(世界最大級のQ&Aアプリ。日本の「Yahoo!知恵袋」みたいなもの)でも、日本の鳥刺しについて多くのスレッドが立っています
一つ例を見てみましょう。
Why are Japanese chickens safe to eat as sashimi and American chickens are not? What are the differences between chickens raised in America vs. those in Japan?
(訳)なぜ日本の鶏は刺身で食べても安全で、アメリカの鶏は安全ではないのか? アメリカで飼育されている鶏と日本で飼育されている鶏の違いは?
Quora
回答では、なぜ日本の鳥刺しが安全なのかについて様々な意見が述べられています。一部抜粋してみます。
The inspection process for raw chicken is more rigorous, with a focus on ensuring that only the freshest, highest-quality products are sold as sashimi.
(訳)生食用の鶏肉の検査は、より厳しく行われており、刺身として販売されるのは、最も新鮮で高品質な製品に限られています。
Quora
Redditと同様に専門家でない人も回答しているので、その正確さはあまりあてにならないようです。
信頼できる情報源として、BBCの記事も紹介します。
The dish has been served throughout Japan as a delicacy for years, but overseas popularity has recently been growing, with a number of US restaurants adding the dish to their menus. As a result, the #chickensashimi Instagram feed now numbers over 1,000 uploads.
(訳)日本では昔からごちそうとして食べられてきた料理だが、最近では海外でも人気が高まっており、アメリカのレストランでもメニューに加えるところが続出している。その結果、インスタグラムの#chickensashimiフィードのアップロード数は1,000を超えた。
Some people need to be told not to eat raw chicken, BBC (2017年9月15日)
多くのメディアで鳥刺しが取りあげられるようになり、また、テレビで有名なシェフがソーシャルメディアに「美味しい」と投稿したりしたことなどで、海外での「鳥刺し」の認知度が急増したようです。
ただし、あまりの過熱ぶりに、イギリスの食品基準庁が、「生の鶏肉を食べることは危険である。中心部までしっかり加熱すること」と注意喚起を行いました。
同じ鶏でも、その卵は安全だけれども、肉は危険であるというのは混乱しやすいのかもしれません。
寿司、刺身
最後に、今や世界中で通じる「Sushi」、「Sashimi」についてもご紹介します。
However, Japan has perfected the art of making raw food over the years and has one of the safest and most hands-on food quality control processes in the world.
(訳)しかし、日本は長い年月をかけて生食の技術を完成させ、世界で最も安全で実践的な食品品質管理体制を構築しています。
For sushi-grade fish, the cautious process includes freezing at extremely low temperatures, from -20℃ for seven days to almost -40℃ for 15 hours. More so, Japan has a ton of sushi chefs who are highly trained to ensure the raw fish’s safety for consumption.
(訳)寿司用の魚の場合、-20℃で7日間から、ほぼ-40℃で15時間という極低温での冷凍を含む慎重な工程があります。さらに、日本には生で食べる魚の安全性を確保するために高度な訓練を受けた寿司職人が大勢います。
Why now is the best time to travel to Japan for high-quality food, The New Zealand Herald (2024年7月15日)
この記事のように、日本の食の品質と安全性は、その高さが知られています。
しかし、ご存じのとおり日本では記事にあるような「生で食べる魚の冷凍」は義務付けられていません。
そのため、日本でアニサキスによる食中毒患者は年間2万人程度いると推定されており、日々「寿司」「刺身」で多くの人が食中毒になっています。
また、「寿司」「刺身」については、下のような誤った情報が依然としてあります。
In addition to this, wasabi also has the effect of reducing the activity of parasites. Parasites are Anisakis, which breed a lot in fish such as cod, mackerel, salmon and squid. By adding wasabi to sashimi and sushi, you can weaken the activity of Anisakis.
(訳)この他にも、わさびには寄生虫の活動を抑制する効果があります。寄生虫とは、タラ、サバ、サケ、イカなどの魚に多く寄生するアニサキスというものです。刺身や寿司にわさびを加えることで、アニサキスによる食中毒のリスクを低減することができます。
Why is Wasabi used for Sushi?, Tabimania Japan(2021年3月6日)
インターネットで誤った情報を知り、それを信じて日本で食事して食中毒になった、という人がいてもおかしくないですね。
おわりに
海外の様々なメディアでの、日本の食品の安全性についての紹介でした。
海外の人が日本の食品安全についてどのように理解しているのかわかりました。また、正しい情報もありますが、それと同じくらい誤った情報もあるのに驚きました。
多くの人が情報をSMSで得る現在では、行政機関が出した「正しい情報」よりも、SNSで話題になっている情報を信じる人も多いと思います。
私もそうですが、旅行する際に、行政機関のウェブサイトをわざわざチェックしません。それよりも、民間企業のウェブサイト、個人のブログ、SNSから情報を得ることが多いです。
そのため、寿司や鳥刺しにリスクがないといった間違った認識を持った人が海外から日本に来て食中毒にならないようにするため、行政機関と食品事業者が連携して、正しい情報を海外に向けて発信し続けなければならないと思います。
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