キュウリでなぜ食中毒が起きる?――米国の大規模サルモネラ事件から分かったこと

キュウリでなぜ食中毒が起きる?――米国の大規模サルモネラ事件から分かったこと

キュウリがサルモネラに汚染され、自主回収されているというニュースを見ました。キュウリでも食中毒が起きるのですか?

キュウリといえば、サラダや漬物などに使われる身近な野菜です。

肉や卵とは違って、「食中毒菌が付いている」というイメージはあまりないかもしれません。

ところが、米国ではキュウリを原因とする大規模なサルモネラ食中毒が繰り返し発生しています。

日本でも、お祭りで販売された「冷やしキュウリ」を原因として500人以上が発症した事件や、「きゅうりのゆかり和え」が原因で6人が亡くなった事件がありました。

それでは、なぜキュウリで食中毒が起きるのでしょうか?

実は、キュウリの汚染は畑で栽培されている段階から始まる可能性があります。さらに、収穫後の不衛生な設備や取り扱いを通じて、汚染が別のキュウリへ広がることもあります。

そこでこの記事では、米国で発生した実際の食中毒事例をもとに、キュウリが汚染される仕組みと、そこから学べる食品安全の教訓を紹介します。

目次

こんなにも起きている!キュウリが原因となった食中毒

まずは、近年、北米や欧州で発生したキュウリを原因とする食中毒事例を見てみましょう。

発生年・地域原因菌患者数原因食品
2013・米国Salmonella Saintpaul84人メキシコ産キュウリ
2014・米国Salmonella Newport275人米国産キュウリ
2015~2016・米国Salmonella Poona907人メキシコ産キュウリ
2016・米国Salmonella Oslo14人キュウリ(疫学的関連)
2018・カナダSalmonella Infantis55人キュウリ(疑い)
2014~2018・欧州Salmonella Agona147人キュウリを含む調理食品(疑い)
2024年春~夏・米国Salmonella Africana / Braenderup551人米国産キュウリ
2024年秋~冬・米国Salmonella Typhimurium113人メキシコ産キュウリ
2025年・米国Salmonella Montevideo69人米国産キュウリ

毎年のように食中毒が発生し、サルモネラが原因菌となっています。キュウリが原因の食中毒は珍しくはないのですね。

キュウリのような生鮮野菜では、原因食品の特定自体が非常に難しいという課題があります。

例えば、自分が食べた食事の原材料にキュウリが入っていたとしても、食べてから2~3週間経った後の調査で聞かれても、食べたこと自体を患者が思い出せないかもしれません。

また、患者が食べたキュウリは、調査が始まるころにはすでに消費され、同じロットの製品も市場からなくなっています。

さらに、流通経路をさかのぼって農場を特定できたとしても、そのころには収穫が終了している場合があります。

そのため、原因食品がキュウリだと分かっても、どこで、どのように汚染されたのかまでは分からないことがほとんどなのです。

ところが、2024年と2025年の米国の事件では、汚染の実態に迫る重要な手がかりが見つかりました。

なぜキュウリによる食中毒が繰り返されるのか?米国の2つの事件から考える

2024年:551人が感染―農場の「水」からサルモネラを検出

2024年、米国でキュウリを原因とする大規模なサルモネラ食中毒が発生しました。

患者数551人
入院者数155人
発症期間2024年3月~7月
発生地域34州とワシントンD.C.
原因菌Salmonella Africana、Salmonella Braenderup
原因食品米国産キュウリ
Outbreak Investigation of Salmonella: Cucumbers (June 2024)
原因となったキュウリ(FDA)

当初は2つの異なるサルモネラによる食中毒として調査されていましたが、患者の発生時期や地域、喫食歴などに共通点があったため、1つの食中毒として調査されました。

患者への聞き取りと流通の追跡から、フロリダ州のBedner Growers社とThomas Produce社のキュウリが感染源として疑われました。

そこでFDAは、両農場の水や土壌などを検査しました。

すると、両農場の農業用水から、患者由来株と遺伝的に一致する Salmonella Braenderup が検出されたのです。

Irrigation Paths: Water Channel Between Fruit Trees Under the Dusk Light.

さらに、水や土壌からは、今回の食中毒とは異なるサルモネラも検出されました。

つまり、農場環境に、複数のサルモネラが存在していたことが分かったのですね。

ただし、農業用水から患者と一致する菌が見つかったからといって、実際にその水がキュウリを汚染したと証明されたわけではありません。

しかし重要なのは、キュウリの栽培環境に、実際に人の感染と関連するサルモネラが存在していたことです。

2025年:翌年、同じ農場の包装ラインから新たな食中毒の原因菌を検出

さらに興味深いのは、その翌年の出来事です。

2025年、米国では再びキュウリによるサルモネラ食中毒が発生しました。

患者数69人
入院者数22人
発症期間2025年4月~5月
発生地域21州
原因菌Salmonella Montevideo
原因食品米国産キュウリ

この事件では、通常とは少し異なる形で食中毒の調査が進みました。前年の食中毒発生を受けて行っていた農場のフォローアップ調査が、新たな食中毒を発見するきっかけになったのです。

前年に食中毒が発生したことを踏まえ、FDAは2025年4月、Bedner Growers社の農場に立ち入り調査を行いました。

そして、4月2日にキュウリの包装ラインから環境ふき取り検体を採取したところ、食品接触面から Salmonella Montevideo を検出しました。

一方、同じころ米国内では、Salmonella Montevideo に感染した患者が複数発生していました。

FDAが農場の環境由来株と患者由来株を全ゲノムシーケンス(WGS)で比較すると、両者が遺伝的に一致することが分かりました。

この結果を踏まえ、FDAはペンシルベニア州の配送センターに保管されていたBedner Growers社が生産したキュウリを採取して検査しました。

すると、流通中のキュウリからも、患者および包装ラインで検出された菌と一致する Salmonella Montevideo が見つかったのです。

つまり、

  • 農場の包装ライン
  • 流通中のキュウリ
  • 食中毒患者

という3つの異なる場所で、遺伝的に一致するサルモネラが確認されました。

ただし、これは菌の遺伝的なつながりを示すものであり、「包装ラインが最初の汚染源だった」ということまで証明するものではありません。

さらに注目したいのは、この配送センターのキュウリから、2024年の食中毒に関連した Salmonella Braenderup と一致する菌も検出されたことです。

前年と翌年の両方で、同じ農場に関係するサルモネラ汚染が確認されたことになります。

この事件は、汚染された製品を回収して食中毒が終息しても、農場や包装施設の汚染リスクが解消されたとは限らないことを考えさせます。

2つの事件から何を学べるのか?

教訓①:収穫後に洗うだけでは、栽培中の汚染に対応できない

2024年の事件では、農場用水から患者と一致するサルモネラが検出されました。

野菜の汚染というと、収穫後の洗浄不足や、調理時の不衛生な取り扱いを思い浮かべるかもしれません。

しかし、キュウリは畑で成長している段階から汚染される可能性があります。

ここで1つ興味深い調査結果を紹介します。

研究者がキュウリの花にサルモネラを人工的に接種し、その後に成長したキュウリを調べました。

Green cucumber growing in field vegetable for harvesting.

すると、収穫したキュウリの約71~84%からサルモネラが検出されました。

しかも、菌は表面だけでなく、約22~68%の果実では内部からも検出されました。

これは、人工的に菌を接種した実験結果であり、実際の農場で同じ割合のキュウリが汚染されるという意味ではありません。
しかし、重要なことが分かります。

サルモネラは栽培中にキュウリの内部へ入り込むことができ、その場合、収穫後に表面を洗っても、その菌を取り除くことはできないのです。

つまり、農業用水や栽培環境の管理は、単にキュウリの表面を清潔に保つためだけではありません。

収穫後には取り除けない汚染を、栽培段階で防ぐためにも重要なのです。

教訓②:収穫後の機械・設備も汚染源になり得る

2025年の事件では、キュウリの包装ラインの食品接触面から、患者と一致するサルモネラが検出されました。

ここで考えたいのは、洗浄や加工、包装などの設備が持つ2つの側面です。

一つは、設備自体が汚染されていれば、そこからキュウリへ菌が移る可能性があること。

もう一つは、すでに汚染されたキュウリが設備を汚染し、その設備を通じて別のキュウリへ菌が広がる可能性があることです。

きゅうり包装ライン cucumber packing line
Chat GPTで生成

実際に、キュウリのワックス処理用ブラシを使った研究では、汚染されたキュウリからブラシへ、さらにブラシから別のキュウリへサルモネラが移ることが確認されています。

また、作業用手袋を使った研究でも、手袋とキュウリの間で菌が移動することが示されています。

つまり、最初は一部のキュウリだけが汚染されていたとしても、大量のキュウリが同じ設備に接触すれば、汚染が広がる可能性があります。

収穫後の工程は、汚染を減らす機会であると同時に、管理を誤れば汚染を広げる工程にもなるのですね。

教訓③:「設備を洗浄したこと」と「汚染が再発しないことを確認したこと」は同じではない

FDAは2024年と2025年の食中毒を受けて、Bedner Growers社に対して「Warning Letter」(警告文書)を発出しました。

この警告文書で特に注目したいのは、農場側が是正措置を実施したと説明していたにもかかわらず、その後も包装ラインの食品接触面とキュウリからサルモネラが検出されていたことです。

農場側は、環境検査や設備の洗浄・消毒、作業方法の変更などを実施したと説明していました。

しかし、FDAは、それらの対策が適切だったかを判断するための情報が不足していると指摘しました。

例えば、農場側は洗浄・消毒後に設備の拭き取り検査を実施していましたが、FDAは次のような点を問題にしました。

  • どのような方法で設備を洗浄・消毒したのか?
  • その方法は、通常の生産時にも行われるものなのか?
  • 次の栽培・収穫シーズンにも同じ対策を継続するのか?

つまり、FDAが問題にしていたのは、単に設備を洗浄したかどうかではなく、その対策が実際の生産現場で継続的に機能するのかという点でした。

例えば、設備を徹底的に洗浄した直後の検査でサルモネラが検出されなくても、通常の生産を再開すると、設備に残っていた菌が再び検出される可能性があります。

そのため、是正措置の有効性を確認するには、洗浄直後の検査だけでなく、実際の操業条件で汚染が再発していないかを継続的に確認する必要があります。

単に「対策を実施した」という事実だけでなく、「その対策によって問題が解決されたのか」を確かめる必要があるということですね。

おわりに

今回紹介した2024年と2025年の事件で、私が最も重要だと感じたのは、2024年の食中毒が終息した後も、FDAが同じ農場を調べ続けたことです。

2024年の食中毒は終息しました。しかし、それは農場のサルモネラ汚染の問題が解決されたことを意味するのでしょうか?

実際には、翌2025年の追跡調査で、同じ農場の包装ラインから新たな食中毒の原因菌が検出されました。

さらに、その菌は流通中のキュウリや患者から検出された菌とも遺伝的に一致していました。

もし前年の食中毒が終息した時点で調査を終えていたら、この汚染の発見は遅れていたかもしれません。

ここで考えたいのは、「食中毒事件が終わること」と「食中毒を引き起こす問題が解決されること」は、必ずしも同じではないということです。

患者の発生が止まり、汚染された製品が市場からなくなれば、食中毒事件としては終息するかもしれません。

しかし、農場の水や設備に汚染の原因が残っていれば、次の栽培シーズンに同じような問題が起こる可能性があります。

だからこそ、食品安全管理では、食中毒が発生したときの対応だけでなく、その後も汚染の原因が取り除かれたのかを確認し続けることが重要なのです。

キュウリによる2年連続の食中毒は、食品安全における「原因究明」「是正措置」「有効性の検証」、そして「継続的な監視」の重要性を示していると思います。

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