スーパーの万引きをAIを搭載したカメラで検知できるというニュースを見たよ。食品安全にも応用できるのかな。
技術の発展により、「AI」が様々な分野や業務に活用されています。
また、「カメラ」は従来から防犯上や事故があった際に見返す目的で設置している施設が多くあります。
フードディフェンスの観点から、監視カメラを設置している食品施設も多いのではないでしょうか。
そして、最近ではこの「AI」と「カメラ」を組み合わせた技術が登場し、実用化もされています。
それでは、食品安全分野ではどのように「AIカメラ」が活用できるでしょうか。
この記事では、AIカメラを使った将来の食品安全について考えてみたいと思います。
台湾で発生したサルモネラ食中毒
本筋に入る前に、台湾で起こった食中毒を紹介します。
2018年4月にレストランでの食事が原因のサルモネラ食中毒が発生しました。
患者数:47人(うち死亡1人)
発症日:2018年4月18日~26日(21日がピーク)
原因食品:フレンチトースト
原因菌:サルモネラ
患者の聞き取り調査から、レストランで調理された「フレンチトースト」が原因と疑われました。原因となったフレンチトーストの調理工程は以下の通りです。
4月18日~26日にかけて患者が発生していましたが、食中毒調査の専門家が、原因となったレストランに立ち入ったのは5月1日でした。
このように食中毒が起きてから、保健当局が立ち入るのに時差が生じることはよくあります。
食中毒発生から時間が経つと、食中毒が発生した時点と比べて施設の状況が大きく変わります(清掃・消毒される、残品が捨てられるなど)。
また、従業員の記憶があいまいになり、聞き取り調査を行っても正確な情報を得ることができません。そのため、食中毒発生の要因を特定することが容易ではなくなります。
そこで食中毒調査の専門家は、レストランのオーナーの許可を得て、キッチンに設置されていた監視カメラの映像(4月16~22日録画分)を確認することにしました。
監視カメラの映像を確認したところ、「従業員の行動」にいくつか問題点があったことがわかりました。
カメラの記録から分かった「従業員の行動」に関する問題点
- 卵を混ぜるボウルに卵の殻が落ち、従業員が卵液の調製中に取り除いていた。
- ボウルは営業時間中一度も洗浄されなかった。
- 卵液は調整後18時間、室温で保存された。
- 従業員は残った卵液をとっておき、3日間に渡って使用していた。
- 鶏卵、生の原材料、調理済み食品が同じ作業台に置かれていた。
- 従業員は原材料を扱った後、手を洗わずにすぐに調理を行っていた。
- パンを卵液に漬けた後、鉄板で焼いていたが、その加熱時間にはばらつきがあり、42秒~255秒であった(平均80秒)。
- 温度計で中心温度を計測しておらず、殺菌するのに十分な加熱が行われたのか不明であった。
食品安全にかかわる人なら、このような状況がいかに危険かが分かるかと思います。
上記のような要因により、サルモネラに汚染され、サルモネラが増殖し、そしてサルモネラが残存したため、この食中毒が起こったと考えられました。
従業員への聞き取り調査だけでは分からなかった「人の行動」に関する問題点が、カメラの映像を確認することで明らかになり、保健所は適切な再発防止策を指導することができました。
AIカメラで従業員の不適切な行動を検知できる?
上の例では、録画された映像を「人」が見て判断しました。
そして、人が見て判断できることであれば、現在の技術では、AI が判断することも可能です。
医療において画像診断では医師よりAIの方がより正確に診断できることは聞いたことがあるのではないでしょうか。
そして、最近では静止画だけでなく「人が動いている映像」でも AI が判断することができます。
例えば、スーパーでの万引き、車の運転中の危険な行為の検知など、様々な分野でAIを搭載したカメラの活用が進んでいます。
また、新型コロナウイルス感染症の蔓延時には、AIカメラを使って、人がきちんと手を洗ったかを検知するシステムも開発されました。
正しい手洗いの検知については、すぐにでも食品安全分野に利用ができそうですね。
このように、「人の行動」についてAIカメラが利用できるということは、食品安全分野への応用も期待できます。
どのようにAIカメラを食品安全に活用できるのかな?
皆さんご存じのように食中毒のかなりの部分は「人の行動」が原因で起きています。
例えば、手をしっかり洗わなかった、調理器具を洗浄・消毒しなかった、食品を常温で長時間放置していた、加熱工程を適切に行わなかったなどです。
なるほど。先ほどの台湾の食中毒の例ですね。
つまり、飲食店や食品工場において、従業員の不衛生な行動や事前に登録された正しい行動と異なる行動を行った際に、AIカメラで検知できるようになれば、多くの食中毒の発生を防止することができます。
AIカメラの利点として、下のようなことが考えられます。
- 多数のカメラを24時間365日 常に見ることができる。
- リアルタイムで見ているため、問題があればすぐにアラートを送ることができる。
- 人より正確に判断することができる。
同じことを人でやろうとすると、かなりの人員を配置しなければならず、難しいですね。
AIカメラを用いることで、「不適切な行動をしていた従業員にそれを伝えて教育・訓練することで再発を防止する」、「きちんと行っている従業員を褒める」、「常にみられているという意識を従業員が持つことで、より高いレベルで食品安全に取り組む」というように活用できれば、より強力な食品安全文化の醸成にもつながると思います。
おわりに
この記事ではAIカメラの食品安全への利用について考えてみました。
AIカメラを導入することで、「人の行動」が原因となる食中毒の大部分は防止できるのではないでしょうか。
また、食中毒調査でカメラの録画映像を確認することで、食中毒が起こった要因が特定できたというのも大変興味深いです。
警察の犯罪捜査の場合、防犯カメラの映像を確認することがあると思います。
それでは、保健所の食中毒調査でも調理場に設置されたカメラの映像を確認することは可能なのでしょうか。
私は法律の専門家ではないため、その可否についてはわかりません。しかし近い将来、保健所の食中毒調査や立ち入り検査でも、カメラの映像やAIカメラが利用される日が来るかもしれません。
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