アメリカの食中毒探知システムのここがすごい!

アメリカの食中毒探知システムのここがすごい!

レストランで食べた翌日に下痢になったけど、保健所に電話をするのは少し抵抗があるな。どうしよう。

みなさんは、下痢や嘔吐があって、食中毒が疑わしいときはどうしますか。

真っ先に思いつくのは、「保健所への電話」ではないでしょうか。

消費者から「〇〇という店を利用した後に下痢になった。」という苦情の電話を受けて、保健所が調査を行い、食中毒と判明することがあります。

それでは、電話以外で保健所に届出する方法はあるのでしょうか。

実はアメリカでは消費者が「オンラインフォーム」を使って食中毒を届出する方法も一般的です。

日本ではごく一部の自治体を除いて、消費者がオンラインで食中毒を届出する仕組みはありません。

そこで、先駆的にオンラインでの食中毒届出システムがあるアメリカの事例を参考に、オンライン報告のメリットを紹介します

目次

なぜ食中毒を届出することが大事なのか

そもそも保健所に食中毒かもしれないと連絡したほうがいいのかな?忙しい保健所に迷惑をかけないかな。

消費者が食中毒の疑いを保健所に連絡することで、保健所が「食中毒が起こっているかもしれない」と気づくことを、「食中毒を探知する」といいます。

そもそもなぜ「食中毒を探知する」ことが重要なのでしょうか。

以前の記事で、アメリカでは食中毒の調査に「全ゲノムシーケンシング(Whole-genome sequencing)」を導入し、調査能力が革新的に向上したと紹介しました。

しかし、いくら調査能力が向上したとしても、そもそも食中毒が起きていることに気が付かなければ、調査を行うことはできません。

そして、食中毒を探知し、調査を行うことで、被害の拡大防止や再発防止対策を取ることができます。

そのため、「食中毒の調査能力」と同じように「食中毒が起こったことを探知する能力」の向上も重要です。

届出することで保健所が食中毒を探知できるので、疑問に思ったら届出することが大切ですね。

保健所はどのような探知の方法があるのだろう?

保健所が食中毒を探知する活動を「サーベイランス」と呼びます。

通常サーベイランスには次の2つがあります。

食中毒を探知する代表的なサーベイランス

  • Pathogen-specific surveillance(病原体別サーベイランス)
    • 食中毒のような症状がある人が医療機関を受診する。検査で食中毒を起こす菌が検出され、医療機関が保健所に届出をする。
  • Complaint-based surveillance(苦情に基づくサーベイランス)
    • 食中毒のような症状がある消費者が保健所に届出をする。

「②苦情に基づくサーベイランス」の特徴として、「①病原体別サーベイランス」より「探知が早い」があります。

サーベイランスの比較

「①病原体別サーベイランス」では、病気になった人が医療機関を受診して、検査をして病原体が検出し、保健所に届出されるまでかなりの日数がかかります

一方、「②苦情に基づくサーベイランス」の場合、体調が悪くなった時点で届出できるため、保健所がより早く探知し、調査を開始することができます。

保健所が調査を早く開始できると、病気になった人の記憶がまだ鮮明で、最近食べた食品や外食先を正確に思い出すことができます。

1週間前の食事内容を思い出すことは難しいですが、2日前なら思い出せる可能性が高くなります。

また、早く探知した方が、早く調査を開始することができ、早く食中毒の発生源を特定することができます。早く食中毒の発生源を特定できると、被害の拡大防止につながります。

このように、消費者から保健所に届出することで、多くの食中毒の解決、被害の拡大防止につながっています。

ミネソタ州の事例紹介

アメリカでは多くの自治体が「オンラインでの食中毒届出システム」を導入しています。

ここではミネソタ州のシステムを参考に見てみましょう。

ミネソタ州では、1998年から、電話(通話料無料)で食中毒を報告するホットラインを開始しました。

その後、電話に加えEメールで報告する仕組みが追加され、そして、2017年からはオンラインでの届出システムがスタートしました。

オンラインフォームには、届出人の情報、症状、過去4日間に食べたものの履歴、利用した飲食店で食べたもの、その日時などを入力します。

下の表は、ミネソタ州に届出された方法の2018年と2021年の比較です。

届出方法20182021
電話66%49%
オンラインフォーム34%51%
苦情に基づくサーベイランスの報告方法の変化(Kim et al. のTable1を一部改変)

2018年はオンラインフォームが開始した翌年です。電話が66%とオンラインフォームの倍近い届出数でした。

それが、コロナウイルス感染症拡大の影響があるかもしれませんが、2021年にはオンラインフォームの方が届出割合が多くなりました。

オンラインでの報告の方が多くなったんだね。

届出者の平均年齢は、電話が46歳だったのに対し、オンラインでは39歳と、年齢が若い人の方がオンラインで届出する傾向がありました。


次に、症状が始まってから届出するまでの日数を見てみます。

方法症状が始まってから届出するまでの日数(平均)届出時にまだ症状が
あった割合
電話4.2日44%
オンラインフォーム2.9日69%
発症から届出までの日数(Kim et al. のTable1を一部改変)

オンラインの方が電話より平均1日以上早く届出していたんだね。

発症から届出までの日数が短縮されるのは、食中毒調査においてとても重要なことです。

食べたものの遡り調査では、発症から日数が経っていない方が、記憶がより鮮明で、正確な情報を保健所に伝えることができます。

また、症状が治まっていない方が検便などの検査で原因菌を検出しやすくなります。


どうしてオンラインの方が発症から届出するまでの日数が短かったのだろう。

オンラインの方が早かった理由として、時間を気にせず報告できる点があります。

行政機関が開いている9時~17時だと、働いている人だと電話ができないことがあります。かといって深夜に電話することをためらう人もいるかもしれません。

また、自分のペースで届出できるため、電話に比べ、届出することへの精神的負担が低いのかもしれません。

オンラインフォームの誰にも迷惑をかけず、いつでも届出できる手軽さが、より早い届出につながったのですね。

ミネソタ州ではオンラインフォームでの届出にさらに改良を加え、2023年からは英語の他に、3つの言語を追加しました。

これにより、英語での届出に抵抗がある人、また英語で届出できない人からも情報が寄せられることが期待されています。


今回はオンラインでの食中毒届出システムを紹介しました。

コロナの影響もあり、オンラインで料理を注文する、会議に出席するなど、オンラインで何かすることへのハードルは低くなっています。

そのため、オンラインフォームでの食中毒の届出は非常に有効な「探知」の手段です。

オンラインは電話での届出に代わるものではなく、電話とともに食中毒探知の強化につながる手段です。

アメリカでは今回紹介したようなオンラインフォームだけでなく、口コミサイトX(旧Twitter)に投稿された内容から、食中毒を探知するという方法も導入されています。

これらの方法での探知は、食中毒とは関係のない情報が多くなってしまうと、行政の資源を無駄に使ってしまい、本当の食中毒の探知に繋がらないかもしれません。

しかし、現在AIが急速に発達しており、より高度な言語処理ができるようになっています。

そのため、AIを活用し、関係のない報告(ノイズ)を除去できれば、保健所職員が効率的に食中毒を探知できます。

また、AIを使って大量の情報の中から関係性を見つけることができれば、今まで気づかれなかった食中毒の探知につながるかもしれません。

アメリカでの探知方法の今後の発展には目が離せません。

そして、日本においてもオンラインフォームや口コミ、SNSを活用した探知システムが導入されることを期待しています。

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