

コーデックスで新しいアレルゲン表示のガイドラインが採択されたというニュースを見ました。そもそもコーデックスとは何ですか?また、アレルゲン表示の何が変わるのでしょうか?
食品安全に関するニュースを見ていると、ときどき「Codex(コーデックス)」という言葉が登場します。
例えば、
「コーデックスが新しい食品表示のルールを採択した」
「コーデックスで食品添加物の基準が議論された」
といったニュースです。



しかし、食品業界で働いている方でも、「そもそもコーデックスって何?」と思う方は多いのではないでしょうか。
今回は、食品安全の世界で重要な役割を果たしているコーデックスについて分かりやすく解説するとともに、最近採択された新しいアレルゲン表示のガイドラインについて紹介します。
Codexってよく聞くけど何?
現在、私たちが食べている食品の多くは、国境を越えて作られています。
例えば、スーパーで販売されているクッキーを考えてみましょう。


クッキーの場合、以下のようにして私たちの手元に届きます。
① アメリカで小麦を生産
② オーストラリアで乳製品を生産
③ それらをタイの工場でクッキーに加工
④ 完成したクッキーを日本に輸入して販売



一つの食品が私たちの手元に届くまでに、いくつもの国が関わっているのですね
現在のサプライチェーンは、国境を越えてつながっています。
では、それぞれの国で食品の基準がまったく違ったら、どうなるでしょうか?
「この国では、この食品添加物は使える。でも、別の国では使えない」
「この国では、この量の残留農薬なら問題ない。でも、別の国には輸出できない」
このようなことが頻繁に起これば、食品の安全を管理することも、国と国との間で食品をスムーズに取引することも難しくなります。
そこで必要になるのが、食品に関する国際的な共通基準です。



そして、その役割を担っているのが「コーデックス」です。
コーデックスとは?
Codexの正式名称は「Codex Alimentarius(コーデックス・アリメンタリウス)」です。ラテン語で「Food Code(食品規格)」という意味です。


そして、コーデックスの国際的な食品規格を作っているのが、「Codex Alimentarius Commission(コーデックス委員会)」です。
コーデックス委員会は、1963年にFAO(国連食糧農業機関)とWHO(世界保健機関)によって設立されました。
コーデックスには、大きく2つの目的があります。


① 消費者の健康を守ること
世界中の人々が、より安全な食品を食べられるようにする
② 食品の公正な貿易を確保すること
国ごとのルールの違いによって不公正な貿易が行われないよう、食品を公正に取引できる環境を整える



つまりコーデックスは、「食品の安全」と「食品の国際貿易」の両方を支える、世界共通の食品ルールと考えると分かりやすいでしょう。
コーデックスは何を決めている?



コーデックスは食品のどのようなことを決めているのですか?
コーデックスが扱っているテーマは、実は私たちの食生活と深く関係しています。
例えば、次のようなものがあります。
- 食品衛生
- HACCP
- 食品添加物
- 残留農薬
- 食品中の汚染物質
- 食品表示
- 食物アレルゲン
- 栄養
- 輸出入食品の検査
例えば、食品安全に関わる方であれば、「HACCP」を知っている方も多いと思います。
日本でHACCPに沿った衛生管理が制度化された際にも、「コーデックスのHACCP」の考え方が取り入れられています。



つまりコーデックスは、私たちが普段目にする食品の「安全」や「表示」の裏側にある、国際的なルール作りに深く関わっているのです。
コーデックスで決まったら、日本のルールも変わる?



それではコーデックスで決まったことは、日本でもすぐに義務になるのでしょうか?
ここは、コーデックスを理解するうえでとても重要なポイントです。
コーデックスで基準やガイドラインが採択されても、それがそのまま日本の法律になるわけではありません。
例えば、コーデックスが新しい食品表示の基準を採択したとしても、「明日から日本でも新しい表示が義務化される」というわけではありません。
日本には、食品衛生法や食品表示法など、独自の法律や制度があります。そのため、日本のルールを変更する場合には、国内で必要な検討や手続きが行われます。
一方で、コーデックスの基準は、各国が食品安全や食品表示の制度を作ったり、見直したりするときの重要な国際的な基準となります。


また、国際的な食品貿易においても、コーデックスは重要な役割を果たしています。



そのため、コーデックスで新しい基準やガイドラインが採択されることは、「世界の食品安全ルールが、これからどちらの方向に進んでいくのか」を知る重要な手がかりになります。
そして今回、コーデックスが新たな考え方を示したテーマの一つが、食物アレルゲンの表示です。
特に注目したいのが、「May contain(~を含む可能性があります)」などと表示する PAL(Precautionary Allergen Labelling:予防的アレルゲン表示)の考え方です。
それでは、これまでのアレルゲン表示と何が変わるのでしょうか。
次から詳しく見ていきましょう。
新しいPAL(予防的アレルゲン表示)の考え方
海外の食品パッケージで、「May contain peanuts(ピーナッツを含む可能性があります)」といった表示を見たことはないでしょうか。
これは、PAL(Precautionary Allergen Labelling:予防的アレルゲン表示)と呼ばれる表示です。


PALは、原材料として使用していないアレルゲンが、製造工程での交差接触(cross-contact)などによって意図せず食品に存在するリスクを、食物アレルギーのある消費者に伝えるために使われます。
しかし、これまでPALには大きな課題がありました。
それは、「どの程度のリスクがあればPALを表示するのか」について、国際的に統一された考え方が十分に整備されていなかったことです。
そこでコーデックスは、PALをより科学的で一貫した方法で使用するため、新たな国際ガイドラインを策定しました。
そもそもPALとは?
例えば、ピーナッツを原材料としてクッキーを作った場合、ピーナッツは意図的に使用した原材料なので、アレルゲンとして表示する必要があります。
一方、ピーナッツを原材料として使っていないクッキーでも、同じ製造ラインや設備でピーナッツを含む食品を製造している場合、意図せずピーナッツが混入することがあります。
これが「交差接触(cross-contact)」です。
海外では、このようなリスクを消費者に伝えるために、「May contain peanuts」などのPALが使われています。
つまりPALは、原材料として意図的に使用したアレルゲンを表示するものではなく、意図しないアレルゲンの存在リスクを伝えるための表示です。


「May contain」と書いておけば安心?
食物アレルギーのある人を守るためなら、「少しでも混入する可能性があれば、すべての商品に “May contain …”と表示すればよい」と思うかもしれません。
しかし、それでは別の問題が生じます。



例えば、ある食品工場で1000種類の商品を作っているとします。 その工場でピーナッツを使った商品を1つ製造しているという理由だけで、残りの999商品すべてに「May contain peanuts」と表示したらどうなるでしょうか。
実際には交差接触のリスクがほとんどない食品にも「May contain」と表示されれば、食物アレルギーのある人はその食品を避けることになります。
その結果、本来は安全に食べられる食品の選択肢まで減ってしまう可能性があります。
また、「May contain」表示があまりにも多くなると、「また “May contain” か。たぶん大丈夫だろう」と、消費者が表示を軽視するようになる可能性もあります。



つまりPALは、少なすぎても問題ですが、多すぎても問題なのですね。
これまでPALについては、「どの程度のアレルゲンが存在する可能性があれば表示するのか」という判断が、必ずしも統一されていませんでした。
その結果、「混入する可能性を完全には否定できないから、念のためMay containと表示しておこう」という使い方につながることがあります。
しかし、単に同じ工場でアレルゲンを扱っているというだけで、すべての食品にPALが必要になるわけではありません。
重要なのは、実際にその食品に交差接触が起こる可能性があるのか、そして、それが消費者にとってどの程度のリスクになるのかです。
コーデックスが示した新しい考え方
今回Codexが示した考え方を簡単に言えば、
「念のためPALを表示する」から「リスクを評価してPALを表示する」という変化です。
基本的な流れは、次のようになります。
交差接触の可能性を把握
↓
適切なアレルゲン管理を実施
↓
それでも残るリスクを科学的に評価
↓
必要な場合にPALを表示
つまり、PALはアレルゲン管理の代わりに使うものではありません。
まず、原材料の管理、製造スケジュールの工夫、製造ラインの分離、適切な洗浄、従業員教育などによって、交差接触をできるだけ防ぎます。
そのうえで、それでも残るリスクを評価し、必要な場合にPALを使用するという考え方です。


「あるか、ないか」ではなく「どのくらいあるか」へ
コーデックスの新しい考え方でもう一つ重要なのが、アレルゲンを単純に「入っている可能性があるか、ないか」だけで判断しないことです。
例えば、ごく微量のアレルゲンが検出されたとしても、それだけで直ちにPALが必要になるとは限りません。



重要なのは、「その食品を食べたときに、どの程度のアレルゲンに曝露されるのか」という考え方です。
同じ濃度のアレルゲンが含まれていても、一度に食べる量が10gの食品と200gの食品では、体内に入るアレルゲンの量は異なります。
そこでコーデックスの新しいガイドラインでは、「Reference Dose(参照用量)」という考え方が重要になります。
Reference Doseとは、簡単に言えば、ほとんどのアレルギー患者に症状を引き起こさないと考えられる摂取量です。
このReference Doseと、「一度に食べる食品の量」をもとに「Action Level(アクションレベル)」を設定し、PALを使用する必要があるかを判断します。
- チョコレート1食分 = 50 g
- 落花生のReference Dose = 2 mg
の場合、
Action Level = 2 mg ÷ 0.05 kg = 40 mg/kg(40 ppm)
となります。
つまり、落花生の推定混入量が40 ppmを超える場合はPAL表示を検討し、それ以下ならPALは不要という考え方になります。
つまり、単に「アレルゲンが検出されたからMay contain」とするのではなく、実際にどの程度のアレルゲンに曝露される可能性があるのかを考えて判断する方向へと変わったのです。



PALは、単なる「念のための注意書き」ではなく、科学的なリスク評価に基づく表示へと変わろうとしてるのですね。
「May contain」の意味が変わる?
コーデックスの考え方が各国で採用されれば、「May contain」という表示の意味も変わっていく可能性があります。
これまでは、「混入するかもしれない」→「念のためMay contain」という場合もありました。
これからは、交差接触の可能性を把握 → 適切なアレルゲン管理 → 科学的なリスク評価 → 必要な場合のみPAL という考え方になります。
つまり、「念のための表示」から「リスクに基づく表示」へという大きな変化です。
これによって、「May contain」と表示されている食品は、本当に注意が必要な食品であるという、表示への信頼性が高まることが期待されます。


日本の食品表示はすぐに変わるの?
コーデックスが新しいPALの考え方を示したからといって、日本の食品表示制度がすぐに変わるわけではありません。



現在、日本では「○○を含む可能性があります」といった可能性表示は認められていません。
一方、「本品製造工場では○○を含む製品を製造しています」といった、製造環境に関する注意喚起表示は認められています。


この日本の注意喚起表示と、コーデックスが示すリスク評価に基づくPALは、同じものではありません。
一方で、コーデックスの基準やガイドラインは、各国が食品表示制度を検討する際の重要な国際的な参考になります。
そのため今後、日本でも「交差接触によるアレルゲンのリスクを、消費者にどのように伝えるべきか」という議論に、コーデックスの新しい考え方が影響を与える可能性があります。
食品事業者にとっても、単に「同じ工場でアレルゲンを扱っているから注意書きを付ける」というだけではなく、「どこに交差接触のリスクがあるのか」、「そのリスクを適切に管理できているのか」、「管理した後に、どの程度のリスクが残っているのか」を考えることが、これまで以上に重要になってきます。



私の工場でも「念のため」の注意喚起表示をしていました。今後はコーデックスのPALの考え方を参考にしようと思います。
おわりに
PALは、食物アレルギーのある人の安全を守るための重要な情報です。しかし、表示が多ければ多いほど安全になるわけではありません。
必要以上にPALを使用すれば、食べられる食品の選択肢を狭め、表示への信頼を低下させる可能性があります。
一方で、本当にリスクのある食品にPALがなければ、健康被害につながる可能性があります。
だからこそ重要なのは、「念のため表示する」のではなく、「リスクを評価して、必要なときに表示する」という考え方です。



コーデックスが示した新しいPALの考え方は、「May contain」という表示を、より科学的で、本当に意味のある情報に変えていこうとする取り組みなのですね。



日本の食品事業者にとっても、まずは自社の製造工程のどこにアレルゲンの交差接触リスクがあるのかを把握し、適切に管理したうえで、それでも残るリスクをどのように評価し、消費者に伝えていくのかを考えることが、これまで以上に重要になってきます!









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